第26話≪ハルの章⑤≫【HERO】ー『平和の指輪』の回想ー

地球の暦にして西暦2016/12/28、雪の降りそうな寒さの中、まだ医学生にもなっていない小学生の一人の少女は一人、新幹線に飛び乗り何故か広島に来ていた。

秋口の沖縄修学旅行の折で、第二次世界大戦すなわち太平洋戦争時、沖縄のひめゆり学徒隊の存在を知り、看護師の女性達が戦争で傷を負った兵隊の手当を防空壕の中でウジが湧き、腐乱臭の漂う空間の中で必死に看護し、負傷した兵隊の壊疽して全身が病魔に侵されていく治療法は斧で脚や腕を切断するという手段しかなかった当時、彼女たちは切断の激痛で兵隊たちの悲痛な叫び声で防空壕に響き渡るのを聞きながらも黙々と処置し続ける仕事をしていた。最後は米軍に息をひそめた防空壕の中に手榴弾で全員死ぬという事実を戦時中の「本当にあったこと」を伝承し続ける一人の女性の話を聞いて、この少女は幼いながらも大きショックを受け、涙を流しながらひめゆりの塔に黙祷した。

現代医療では戦時中に使われていたあらゆる生物を殺すために生まれた科学兵器が、顔を変えて人を治すための医療機器になっている。少女は肉親にも親戚にも医療従事者はいなかった。しかし、医学や科学に天文学、毎日のように図鑑や偉人の伝記を読み耽るこの少女の知的好奇心はとどまることを知らず、実際に積極的にアクションを起こしてしまうほどの勢いである。

男尊女卑という言葉で虐げられ弾圧されてきた勇敢な女性は世界中に沢山いる。その女性たちの存在があるからこそ、私は男の子とも普通に遊んだりもできるんだ。少女は家の伝記や伝承記、美術書、図鑑を片っ端から読んではいろんな考えを幼いなりに小さな頭の中に巡らせていた。そして「はだしのゲン」も隅から隅まで読み込み、どうしてこんなことが昔にあったのかな…とずっと疑問に思う。


『   ーWhy?   』
—ねぇ、どうして?


そもそもこの少女はなぜこの凍えるような寒空の下、広島に来たのだろう。


朝付けたテレビでは次世代の戦争のことに巻き込まれていない次世代のこどもたちまで戦争の爪痕の「謝罪」をしていく必要はなかろう、「和解」で「未来」を築き上げる、そんな真珠湾攻撃という歴史で犠牲者に追悼するとともにとある国々がある「宣言」をするニュースばかりが流れる。

満州事変や盧溝橋(ろこうきょう)事件で女性を強姦した上に銃で連打して多くの人間を大量殺戮して「勝利」を自国の「神の象徴である天皇」のために、残虐な行為は「愛国心」という「輝かしい忠誠心」で美化されたマインドコントロールに洗脳された日本兵たちと「勝つまでは欲しがりません」と叩き込まれる国民たち。

空襲で焼け野原になった場所には今では何事もなかったかのように平和にビルや店が立つ。
大阪市北区にある大阪市役所に隣接する扇町公園の一角に不思議な場所がある。地図をみるとそこだけなぜか異様に何かを隠すように意図的に工事されている様にきっちりみえる。これは大阪大空襲で死んだ人々の亡骸を当時の防空壕に埋め、その上に公園をつくったという噂はひっそりと町民で言い伝えられ、夜のその周辺には幽霊がでるから一人夜道を歩くのはやめんさいとこの少女は大阪に住む祖母から教えてもらった過去がある。

私たちの世代は「戦争」を知らない。

私たちが大昔の知らない先祖の人たちの責任を負い続け、「謝罪」していくことをもう終止符を打ち、「平和」の波紋を世界全体に拡げていく。世代がなんまわりも歳上の方々の一部がそういう風に私たちのことを想って行動しているのは理解できる。

けれども、戦争とは関係ないから自国の歴史を知らぬまま、生きていっていいのだろうか。

歴史から何かを学び、過ちや悲惨さを繰り返さないように、私たちは「真実」を知らぬままこの先の未来を歩いていくことはどうなのだろう。
誰かが伝承してくからこそ、悲劇を繰り返さないように誰かが声をあげて「悲惨な歴史の繰り返し」を止めることができるのではなかろうか。

少女は千羽鶴を朝から懸命に一人で100羽折って、一本の糸で通したカラフルなものを広島の原爆ドームに捧げに来た。

自国で昔の戦争について何があったのか「真実」を私はもっと知ってみたい。
そして、この先も「平和」に地球全体の人種も言語も文化も国境の壁も乗り越えて握手し手を繋ぎあい、「一つの輪」がいつの日かできるようにしたい。
大人たちは隠さないで「本当のこと」を教えてほしい。
例え、その「真実」を知った先には「絶望」しかなかったとしても、私はきっと這い上がれるはず。

「平和の指輪」。

黙祷を捧げる少女の隣にピンク色の長髪サラサラ風に揺らし、全身純白の服に帽子、手袋、靴を着用した美しい女性がいつの間にか立っていた。胸元にはアゲハ蝶のような紋章が刺繍してある。
少女はその不思議な女性を見上げる。
不思議な女性は少女をみて優しく微笑み、純白のダッフルコートから一つのペンダントのようなものを取り出し、少女にゆっくりと差し出す。

少女は何故か恐怖心はなかった。この見知らぬ美しい女性は何処からきて何処へ行く者なのだろう。
そして女性の手袋の上にのったキラリと光る美しいペンダントに目を奪われる。ネックレスには金色の指輪が通されている。

「今日、私があなたとあった奇跡の証に私の宝物の一部をあなたに上げる。これは『平和の指輪』。あなたは将来素晴らしい科学者になると思うわ。そして何かトラブルに巻き込まれたときこのペンダントは、必ずあなたを守るお守りよ」

占い師のような不思議な言葉を柔らかい口調で言葉を紡ぐ美しい女性は少女の首にペンダントを優しく身に着けてくれる。
指輪には見たこともない「文字」のようなものが刻まれている。

少女は目を奪われるような美しい女性から、このような素敵なものをもらって顔を赤くしながら
「あ、ありがとうございます!」
とお礼をいう。

美しい女性はにっこり微笑むと「またどこかで会うかもしれないでしょう」と謎めいた言葉を残し、ゆっくりその場から立ち去る。

少女は突然の夢のような出来事の余韻にポ―っと浸る。

原爆が落とされたときの爪痕で建物や人、鳥の「影」が残り、投下されたときの時刻を長針と短針は指したまま。

少女はこのペンダントは一生肌身離さずつけておこう。そうして少女はまた新幹線に乗って「あの場所」へと帰る。


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