小説×詩『藝術創造旋律の洪水』[chapter:≪魔界猫達による革命裁判の章①≫-統制の拒絶からの楽園の真髄ー第21話]

「今から最終最高裁判を始める」

雄の黒猫最高裁判官裁判の一人のダダが『革命裁判』の陪審員の魔女猫達に声をかける。

場所は中世ギリシャのスパルタ郊外、ビザンティン帝国城塞都市ミストラのアフェンディコ。聖母オディギトリアに捧げられた教会で地球の西暦にて14世紀前半に建築されたものであり、ドーム内には巨額の歳月を費やしたフレスコ画や壁画で荘厳さを増している。天井からグレゴリオ聖歌とともに、詩人エルフたちが熱烈に愛国歌を謳い飛び交い、空中には戦闘場面が描かれペロポネソス戦争の殺戮をちらつかせる壺が白鳥の翼や燕の翼を羽ばたかせて踊る。

「ララは出廷していますか?」

気高くプライドの高さと気品さでは三毛猫のミケといい勝負の白猫の雄のツァラがマタタビパイプの煙をくゆらせながら眉を顰める。ララとは天然な性格のおっとりしたお嬢さん茶白猫である。

「ツァラ、まぁそんなカリカリすんなって。また藝術的発作なるものでも起こしているのだろう」

ピカビアと名乗るショートカットでパンツスーツがきりっと似合う雌のタイから遠征してきたシャムネコが男勝りに諭す。

「被告人の弁護よりも法廷から有罪判決でいいのでは?」

単刀直入にズバッとした結論を言うのはセクシーで妖艶な処女神、お馴染み三毛猫のミケである。長い脚を組んで深々とソファに座りながら腕を組んでそこにいるものを桃色の色気で瞬時に悩殺する勢いである。

「有罪としたものは『ヒトは城なり』の*スパルタⅤ条例に則り法的に裁く事を審議致す」

スパルタの5つの残酷な教訓がルーン文字で書かれた、ムーン大陸の世界地図をバッと両手で会場にいる全員のものに見えるように雄のノルウェージャンフォレストのブルトンが長毛で優雅さを振りまきながら巨体を張る。

正解とは何だろう?正義とは何だろう?
何故、嘘か真かを世の中ではシンプルに法で裁く事が出来ないのだろうか。
知れば知るほどありとあらゆる統制を拒否したくなる。
正解がないからこそ法や掟、秩序というものでヒトの言動を縛らなければ世界は欲望の渦に巻き込まれ地球という惑星は核兵器により文明も文化も時も存在も何もかもが不透明になくなってしまうだろう。

ミケはやれやれと内心思いながらも涼しい顔を装う。早くうちに帰ってハルといちゃこらしたいにゃーん。男ってホントめんどくさいんだから。この世の中に綺麗な男なんているのかしら。なぁにがスパルタ教育なの。語源のルーツを辿れば殺人とほぼ同定義じゃないの。

険しい山々の麓に広がる町スパルタでは、いたるところの柱や壁に「精神の安全の侵害の裁判」についてのポスターが貼られ、町民たちは恐怖と憤怒で『犯人共は皆死刑にせよ』という被害者の保護者を含む死刑判決の署名を募りながらデモ行進隊から多くのビラがまかれ、女性たちは家から出ないように安全な場所に避難せよという緊急勧告が国境を越えてバチカン市国のこの世の民を愛する法王から出るくらいの大事態になっている。

事件の内容はこのような内容だ。10代のツキの時期で最中のある女性15名が満月の夜に獣と渇した同一の漢に幾度も輪姦された上に山の中に裸でほぼ意識不明の重体で発見され、異常な性癖を持つ主犯格の漢の家宅捜査をすると、冷蔵庫からはまるで子宮の形をした何種類物のガラス容器から、被害者の女性の血液と思われるものが発見されるという身の毛がよだつ極めて残酷でグロテスクな猟奇事件である。主犯格の漢は
「月経中の女の血を飲めば不死身になれると悪魔からきいたからやった」
という意味不明且理解不能で思わず悪心がするようなことを供述しており、精神鑑定の結果、犯人の漢は何も異状なしとのことで死刑判決の最終審判に至るということである。

「全く遺憾なことだ。スパルタでは男どもは兵役で30歳になるまで兵役生活を送れと尚務第一というリクルゴス制度を犯した上にこのような背筋も凍るような残虐なことをするとは、もはや人にの形をしたメフィストフェレスだ」
大惨事の出来事に目頭を押さえながら茶トラ猫のアラゴンが言う。

「この裁判は最後の判決を仕切るために、茶番と化しないように諸君は襟を再糺せよ」
ダダの言葉に引き続き、余裕の大遅刻で出遅れてきたほんわか天然娘の茶白猫のララがふんわりメルヘンなワンピースと髪飾りにポーチの姿で「はわわわわ」と自分の席に座り、襟元を急いでただす。

黒猫ダダは続いて名を呼ぶ。

「検事デセーニュ(スフィンクス♂)、弁護人アラゴン(茶トラ猫♂)とスーポ―(マンチカン♀)、証人リゴー(ラグドール♂)、そして法を犯し残虐な行為をもって神聖な世界を穢した無名戦士ペレよ、ものものの位置に配座せよ」

強姦で被害にあった女性が警察など被害にあったことを供述することをセカンドレイプという。そのため被害者は心身の安全のために、安静できる場所にいてもらい、代わりに代弁者となるものを数人立てて裁判は進行する。

猟奇事件の主犯格である漢の無名戦士ペレの姿ガスマスクを身に着け、両手を手錠で縛られた姿を見るなり白猫雄のツァラが巧みに嘲弄しはじめる。
彼は黒猫の裁判長ダダに向かっていう。

「わたくしは裁判というものを全く信用していません。例えそれが、我らがボスのダダ様による裁判であってでもです。裁判長殿、あなたもわたくしと同じくお認めになるでしょう。わたくしたちは皆同じ分子、元素、粒子の奇跡の進化という塩基配列からみればウラシルで転写される卑劣漢の仲間でしかなく、その卑劣さの大小など度合は量子力学的に天秤に実体として重さを計測できるものではありませぬ。つまりどうでも良いのです。こやつは議論、ディベートの祀り上げは無用であり、問答無用で死の「楽園」に追放すべきでしょう」

予期しない展開に困り果てた黒猫裁判長ダダは、眼を閉じそしてゆっくり瞼を開くと瞳孔をカッと散大させ白猫ツァラにこういう。

「証人は、まったくの愚か者とみなされたいのですか。そなたはそもそもここに何をしに来たのだ。討論を邪魔するものは我々の神ゼウス様及びその娘のツキ様の誓約に違反するがね」

白猫ツァラは、ふんっとダダを睨むと冷静に言葉を返す。

「その通りです。わたくしは全くの愚か者とみなされたいのです。でもわたくしが人生を過ごしているこの【収容所】から逃げ出したくありません。」

これはあらゆるこの世の「統制」を拒否する「純粋な愚かさ」を皮肉ったものね。
ミケはツァラの傍から見聞きすれば呪文のような「告発」を脳内で翻訳する。

幾何の討論が繰り広げられた後、死刑判決が下され、死の国の番人の無数の骸骨たちが番人ペラを地獄の奈落へと突き落とす。

最後にそこにいる者は終わりの言葉を詠唱する。

Tapa tapa tapa
Pata pata
Maurulam katapultiem I lamm
Haba habs tapa
Mesopotaminem masculini
Bosco & belachini
Haba habs tapa
Woge du welle1
Haha haha

―⦅詩いう表現形式は、言語をさまざまな約束事から解放し、その可能性を押し広げる役割を持っている。創造的な藝術家と破壊する「汚い」人間の対比よ…⦆

「精神的及び肉体的大罪を犯した者は然るべき地に流れ着き処刑という名の裁きを受けるがよい」
白猫ツァラはミケにふふんと目くばせすると、エレガントな白いマントに包まれるようにして人間界に消えてしまう。

「うげ――――男ってほんと、最低っ!」
ぷんすかぷんすか頬膨らませながらミケはハルの自宅へと魔界と人間界を結ぶ異次元ダクトの扉を開きふぅわふぅわ飛んでいく。

*[スパルタⅤ条例(実際のスパルタ教育の語源のもとになったものより引用) ]
ⅰ.赤子の産湯はワイン:アルコールで痙攣をおこす者は虚弱児。虚弱児は国家の利益にならないので近くのタイゲストス山に捨てよ
ⅱ.7歳になると国家の集団養成所に強制入学。義務教育は軍事訓練:ほとんど裸同然で一日一食。読書、計算、歌、舞踏とともに体育に励む
ⅲ.成人男子は10日に一度の裸体検査:肥満と色白は怠惰の証拠として処罰される
ⅳ.散歩禁止令:スパルタ人たる者は散歩ではなく鍛錬によって健康を維持すべし
ⅴ.母親は戦士した我が子の遺体を検査:向こう傷が多ければ祖先代々の墓に埋め、後ろ傷が多ければ共同墓地に埋葬するため放置する

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