小説×詩『藝術創造旋律の洪水』[chapter:≪ロキの章①≫ー9つの世界の統括者全知全能の神オーディン【ゼウス】ー第24話]

「あ~あ、僕の美形の台無し姿、オーディン様にみせられないよ~」
海上も空も自由自在にアイススケーターのように滑らかに、そして光速よりも早い音波を突き抜けるスピードで、ロキは9つの世界を結ぶダクトのうちの一つである第二層人間界から第三層ヘルヘイムめがけて奔る。
炎の国と氷の国に挟まれた地獄の国ヘルヘイムは東はメラメラとどのようなものも一瞬で溶解してしまう烈火の山脈、西は一歩踏み込めば氷柱に飲み込まれ氷漬けにされる氷柱の森で国境を隔たれている。
ロキは彼岸花で鬱蒼とした三途の川の前にあるヘルヘイムの扉に着陸する。地獄の番人の女神ヘルが怒号をあげる。

「なぁにそれ!お父様ったらみっともない姿!」

ロキは娘のヘルに余計なことを言わずにとっとと再生してくれよと懇願し、一輪の血のような色の薔薇を森羅万象の王オーディン【ゼウス】から引き継いだ魔術でパッと出し、ヘルに甘い顔をして差し出す。
「旨いもの、パパと食べたいだろう?」

ヘルはロキを汚いものを見る目で睨み、すかさず毒を吐く。
「まーた、お父様の嘘の口論がはじまった!めんどくさい!あーもう!めんどくさいから、とっとと再生したら私の目の前からさっさと失せて!」

そしてヘルは蘇生術のために9つの世界から連れてきた生贄たちを鎖を繋いだ馬車から降ろし、強制的にロキの周りに立たせる。

「ちぇっ!もっと自由にさせておくれよそこの姉ちゃんよう」
唾をぺっぺっと吐きながら、巨人の国から拉致された全身鎖まみれのヒエロ二ムス・ボスがヘルに悪態をつく。

「おだまり!!」
ヘルが一喝すると、ボスの口からありとあらゆるユーモラス溢れるキャラの濃いグロテスクな小さなモンスターたちが、ぴょこんぴょこん嬉し楽しやと次々飛び出し、小人たちはヒヒっヒヒっと蜂蜜は何処だ何処だと跋扈し、ボスの身体にコインよりも小さな金銭のモンスターが蚊の麻酔針ほどの楯斧をぷすりと刺して鉄棒の大車輪や逆上がりをしたりサルのようにきぃきぃ喚き遊ぶ。足の生えた魚はビチビチとボスの周りを魔除けの聖歌らしきものを愉快に鼻歌しながらぐるぐるスキップし、空飛ぶ魚はボスの頭上を粘液を飛び散らせながら旋回する。

「ボスさん、またまたすごい数の奇妙奇天烈なモンスターですのう」
明治初期の江戸からボスと同様に連れてこられた速描き達人、人気実力ナンバーワンの河鍋暁斎(きょうさい)が、がははっはと大笑いする。暁斎の周りは曲芸に夢中な人間の手と足をもった猫、ネズミ、蝙蝠たちが、それそれそれそれそれ!とソーラン節を踊り、アクロバットし、幽霊とひゃはー―と悪ふざけし合う。

「ほっほっほ。暁斎さん、まぁ今度例の鏡を使って泉にモンスターや妖怪の大サーカスでも催しましょうや」
ボスは上機嫌に暁斎と地獄で共通の言語で会話しあう。

「さっさとおやり!!!」
ヘルの頭に血が上り、9人とも死の国から帰らぬ人となるような青白い炎を全身から噴出する。

ひいいいいいと9つの国からさらわれた来た者たちは涙を流す。

ぽた ぽた ぽた

9つの者の涙が落ちると輪の中心のロキはみるみるうちに細胞が再生し、血管、神経、筋肉が再生し、あっという間に真皮に包まれた体は再び黒スーツをピシッと纏い、麗しき美青年が完成する。

「ヘルよ、愛してるよ」
娘に投げキッスをするとロキはゴぉっと天空へまた第二層のダクトそして妖精エルフに変身して虹の橋を難なく通過し第一層のアース神族の神々の国へゆく。

「ハハハハハハハ!!!我こそは不死鳥なり!!!!」
ロキは爬虫類と鳥類の進化の分かれ目になった始祖鳥の翼を広げながら長い両腕を広げ、意気揚々と黄金の形をした貪欲の黒い小人を人間の国に爆弾のごとく落下させる。
そして、魔術と呪術の師匠、オーディン【ゼウス】のもとへ空を走る靴でテレポートする。
妻のヘラが何度も何度も火山を噴火させ、地球全体に地震をおこして大陸を分割するほど激怒しても、浮気し放題のどうしようもない能天気な全知全能の神、オーディンまたの名をゼウスとも呼ぶ最高神が酒池肉林の美女の泉で日夜関係なく遊んでいる。

ロキはクレオパトラに変身し、オーディンのもとへ近寄る。

「オーディン様、今日も麗しゅうございまして」

クレオパトラに変身したロキがやってくるなり水の精霊メレナたちや泉の精霊は一目散に叫び声を上げながら逃げてゆく。

「やぁ、ロキよ。まぁ近寄れ。『例の指輪』はみつかったか」

「それがあいにく厄介な邪魔者がおりまして、ヘルヘイムに何度も何度も追放しようとしてもそやつは蝶のようにすり抜けるのです」

オーディンは暫く考えると、酒を樽のまま一気飲みしてクレオパトラの姿をしたロキを見下ろす。
「ふむ。ロキでも手こずるか。はっはっはっは!こやつはなかなか面白い実験になってきたようだ」
「瀬条機関には暗殺兵隊を何体もクローン技術で生産するようにと指令を出しております」

「わが娘ツキの血を引くものの行方とロキの行方、はっはっはっはっは!こりゃぁ面白くなってきた。これからの第X次戦争にて9つの世界が争いで血に滲むのか、それとも手を繋ぎあって一つの『輪』になるのか…人間よ…新しい神話ははじまっておるぞ」

クレオパトラに変身したロキはルーン文字の呪文を唱え、蛇の剣を召喚し身に着けにやりと笑いながら剣をチロリと舐めながら、剣に映るハル/蝶TEUの姿を微笑しながら眺め、そしてまた第二層へと降りてゆくのだった…

いただいたサポートはクリエイターの活動費として使わせていただきます。