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悪魔を殺した男

あらすじ

死体に逆さ五芒星を刻む一連の殺人事件を起こした“悪魔”。悪魔の断罪によって汚職が露見し総入れ替えとなった警察上層部だったが、後釜についたもの達もまた権力と地位に溺れ、私利私欲のために人間を殺し罪を隠していた。悪魔の逮捕から2年後、再び逆さ五芒星が刻まれた死体が発見される。特捜の天海は、悪魔の能力を確かめるために派遣された内部監査官の永瀬と共に一連の殺人事件を追うのだった。

感想

前巻同様、腐った警察上層部を特捜が追い詰める話。情報を小出しにするのが上手。不穏な感じや不安な感じがずっと付きまとってきて、読み進めるごとにじわじわと答えに近づいていく感じがすごく好きです。そして最後に与えられた情報で黒幕や犯人に気付かされハッとさせられる。作者にいいように弄ばれてる気がします。前巻より大黒さんの登場頻度高くて嬉しかったです。全編400ページ以上あるの中のたった10ページしかないエピローグが、1番衝撃で怒涛の展開で、エピローグのために読んできたと言っても過言じゃない。続き出るのかな、出て欲しいな。

以下ネタバレ

前作からちょっと思ってたんですけど、登場人物が隠してること、(前回なら天海ちゃんが笑ってた理由、今回なら永瀬の犬の声など)なんかインパクトが弱い気がします。最後まで引っ張っておいてこれか〜みたいな。そんなに衝撃的な内容でもないのにそんなに引っ張る?みたいな。まぁでも警察官である立場上、そんなに過激な過去持ってちゃいけないし難しいところではあると思いますけど…。

前作を読んで天海ちゃんが阿久津を一方的に救ったと思っていたのですが、天海ちゃんも他人に隠していた「本当の自分」を知ってもらえて受け入れてもらえて、救われていたのですね。天海ちゃん、警察として正しい人間を演じている部分があったのだと思います。それを暴いて本当の自分を見て、受け入れてくれたから阿久津さんに惹かれてるんだろうな〜。二人が物理的な距離を超えて想いあってるのめちゃくちゃいい。

前作では悪魔として不気味だったり崇高な感じで描かれていた阿久津さんですが、今作は人間味が出ててよかったな。阿久津さんが人を殺したのは正義感からだと思っていたので、カウンセリングの中での「復讐」と言った部分に驚きました。正義とか世のためとかそんな大義のためじゃないからこそ、止めて欲しかったんだろうな。本当に世のためって思ってるなら止めて欲しいって思わないもんな。自分勝手な私刑だって自覚があるからこそ止めて欲しかったんだろうな。神部に指摘されてた、人を殺した時にどう感じたのか?みたいなの、なんだったんだ〜?ラスト、和泉の死体が出てきた瞬間叫んじゃったな…天海ちゃんと会えてよかったし大黒さんも含めて生きててよかった。この後、特捜の創立メンバー3人で法で裁けない人たちを懲らしめたりするのかな。このシリーズの立ち位置は私刑否定派なのか肯定派なのかよく分かってない。

大黒さんが阿久津さんに対して、なぜ逃げたのかというところ。とても好きです。許されようとするのは逃げなんじゃないかなと思います。
私には嘘が嫌いという友人がいたのですが、嘘が嫌いなのではなく、嘘をついている時の罪悪感や、隠し事をしている間の居心地の悪さを背負いきれないから、相手に嫌な思いをさせてでも自分は嫌な思いに縛られたくないのだと思いました。阿久津さんもきっと、人を殺した罪悪感に刑事としての阿久津さんが耐えられなくなって逃げてしまったのだろうと思うのです。自分を正当化しているけど、実際逃げてるだけで。苦しい思いをしてでも責任を取るのが正しいんじゃないかって思うんですよね。許されれば自分は楽になれるけど、許すほうは葛藤があり苦しみがあり、憎しみが残るかもしれない。許されようとするのは逃げなんじゃないかなと思うわけです。


登場人物みんな二面生があるという感じ。人間の多面性を扱い、本人も自覚していないような裏の顔や感情を呼び起こし自覚させようとする。行動原理を自覚させる感じが哲学的に感じた。菊池は天海ちゃんを1人の刑事として扱ってくれていい刑事に見えたのに…佐野さんや大黒さんも被害者の親族だったりして…美玲ちゃんが一番意外だったな…和泉先生も脳みそ?で埋まっちゃうくらいびっくりした…

「悪魔と呼ばれた男」と「悪魔を殺した男」が同一人物なんてなぁ。次回作出るのか知らないですけど是非続き読んでみたい。

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