私と師匠。

2024年3月。師匠が亡くなった。
私の着付けの師匠S先生。

「3月17日までフリマやるから遊びにおいで」
と連絡をもらったのは2月末だった。
ちょうど確定申告も終わり、14日なら行けそうだと思っていた。
14日の朝、先生に「今日これから行きます」と連絡しようとしたとき
同じく先生に着付けを習っていた方からLINEが来た。

「S先生が昨日旅立たれました。」

嘘かと思った。冗談かと思った。
本当に旅行に行っちゃってフリマにいないだけかと思った。
でも旅立たれた先は思いの外遠いところで
先生はフリマにもアトリエにも戻ってこないのだと実感したのは
葬儀に行って眠る先生の顔をみた時だった。

S先生は私が2011年に通い出した着付け教室の講師だった。
知り合いの着付け師さんに紹介してもらった教室だった。
見学に行ったのは2011年の2月ごろ。
「では来月から通います」と話していたが
その後に震災が起こってしまったため6月ごろに入学がずれた。

そこの教室へ2年ほど通いプロコースを修了した。
実技、座学、どちらもS先生にはお世話になった。
よく2コマ続けて受講していたので
午前の部が終わった後に先生たちとランチに行くのが楽しみだった。
教室が青山にあったのでふーみん、だるまや、ふーちんなどで
ランチしながらお話しするのが楽しみだった。
お腹いっぱいすぎて午後の部は眠かったこともあった。

教室を卒業してからは着付けの現場に
ご一緒させていただくことも多く、
とても印象深いのは私が2回目の成人式着付けのことだった。
横浜市の成人式着付け現場でとにかく人数が多い。
しかも横浜市は成人の人数も多く二部制のため拘束時間も長い。
教室からもたくさん生徒や先生が集合して着付けに入った。
私は襦袢着付け担当でとにかく流れ作業で襦袢着付けをして行く。
先生はフリーで動いていらっしゃったけど
ちょっと難問な着付け担当でもあった。
「花魁着付け希望」「サイズ合ってない着物の方」「特殊な変わり結び」
そして今でも覚えてるのが「妊婦さんの着付け」
ちょっとお腹大きめの妊婦さんだったが先生が担当して着付けてらしたのを
私は別スタジオからみていた。妊婦さんは艶やかに着付けられ成人式に向かった。

直近で先生に会ったのは今年の成人式だった。
今年は私と先生は別会場だったが途中から合流した。
今年の成人式を迎えるまで月1回先生の特訓を受けていた。
帯結びのアレンジ、おはしょりの仕上げ、衿合わせの角度、
色々課題はあったが先生のアドバイスはいつも的確でわかりやすかった。

成人式が終わり、次は卒業式シーズン。
袴の特訓もお願いしようとしていたが、
2月は確定申告の準備やらで忙しく先生のところへ
行く時間がなかなか取れなかった。
そんな時にもらったのが冒頭のフリマのお知らせのLINEだった。
確定申告が終わってしばらくは別の予定もあったため
3月14日が今の所空きそうだったから休みが確定次第
先生に連絡してお邪魔しようと思っていた。

そして今日。先生のお別れ会に行ってきた。
小さなホールには先生が眠り、ホールの後ろには
先生思い出の品が飾られていた。
かわいい飾りがついたグレーのキャスケットは
いつも先生が被っていたお気に入りの帽子だ。
名札がついた黒いエプロンに4つの着付けクリップ。
落ち着いた朱色の細いフレームのメガネ。
可愛い和柄のスマホケース。

そこに先生が今もいるようで急に寂しくなってしまった。
先生を前にしてワンワン泣いているようだった。
まだまだ聞きたいことがたくさんあったんです。

先生、最近こんな動画作ったんですよ。
先生、今来てる生徒さんでこういう悩みの方がいるんですけど
先生ならどうお答えしますか?
先生、この前やった着付け仕事が雑誌に載りましたよ。
先生、この時代衣装の着付けどうやるんですか?
先生、変な帯作ったらめっちゃ叩かれました。
先生、次のレッスンいつ空いてますか?
先生、フリマ行けなくてごめんなさい。

お別れ会の時、着物の方が2名いらっしゃって
お話を聞いたらお一人は先生のスマホケースを作った方で、
もう1人は先生のアトリエでフリマを一緒に開催されていて
私と昔の職場が部署違いで同時期にいらっしゃった方でした。
帰り道にファミレスに入って思い出話をたくさんしました。
お二人とも先生のアトリエで私の本を見てくださってて
先生も私のことをお二人にもよくお話しされていたそうです。
「私の生徒さんが着物の本を出したんだよー」と
よく嬉しそうにお話しされていたんだとか。

先生は人と人を繋ぐことが好きな方だから
こうやってこの日もお二人を私に繋げてくれたのかな、
なんて考えてしまいます。

先生のお別れ会には同じく先生から学んでいた先輩から
色無地のお着物を貸していただきました。
「私は会に行けないから、この着物で行ってくれたら嬉しい」
この日のお天気は概ね晴れだったけど時々雨が降っていました。
会場最寄り駅についたときは小雨だったけれども
出棺の時だけとても晴れ間が差していました。
月並みだけど先生が晴れさしてくれたのかなと。
ただの偶然だとは思いますがそういう気持ちになりました。

今、私は自分でレッスンを行い
誰かに「先生」と呼んでいただける環境にあります。
着物本を2冊出させていただくこともできて、
今は古巣の着物店に復帰して日々着物にまみれています。
茶道をやる方、衣装探しの方、正統派に着たい方、カジュアルコーデしたい方、
そうした方々にアドバイスをできるようになったのも
全てはS先生がたくさん教えてくれたことのおかげです。
「着物コーディネーターさくらん」が出来上がったのも
S先生のおかげと言っても過言ではありません。
来年の成人式も一緒にやりたかったです。その先も。
まだまだ習いたいことがありました。
先生が教えてくれたことは私が微力ながらも
また次の着物好きさんへ繋げていきます。

S先生、本当にありがとうございました。

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