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シリア-14- 成田からギリシャへ
2022年5月22日、僕は成田空港に向かいました。行き先はギリシャです。でも、最終目的地はシリアでした。なぜ直接、日本からシリアに向かわないのか。これにはいくつかの問題点がありました。
・外務省による嫌がらせ?
まずシリアの首都ダマスカスに飛ぶ航空便は数が少ないのです。日本からはシリアへ就航する航空便はありません。となると、陸路からシリアに入国することになりますが、シリアとの国境が開いている国はヨルダンとレバノンだけです。トルコ、イラク、イスラエルも国境は接していますが、閉じられていました。なので、僕はレバノンからシリアに向かうことにしました。にもかかわらず、僕はギリシャを選択しました。それは、シリアに入国することを外務省に悟られないようにするためでした。
2022年1月のことです。僕はパスポートの有効期間が切れたため、申請をすることにしました。でも、翌日、パスポートセンターから、申請が止められましたとの連絡が入りました。理由を聞いたところ、外務省の旅券課から問題ありと判定されたようでした。すぐに旅券課に問い合わせると、過去にトルコで軍か警察に拘束された件で調査中だからそれが終わるまでは旅券の発行はできませんとのことでした。
僕は納得がいきませんでした。確かにトルコでは軍と警察に拘束されたことは何度かありますが、5、6年前の話です。それを今さら持ち出すのは、明らかに外務省からの嫌がらせとしか思えませんでした。過去にシリアに5度、取材で入国しており、以前から外務省からは危険な場所にはいかないように忠告を受けていました。今回、パスポートの申請を機会に、もうこいつにはパスポートを出さないようにした方がいいと判断されたのかもしれません。
僕は外務省に何度となく危険な国には足を運ばないことを告げましたが、なかなか首を縦に振ってくれませんでした。しかし、申請から3か月後、外務省から突然、パスポートが発行されますとの連絡を受けました。トルコで拘束された件の容疑が晴れたのか。その辺りの説明は一切なく、とりあえず、パスポートの申請が通ったとだけ言われました。明確な理由もなく日本国民の旅券の発行を停止することは外務省であろうと、法に抵触する恐れがあったみたいでした。3か月止めるのがギリギリのラインだったと思われます。
「桜木さん、今後、危険な国には足を運ばないで下さい」
外務省の旅券課の職員は最後にそう忠告して、電話を切りました。結局、なぜ3か月も待たされたのか。僕は納得がいきませんでしたが、文句を言ったところで余計に外務省の機嫌を損ねるだけです。それに、パスポートがようやく手に入るのだ。僕はすぐさまギリシャ行きの航空券を予約しました。
2022年5月22日、出発当日です。成田空港のパスポートコントロールで僕のパスポートを読み取ろうとしたところ、職員が首を傾げました。何度も同じ作業をしています。でも、うまくいかない。嫌な予感がしました。少しして、別の職員が僕に声をかけました。
「申し訳ありませんが、こちらに来ていただけますか」
職員の方の指示に従いました。がらんとした部屋の隅で待つこと30分、受話器が渡されました。女性の声で外務省の旅券課だと告げられました。行き先、渡航目的、便名を詳しく聞かれ、僕はギリシャに観光に行くとだけ伝えました。女性は「本当にギリシャだけですよね。他の国に向かう予定はありませんね」と念を押しました。もちろん、僕は「ありません」と力強く答えました。
僕は空港で外務省に止められることを予想していました。杞憂にすぎないと思いながらも、本来の目的地であるシリア行きを隠すため、金も時間も浪費するけれど、「念には念を」とカモフラージュ先としてギリシャを選択しました。本来であれば、レバノンに飛ぶのが近道でした。でも、外務省に「レバノン」と答えれば、「シリア」に向かうのでは?と必ず疑われます。そうなると、最悪、空港で止められるか、レバノンのベイルートで入国拒否をされる可能性も十分に考えられました。
女性は「少々お待ちください」と告げて、僕は返答を待つことになりました。時計を見ると、出発の時間が近づいていました。かれこれ、1時間近くの足止めを食らっています。外務省はこのまま僕を空港に押しとどめて、タイムオーバーを狙っているのではないのかと不安になりました。10分ほどして、電話口から先ほどの女性の声が聞こえました。
「問題ありませんので、そのまま職員の指示に従ってください」
胸をなで下ろしました。よし!とガッツポーズを心の中で取りながら、無事に出国のスタンプが押されました。
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