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僕が撃たれた話-1-

写真 : 歌と踊りで盛り上がるカシミールの女性たち

前回の続きになります。僕が撃たれたお話ですが、これまで様々な媒体でお話をさせてもらっています。聞き飽きたという方は飛ばしていただけたらと思います。たいしたことではありません。

・友人の結婚式

僕は取材を終えて、そのまま友人の車で結婚式の会場まで足を運びました。これが初めて出席する結婚式です。KPS(Kashmir Press Service)の編集長の妹の結婚式が盛大に行われました。カシミール料理が振舞われます。僕が大好きなグシュターバも食べ放題です。グシュターバはヨーグルトソースで半日ほど煮込んだ羊肉の肉団子です。

ヨーグルトソースでじっくり煮込んだ肉団子

巨大なテントが張られ、100人を超える出席者が集まり、円を描くように座ります。だいたい四人か五人が一組になって、巨大な皿に山盛りのライスと先ほど説明したグシュターバ、その他にもレッドソースで煮込んだリスタ、羊肉をトロトロに煮込んだローガンジョシュ、串焼き、次から次へと運ばれてきます。それを手ですくって豪快に口に運びます。腹ペコだった僕はガツガツと食べます。

ご飯のあとはパーティーです。テントにスピーカーが持ち込まれ、大音量で音楽が流れます。普段はあまり話す機会がない女性が、音楽のリズムに合わせて華麗に踊ります。僕にも踊れと促されます。積極的な女性に手を引かれて、何となく体を動かします。夜が更けても、宴会は続き、僕が床についたのは、夜中の3時でした。

・初めて目の前で見た戦闘

翌朝6時半には僕は結婚会場をあとにしました。周りは「何をそんなに急いでるんだ?もっとゆっくりしていけばいい」と引き止めます。結婚は三日三晩続きます。それに僕の取材の手助けをしているKPSの友人の結婚式なので、スリナガルに戻っても、オフィスには誰もいません。それでも僕は帰りました。何が起こるかわからないからです。

でも、スリナガルに到着しても、結局、何もやることはありません。あと一泊くらいしていけば良かったかなあとちょっと後悔しました。ホテルのベッドに横になると、睡眠不足もあって、ウトウトとしました。どれくらい眠ったのか分かりません。ただ、大きな物音を聞いて、パッと跳ね起きました。反射的にホテルの窓から外の様子をうかがいます。

何かがおかしい。僕のホテルは町のど真ん中に位置しています。いつも賑やかなのです。今日だって、そうでした。でも、寝て起きたら、外には人影は見当たらず、静まり返っているのです。店はシャッターまでおろしています。何だろう。ちょっと様子でも見てこようかなあ。そう思った途端、激しい銃声が鳴り響きました。

咄嗟に、ジャケットを羽織り、カメラバッグを掴みました。靴を履くのも忘れて、サンダルのまま階段を駆け下ります。その気配を察したのはホテルのスタッフでした。従業員から支配人まで僕がジャーナリストをしていることを知っています。僕の前に立ちはだかります。

「タケシ、落ち着け!目の前で軍が銃をぶっ放している。とりあえず、様子を見ろ。絶対に外には出るな」

彼らの忠告は僕の耳にはまったく入りませんでした。ホテルの玄関口にたどり着くと、軍の装甲車が二両、ホテル真向かいの建物に銃弾を撃ち込んでいます。弾の口径がでかいのか、ハチの巣にされた外壁は煙をあげてボロボロと崩れ落ちています。50㎜のレンズでは遠すぎました。だから、僕は迷わず外に出ました。

これまで僕はカシミールでたくさんの現場に足を運びました。でも、戦闘には立ち会えませんでした。着いたころには終わっていたり、銃撃戦の最中でも非常線が張られて、中に立ち入ることはできません。一度、抜け道を探そうとウロウロとしていたら、軍の兵士に見つかり、ボコボコに殴られたことがありました。でも、今回は違いました。

非常線は張られています。ただ、僕の宿泊しているホテルは非常線の中にありました。これはすごいぞ!僕は火を噴いている銃を横目にしながら、壁づたいにそろそろと移動しました。一切の恐怖は感じませんでした。ただ、興奮していたのを覚えています。それでも、少し頭を冷やすため、シャッターが半開きのお店があったので、そこで休憩することにしました。

従業員が「わあ」とびっくりします。まさか銃声が鳴り響く中、客など来店するはずもありません。僕は慌てて自己紹介して、何が起きたのかを聞きました。イスラム武装勢力がインド軍のバンカーに手りゅう弾を投げ込んだのがきっかけです。犯人は近くの建物に逃げ込み、そこで銃撃戦になっているのでした。店のテレビにもスリナガルで戦闘と速報が流れています。

これで事情は把握しました。僕は再び外に出ようとしました。従業員の彼らは必至で止めようとします。それでも僕は扉に手をかけました。外は静まり返っていました。装甲車は先ほどの二両に加えて一両が追加されています。まだまだ写真を撮るには距離があります。腰をかがめて様子を見ます。そのとき、何かがぶち当たりました。体が宙に浮くような感覚と頭部を鈍器で殴られたような衝撃、その直後、激しい耳鳴りで気が遠くなりました。

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