戦略の原点 清水勝彦 日経BP 2007年

■経営の「九九」を考える⇒経営戦略の基本

戦略の定義
戦略とは、ある一定の目的を達成するために、ターゲット顧客を絞り込み、
自社固有の強み(ユニークネス)を用いつつ、競争相手と比べて「より安い」、
または「より価値のある」商品・サービスを提供するための将来に向けた計画

戦略の基本要素

・目的(=企業の成長)
会社の価値は株価=1株あたり利益(EPS)×株価収益率(PER)で決まる
競争力を高める 成長=規模 成長=刺激・やりがい

・3C(Company=自社・Competition=競合・Customer=顧客)
ターゲット顧客の選定(Customer)
ビジネスの要諦は「顧客満足」と「経営=利益の創出」の双方を成り立たせること

トレードオフが必要
より安い、より価値の高いサービスや商品の提供(Competition)
問題は「過去や現在の自分」より良いかではなく「競合」より良いかである

自社固有の強味、ユニークネス(Company)
戦略=強みを生かすこと(弱みを薄めることではない)
事業で結果を出すとは機会を活かすことであり問題を解決することではない

■業務分析を効率的に行うフレームワーク

ファイブフォース(五つの力)分析
目的1.業界の魅力度を測る(新規参入の検討)
  2.業界の構造を知る(業界が変化している場合)

売り手の圧力:売り手の数が少ないと仕入条件が悪くなる
買い手の圧力:買い手の数が決まっていれば売り先が限定される
新規参入の脅威(参入障壁):低いと競争が激化する
代替の脅威:代替品が多いと間接的な競争が激しくなる
競争が厳しい:競合の数や規模が激しいと魅力は減る

バリューチェーン分析

目的:企業の強み弱みの分析
商品の流れ(原料から製造、販売、アフターサービスまで)を捉えて競合比較する


有形資源と無形資源

有形資源:事業を行うための設備、施設、現金⇒買うことが出来る
無形資源:知識・技術・企業文化・従業員のモチベーション⇒真似がしにくい
⇒競争上他社に対する差別化の中心は無形資源であることが多い

規模の経済

■コストと規模の関係

商品生産・販売増⇒固定費が分散され1商品あたりのコスト低下
(固定費:一定、変動費:増加)
1.単位コストと規模の関係(固定費の分散)
(固定費:減少、変動費:一定)
⇒大企業ほど単位あたりのコストは少ないため、価格を下げたりできる
2.単位コストと規模の関係(固定費の低下)
⇒購入量が多いと調達コストが低下する、売り手(仕入先)に対する
買い手(この場合は自社)の交渉力が高い
⇒固定費の削減だけでなく、変動費(営業コストなど)も低下する
3.多くの商品を生産・販売する⇒経験が豊富⇒コストが低下する
経験曲線(学習曲線)によるコスト低下

■垂直統合(メーカーで言う製販一体)とアウトソーシングのメリット・デメリット

アウトソーシング
メリット:自社の強みに資源を集中できる新技術の台頭に対して外注先を変えることで柔軟に対応出来る組織が簡素化し、官僚化するリスクが下がる

デメリット:外注先に重要な機能を依存し、事業としての付加価値を取込まれる危険がある外注先を通じて重要な情報・機能が競合相手に漏洩する可能性がある外注先との調整が手間取る可能性がある

垂直統合
メリット:機能・部門間のコーディネートが迅速に行える重要な機能・資源・情報等を自社に囲い込むことが出来る全体の品質管理を徹底できる

デメリット:機能を取込むための追加投資が必要組織が拡大し、官僚化/部門利益の追求に走る可能性がある競争が無いためコスト削減や品質アップの動機づけが減る可能性がある

■企業はなぜ成長しなければならないのか?

・投資家のニーズを満たすため
・顧客のニーズを満たすと同時に規模の拡大を通じて競争力を増すため
・社員にさらなる成長の実感と機会を与えるため

■事業戦略事業の目的=顧客を創造すること⇒ドラッカー的に言うと成長すること

■企業戦略

1つの事業 or 多角化
多角化する場合の企業の資源配分と実行の方針
・アンゾフの多角化マトリックス            

           商品・技術
         | 既存  | 新規
ーーーーーーーーー|ーーーーー|ーーーーーー  
      既存 |既存事業 |  ②
市場・顧客    |     |
      新規    | ①     |    ⓷

既存事業からの多角化の方法
①既存の商品・技術を応用して新たな顧客層をとらえる
②既存の市場・顧客の知識や関係を活かして多くの商品を提供する
③商品・技術も新しく、市場も新しい事業に参入(飛び地型)
①②に比べて③の成功割合は高い 

以前多角化というと市場の成長率とマーケットシェアで事業をポジショニングし、資源配分をまとめたBCGマトリクス(金のなる木・スター・問題児・負け犬)やマッキンゼーのPPM(ポートフォリオマネジメント)が使われていたが、資源配分だけの問題ではないということで、最近は教科書にも載っていない

よくある失敗:シナジー効果を活かせていない、種を蒔いたが水をやらない多角化・新規事業では、「何としても成功させる意気込み」は重要だが、「成功することを前提」にしてはいけない

■意思決定

意思決定によくあるバイアス
・身近なデータから判断しようとすることによって生じるバイアス
1.思い出しやすさのバイアス:最近起こったことや、より記憶に残っていることが意思決定を左右しやすい
2.記憶の仕方によるバイアス:記憶の仕方に一定のパターンがあると、未知や違うことに対してもそのパターンを適用しやすい(例 あのあたりは金持ちばかりが住んでいる)
3.関係の思い込み:2つのことが同時に起きると(偶然であっても)2つには関係があると思い込みやすい・「代表例」に左右されることによって生じるバイアス
4.確立の無視:情報が多いと惑わされて基本的な確率のデータを忘れてしまう(例 企業家が必ず成功するものと思い込む)
5.サンプルサイズの無視:特殊事例(サンプルサイズ=1)が意思決定を大きくゆがめることがある
6.確率の見誤り(ランダムの過信):失敗が続くと、次は成功すると思う(数回連続の失敗は統計上よくあること)
7.中間値への帰納(Regression to the mean)の無視:一般に、大変良い結果が出た次は悪い結果であることが証明されているが、過去のデータの延長をそのまま信じたがる
8.具体性の罠:より分かりやすい記述のほうが、一般的な記述以上に確からしいと思いやすい

・間違った基準に引っ張られることによって生じるバイアス
9.基準修正の失敗:いったん「基準」が頭に入ると、それを修正することは難しい(根拠がなくても評判が気にかかる、第1印象に引っ張られる)
10.同時の錯誤:物事が同時に起こる場合には確率を過大予測し、独立に起きる場合は過少予測する
11.自信過剰:比較的難しい問題に対する自分の判断を過信する傾向がある

・そのほかのバイアス
12.偏った情報収集:自分の考えを正当化するデータばかりを(無意識に)探し、合わないデータを無視、過小評価する
13.結果からの後付け:結果が分かった後に、自分はもっとやれた、思った通りだったと過信しやすい
自分は知っているが他人が知らないことを教える場合、いかにも他人が知っていて当然のように教える(例 説明の分かりにくい大学教授)

⇒ 意思決定者に最も必要なのは、「外側からバイアスを客観的に評価し、また悪い情報、耳の痛い意見をも素直に言ってくれるナンバー2」の存在
歴史的に二人で創業した会社の成功:技術と財務、外と内というな機能的な補完よりも実は「信頼の上に培われた率直な意見」を言えることが重要

・「エスカレーション・オブ・コミットメント」
失敗したにもかかわらず資源を投入し続け、さらに傷口を大きくする現象
(例 コンコルドの誤り)

エスカレーション・オブ・コミットメントを生み出す要因
・プロジェクトそのものの要因
1.巨大投資額
2.高い撤退コスト(金銭的・心理的)

・意思決定者にまつわる要因
1.楽観・過信
2.自己正当化
3.フレーミング効果(損をしているときはよりリスクの大きい賭けに出る)
4.サンクコスト・バイアス(せっかくここまでやったのだから辞めるのはもったいない)

・組織的要因
1.ルール化(結果はともかく決まったことをやり続ける)
2.政治的な問題(社長がやるといったからやる)
3.会社の価値観からの「聖域化」

・社会的要因
1.社内外の「成功」の期待
2.リーダーとしてのノルマ(偉大なリーダーは苦境を克服して最後に成功するもの)

■意志変更

意志変更の柔軟性の3つのステージ

注意段階:
・妨げる要因
油断・慢心
組織の「慣性」:陳腐化したルール・前例主義の蔓延 ルールに合わない新しいアイデア・情報の排斥

・要因の発生しやすい環境
過去の成功体験・長期政権・大組織(官僚化)

評価段階:
・妨げる要因
自己正当化・フレーミング・社内政治
・要因の発生しやすい環境
投資額の大きいプロジェクト・弱い企業統治・失敗に対して過酷な企業文化

行動段階:
・妨げる要因
プロジェクトの先行きの不透明感・変更への抵抗
・要因の発生しやすい環境
環境の不透明感・資金的余裕

■意思決定の柔軟性を維持するための施策例


1.結果をきちんと測る
2.意思決定の過程で意識的にマイナス/失敗の可能性を考える
3.問題が起きる前に社外から新しい意見、違った見方からの評価を取り入れる
 ・長期政権を避ける
 ・定期的に社外取締役の入替を行う
 ・幹部の間で担当のローテーションを行う
 ・提携先の企業から新しい見方、考え方を学ぶ
4.1つのプロジェクトだけを見て評価するのではなく、会社全体のプロジェクトを総合的に見て優先順位を決定し資源配分を行う
5.失敗したプロジェクトを分析し、次の意思決定、評価に活用する

■戦略の立案


1.戦略課題を明らかにすること
2.それに対する代替案の仮説をつくる
3.仮説の検証を通じて最適な方向を示すこと
戦略はサイエンス(分析)かアート(直観)か?

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