図解 ドラッカー入門 森岡謙仁 中経出版 2011年

ドラッカーのマネジメント体系の超入門版

キャリアの職業的発達段階に合わせて探索段階から下降段階までのそれぞれにおけるマネジメントの考え方や手法が、特に仕事の中で発出する自己の思いや課題に合わせて分かり易く解説されています。

ドラッカーは1909年に生まれ、2005年に亡くなりました。この書籍では、ドラッカーの生き方や経験など、年を経ることでの考え方の変遷なども記載されており、自分にも照らし合わせやすく、その生涯現役の姿勢は個人的に見習いたいと思います。

各ステージで使われているドラッカーのキーワード(後述)と書籍の案内はドラッカーをこれから学ぶ方に役立ちます。


■キーワード


◆ステージ1(入門)

・7つの経験「Seven Experiences」
ドラッカー自身の7つの体験エピソード 働く人が自分を再発見して成長するために役立つ

1.8歳 担任のエルザ先生にワークブックの指導を受ける
2.13歳 宗教の先生からの問いかけ「あなたは何によって覚えられたいですか?」
3.18歳 ヴェルディのオペラに感激「完璧な音楽を作るための努力」
      フェイディアスの彫刻「人に見えない背中の部分の彫刻⇒神々が見ている」
⇒ 生涯を通して完璧なものを追求すること
4.20歳 新聞記者時代 勉強の方法論を身につける 定期的に仕事のテーマを見直すよう指導を受ける
5.23歳 銀行で働いていた頃「求められる重要な仕事を見極める」
6.35歳 近世ヨーロッパ史を研究 2つの社会的機関の成長の方法論を発見
7.40歳 シュンペーターを訪ねる
⇒「何によって覚えられたいか」は年齢とともに変えるべきで、「この問の真の価値は人々の人生に良い変化をもたらすことにある」

・貢献「Contribution」
他者の役に立つこと 人や組織のためだけでなく寄付活動なども含まれる

・結果「Results」
仕事した後に残ったヒト・モノ・カネ・情報 アウトプットと同義 営業で言う新規顧客・受注額・受注書などもこれに当たる
ドラッカー自身は「成果」とは区別している場合がある

・成果「Performance and Results」
良い結果のこと Preformance(仕事ぶり)もResults(結果)も「成果」と呼ぶことがある

・目的「Purpose」
組織や仕事における「何のためにあるのか」「どうあるべきか」といった最終的に実現すべき要求 「理想」や「夢」が含まれる場合はVisionが使われることもある

・目標「Objectives」
目的やビジョンを実現するうえで「何を」「どの程度」「いつまでに」など予め設定しておくべき条件や要件

・責任「Responsibility」
目的や目標、受けた要求を実現することや義務を果たすこと 「自由には責任が伴う」

・完璧「Perfection」
欠けているところが無い
7つの経験のうち「ヴェルディのエピソード」「彫刻家フェイディアスのエピソード」から得た「完璧を求める姿勢」に通じ、ドラッカー自身もこれを追求した

・強味「Strength」
いわゆる「器(Capacities)」のこと、技術(Skills)と区別し「出来ること」「実績」だけでなく、「得意分野における適応力や包容力」など意味の広がりを強調している

・誠実さ「Integrity of Character」
性格や人格を表現する言葉 「完全であること」「真面目であること」「真摯であること」「有言実行」「初志一貫していること」「勤勉であること」「健全であること」「高潔であること」「倫理や道徳を守ること」の意味もある

◆ステージ2(基本)

・知識労働者「Knoeledge Worker」
仕事の生産性を上げてより良い結果を出すことが課題

・エグゼクティブ「Executive」
組織の成果に実質的に貢献する責任を持つ知識労働者
ドラッカーは4階層のエグゼクティブの組織を提案

・お客様づくり「Create a Customer」
事業や組織の目的 新規顧客を獲得するだけでなくリピーターやロイヤルカスタマーへの組織全体の努力

・マーケティング「Marketing」
市場調査、販売促進、品ぞろえなど、製品やサービスの開発や営業を支援する組織的な活動
ドラッカーが考える最終的な目的は「売り込みを無くす」こと

・イノベーション「Innovation」
改革・変革 継続的な業務改善から新製品・サービスまで広く捉える
「7つのきっかけ」を見過ごさずに事業化する

・テクノロジスト「Technologist」
知識労働者のうち、さらに高度な専門知識を持ち身体を使って仕事をする専門家

・3人の石工「Three Stonecutters」
ドラッカーが用いた比喩 「何のために仕事をしているか」の問いに対し、3人の石工は1.「生活のため」 2.「技術を磨くため」 3.「教会を建てるため」と答えた。
3.こそにマネジメントの精神がある

・リーダーシップ「Leadership」
行動であり範になること 有言実行 その気になればだれでも身につけられる

・リーダー「Leader」
「後に続く者がいる人」のこと 後ろを振り返った時に誰もついてこない人はリーダーとは言えない 他者の信頼を勝ち得た者がリーダーになる

・ミラーテスト「Mirror Tset」
仕事の倫理を説明するときにドラッカーが用いた比喩
「朝起きて鏡を見た時、どんな自分を見たいか?」と自分に問うことで倫理に反する行動を避ける効果が期待できる

◆ステージ3(初級)

・管理「Control/Management」
PDCAと同一視されることが多いが、PDCAはデミング博士考案の品質管理の手法であり、ドラッカーのマネジメントとは異なる

・品質管理「Quality Control」
要求や期待された基準に合致した内容を継続的に実現できるよう仕事を統制すること

・5つの基本的な仕事「Five Basic Operations」
ドラッカーが唱えたマネジメントの仕事の基本:1.部下を参画させ、2.部下とのコミュニケーションを重視し、3.人の強みを生かすと同時に上司と部下の成長を促すこと
「目標設定」関係者とのコミュニケーションによって定める
「組織化」目標を達成するための仕事を明確にして部下に割り当てる
「動機付け」コミュニケーションを通じて一緒に成果を出そうとするチーム意識を部下・同僚・上司との間につくる
「測定・評価」組織と個人の仕事ぶりや結果の評価基準を決めて測定する
「相互成長」測定情報などを使い自分も含めて部下とともに成長する

・コミュニケーション「Communication」
互いの知識や考えなどを知る行動のこと 相手の言葉を使って話すこと、話すよりよく聞くこと、違いを発見することが重要

・仕事の設計「Designing Managerial Jobs」
職務設計のこと 仕事に要求されている最終成果を確認してから仕事を見直し、仕事をするものに再設計させること、またはマネジメントの要素を取り入れることを提唱

・昨日を捨てる「Abandon Yesterday」
明日を築くために今日すべきことを行うためには、これまでの仕事や過去の成功に縛られていては前に進めない

・機会と人材リスト「List for Opportunities and People」
イノベーションの成功確率を上げる方法
イノベーションのきっかけとなる現象をリストアップし、次に実績のある有能な人をリストアップし、最高のチャンスを最高の人物に任せる方法
適材適所・若者重視の考え方

・企業家精神「Entrepreneurship」
社長のつもりで働くこと 変化を当然とし健全だとすること 組織や事業のお客様づくりに対する情熱と信念を持ち、マーケティングとイノベーションというマネジメントの働きを実行すること

・仕事ぶり「Performance」
個人が組織の仕事に取組む姿勢、仕事の状況や状態など どのような結果を生み出すかはこれに左右される

・仕事の精神「Spirit of Performance」
良い結果を出すのにふさわしい仕事ぶりを発揮するための組織や職場の信条・信念・雰囲気のこと 仕事ぶりを大事にする精神・組織の風土

◆ステージ4(中級)

・5つの重要な質問「Five Most Important Questions」
「マネジメント」に登場する事業戦略を考えるために自分で問うべきこと
「私達の目的と使命は何か」
「私達のお客様は誰か」
「お客様が求める価値は何か」(対価を払ってでも購入したいと思う価値)
「私達の成果は何か」(何を提供すべきか・お客様や市場の評価)
「私達の計画は何か」(短期や中期の活動計画)

・経営チーム「Top-Management Team」
社長や役員などからなるチーム 経営会議や幹部会のメンバーを指すこともある
経営チームの仕事
1.組織の使命を考える
2.組織の基準や規範を設定し、組織の価値観を明確にする
3.仕事の精神によって良い人間関係を構築し、それを維持する、明日の経営者を育成する
4.顧客と主な取引先との関係維持のための渉外活動をする
5.儀礼や社交的な行事に参加する
6.重要な危機に出動する

・マネージャーの評価表「Scorecard for Managers」
「投資」「人事」「イノベーション」「戦略」に関してマネジメントに携わる人が適切な仕事をしたか評価するもの

・情報を基盤とする組織「Information-Based Organization」
『マネジメント・フロンティア』に登場する知識労働者が働く組織の在り方
全員が知識を共有するとともに情報を中心に設計された仕事をするため、組織階層は4階層以下のフラットなものになるとドラッカーは述べている

・情報責任「Information Responsibility」
経営者を含むすべての知識労働者が、自分が発信・保持する情報に対して持つ責任のこと 情報責任を持つためには全員が情報を読み書きできる能力(情報リテラシー)を身につけなければならない

・自己目標管理「Management by Objectives and Self-Control」
「会社の目標に沿って自分の目標は自主的に決定する 結果も自分で評価し自分を成長させる」というのがドラッカーの目標管理
目標を押し付けたり部下を管理するためのものではなくあくまでも目標を自己管理するためのもの

・マネージャーズ・レター「Manager's Letter」
目標を自己管理するためのしくみの一つ 部下から上司に向けて書くもの
習慣化されれば部下の目標やその実行の邪魔になっているものを上司との面談によって確認出来るようになる(下記は例)
「上司の仕事の目標」リピーターの拡大、新規顧客の獲得 
「自分の仕事の目標」年間売上目標の達成 戦略商品のリピーターの増大 新人の早期戦略化
「自分の仕事に要求されている水準」四半期の個人売上目標達成 リピート売上の前年比15%増 新人営業力を6ヶ月で強化
「目標達成のために行うこと」月次営業活動計画の改善 有望得意先への優先展開 商品及び技術知識の習得 新人指導時間の確保
「所属部門における障害」新人教育が上手く進まない 技術知識を学ぶ機会が少ない
「上司や会社の施策で良いこと」オフサイトミーティング 喫煙ルーム
「障害になっていること」8時前に退社しにくい 部長会議のための資料作成
「目標達成のために今後1年間自分で行うこと」月次営業活動計画の最適化 週間営業活動計画の質的な向上 コーチングの実践力の向上

・ISO26000
社会的責任に関する国際的なガイドライン
環境保護、生物多様性の保護、法律の遵守、ダイバーシティ(価値観や文化の多様性)の保護など、現代の社会的責任の指針

・8つの目標領域「Objectives in Eight Key Areas」
経営戦略を実現するために示された目標領域(下記は例)複数の目標をバランスさせて実現する
1.マーケティング:既存製品の市場における地位に関する目標
2.イノベーション:新製品の開発スピードに関する目標
3.人的資源:人材育成、保有技術に関する目標
4.物的資源:必要な設備の確保に関する目標
5.資金:必要な資金に関する目標
6.生産性:ヒト・モノ・カネそれぞれの生産性に関する目標
7.社会的責任:社会からの評価に関する目標
8.条件としての利益:あくまで必要な利益額

・マネジメント・スコアカード
マネジメントの成績表 主に経営チームに焦点を当てた「マネージャーの評価表」と全従業員のための「8つの目標領域」とを合わせたもの

◆ステージ5(上級)

・第2の人生「Second Half of Your Life」
より社会貢献を実感できる組織に変わること、本業以外に社会セクターのボランティア活動に参加すること、自ら社会企業家になることの3つを提示している

・ベンチャー「New Venture」
リスクを恐れず新分野の事業に挑戦すること 既存企業とは関係なく起業する事業組織を「ニューベンチャー」と言っている

・NPO(非営利組織)「Nonprofit Organization」
法人格のあるもの、ないものがある

・社会セクター「Social Sector」
非営利組織の別の言い方 人と社会を良く変えることが目的 明治維新を支えたのは江戸自体の文人が作った私塾などの社会セクターだと指摘している

・市民性「Citizenship」
「コミュニティや社会のために何が出来るか」を自分で考えて行動すること 社会セクターにボランティアで参加すると、社会や人を良くすることに貢献しているという実感とやりがいに繋がる

・社会の絆「Social Cohesion」
「結合力」(組織的・心理的・文化的・経済的な面など)のことを指す ドラッカーは、日本には先進国の中でも並外れた社会的な強い絆があると指摘している

・精神的な完成「Spiritual Perfection」
知識ではなく智慧に重きを置き、完璧な精神を求める心の在り方のこと 生きる意味を問う生き方であり自分を成長させようとする意志のこと ドラッカーは例として「白隠禅師」を挙げている

・ダイバーシティ「Diversity」
人事労務において、人種、性別、年齢、信仰などによって処遇を差別することなく多様な人を雇用すること ドラッカーは同時に多元的な(価値観が違う)個人、組織、国のそれぞれが共生する世界を目指した

・ISO9004
「組織の持続的成功のための運営管理」の国際規格 お客様、株主、組織の人々、取引先、社会(法令・規則など要求事項の遵守・環境、倫理)の期待に応える組織運営について書かれている

・マネジメント「Management」
個人の強みを生かし、組織の目的を果たすことで、よりよい社会を実現する体系的な知識や方法
1.組織本来の目的と成果を達成する
2.人と組織の能力を発揮させる
3.社会的な責任を果たす
という側面がある

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