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会話を哲学する

私達は、日常的に「会話」をしています。

友達とご飯やお茶をしながら会話したり。
職場で同僚と仕事について会話したり。

あるいは、オンラインコミュニティのメンバーとチャットで会話したり。

「会話」はとても身近な概念です。

しかし「会話って一体なんですか?」と問われたら、なんと応えるでしょう。

辞書には以下のように書いてあります。

  • 「複数の人が互いに話すこと。」

  • 「二人以上の人が、互いに話したり聞いたりして、共通の話をすすめること。」

具体例を見てみましょう。
以下は「複数の人が互いに話している」例ですが…。

  • Aさん)昨日、◯◯って映画を見たんだよね。

  • Bさん)そうなんだ、私は今、パスタが食べたいんだよね。

  • Aさん)◯◯の映画って、戦争がテーマなんだけど。

  • Bさん)昨日のランチは定食だったから、今日はパスタがいいなって。

  • Cさん)あっ、私が好きな□□のYouTube動画が更新されてる。

それぞれが別々の話題を話しています。
これは「会話」とは言えなさそうです。

さらに、「共通の話をすすめている」としたらどうでしょう。
以下はその例ですが…。

  • Aさん)今日のランチは焼肉にしない?

  • Bさん)あ、、午後は、お客さんのオフィスで打ち合わせがあるから、服に匂いがつかないのにしたいな。

  • Aさん)わかった!じゃあお客さんのオフィスに近い焼肉屋さんに行こう!

これは、共通の話ではありますが、会話としては食い違っていますよね。

Bさんからしたら、Aさんに「焼肉は服に匂いがつくから避けたい」ということを理解してほしかったわけですが、それが伝わっていないわけです。

このように「互いに」「共通の話題を」話していても、会話としては成立していないといえます。

では「会話」をどのように捉えたら、しっくりくるでしょうか?

その問いについの軸を与えてくれるのが、「会話を哲学する」という書籍です。

この書籍で語られている内容を、ちょっと一緒に覗いてみましょう!


会話は互いに影響を与え合う

会話が成立している場合、会話の参加者はお互いに影響を与えあってます。

  • Aさん)そういえば、明日は雨が降るらしいよ。

  • Bさん)そうなんだ!明日はおでかけの予定だから、天気予報チェックしなきゃ。(スマホを取り出す)

これはわかりやすい例ですよね。
BさんはAさんの発言内容に影響を受けて、行動をとっています。

ではこれはどうでしょうか?

  • Aさん)最近、呪術廻戦にめっちゃハマってて。マンガの最新巻まで一気に買って読んだんだけど。

  • Bさん)面白いよね!でもアニメで見てるから、最新の展開はちょっとわからなくって…

このとき、Aさんは「Bさんは呪術廻戦は好きだがアニメ派でマンガの最新巻は読んでいない」とういことを理解します。
その後の話題では、おそらくアニメで描かれていない部分のネタバレを避け、アニメで描かれていた部分の話題に限定して会話をするでしょう。

あるいは、先ほどの会話を以下の部分で切ったとします。

  • Aさん)最近、呪術廻戦にめっちゃハマってて。マンガの最新巻まで一気に買って読んだんだけど。

  • Bさん)面白いよね!

このとき、AさんとBさんは「Bさんが呪術廻戦を知っていることをAさんが知った」ということをお互いに認識します。

その認識を前提として、この後の会話が進むことになるでしょう。
これは言い換えるとその認識を「約束事」としているとも言えます。

約束事を結ぶコミュニケーション

「約束事」が結ばれると、そのことについて知らないフリはできなくなります。

以下の例を改めて見てみましょう。

  • Aさん)今日のランチは焼肉にしない?

  • Bさん)あ、、午後は、お客さんのオフィスで打ち合わせがあるから、服に匂いがつかないのにしたいな。

  • Aさん)わかった!じゃあお客さんのオフィスに近い焼肉屋さんに行こう!

ここでは、AさんとBさんが「Bさんは服に匂いがついたり汚れたりしないようにしたいと思っている」という約束事を、Aさんが知らないフリをしたとも言えるでしょう。

もしかしたら、Aさんの中で「焼肉屋」と「匂い」がリンクしていなかった可能性もあります。
その場合は、以下のように会話が続くでしょう。

  • Bさん)いやいや、焼肉屋ってめっちゃ煙がでるから、服に匂いがついちゃうんだよね。

  • Aさん)あ、そっか!ごめんごめん!じゃあ定食屋さんにしよっか。

ここで、AさんとBさんは「焼肉屋は匂いが服につくから避けたいということをAさんが理解した」という約束事が成立します。

書籍「会話を哲学する」では、コミュニケーションはこのような約束事を形成するものであると解説されています。

「文脈」と呼ばれているものは、この「約束事」の積み重ねで形成されていると言えるでしょう。

相手を変化させるマニピュレーション

「約束事」は会話の中で「そういうことにしておきましょう」という側面であると言えます。

その側面を超えて、意図的に影響を与えようとすることもあるでしょう。

  • Aさん)「呪術廻戦」が好きなら「HUNTER×HUNTER」も好きでしょ?

  • Bさん)あ、実は、ハンタは読んだことないんだよね。

  • Aさん)そうなんだ、ハンタのオマージュがたくさんあるし、異能力者バトルのルール設定をハンタから引き継いでる部分もあるんだよね。

  • Bさん)へー、ちょっと興味あるな…

ここでAさんは「BさんがHUNTER×HUNTERを読んだら話題がめちゃくちゃ盛り上がるから読んでほしい」と思って、言葉を選んでいるでしょう。

このように明確に「◯◯をしてください」と言わずとも、相手に「こうしてほしい」と思っている方向に導くような会話をすることがあります。

これを「会話を哲学する」では「マニピュレーション」と呼んでいます。

コミュニケーションとマニピュレーション

コミュニケーションとマニピュレーションの関係は、複雑であり、明確に「これがこう」と言えないものもあります。

明確な意図を持ってマニピュレーションをする場合もあれば、なんとなく「こうなったらいいなぁ」という感覚のもとマニピュレーションをする場合もあります。

「マニピュレーションをすることは相手を操作することで良くないことだ」と言いたいわけではありません。
そういったことが起きているよね、という整理のために、マニピュレーションという概念が有用だということになります。

コミュニケーションとマニピュレーションには、様々なパターンがあります。

「文脈」を前提とした、コミュニケーションと逆向きのマニピュレーションも存在します。

例えば、「押すなよ!押すなよ!」というギャグはそれにあたります。

「やるな」ということがトリガーとなって「やる」ことが様式美として成立しているケースですね。


書籍「会話を哲学する」では、様々な文学作品やマンガ作品を引用しながら、「コミュニケーション」と「マニピュレーション」の側面で「会話」を分析・解説しています。

私達にとって身近な「会話」ですが、「約束事」や「マニピュレーション」という概念を取り入れることで、より解像度を高く捉えることができるようになるかもしれません。

近年、コミュニティに注目があつまっています。
コミュニティは、「共通の何かがあったうえで人が集まった場所」と言えます。

コミュニティが人の集まりである以上、数多くのコミュニケーションが行われます。
であればこそ、「コミュニケーション」とは何なのかということについて考えてみると、コミュニティでの活動がより楽しめるようになるかもしれません。

「sloth with creators(SWC)」のコミュニケーションメンバーのRyotaroさんが、コミュニティ内のコミュニケーションについての考察をされていて、とても学びになる内容なのでオススメです。

そのような環境の中で、書籍「会話を哲学する」で提示されている概念は、コミュニティでの活動を解像度高く捉えるキッカケを与えてくれると感じました。

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