冷えたコーヒーを飲むと思い出すこと

※18歳未満の方はお読みにならないで下さい。過激な描写がございます。
※コンプライアンスに配慮し、一部フェイクを交えています

「お客様のこと考えるとき、どこ触ってる?」
隣の席で先輩は静かに囁く。私と先輩しかいない夜のオフィスは妙に乱雑で、私はなんだか落ち着かなかった。先輩の後ろの席に無造作に置かれた、少し毛玉の浮いたブランケットが目につく。
「分かりません。でも困った事があると首筋を触ってしまうのが私の癖です。」
先輩は、ははと笑い、「ちゃんと触んないとダメだよ」と言うと再びパソコンの画面に向かった。

おそらく30分も経ってないだろう。私は作業に集中出来ず手を止め、気分転換にコーヒーを入れようと立ち上がった。
「先輩もコーヒー飲みますか?」
「いや、いい。」
「そうですか。」
先輩の後ろを横切る時、やはりブランケットが気になったのでたたみ直し、背もたれに掛けた。そんな私の様子を先輩は横目で眺める。

コーヒーを持って戻ると、先輩は私の席に座り、置いてある資料や文房具にそっと手を触れていた。
「どうかしましたか?」
「君は貴重面だね。整理整頓が出来ている。」
「ありがとうございます。」
私は立ったままぎこちなく頭を下げた。先輩はふふと笑う。
「お客様のことを考える時、どこ触るの?」
「まだ、まだ触っていません。」
私はおずおずとした調子で答えた。
「ズボン、おろして後ろ向いて。」
私は言われるがまま、スーツのズボンと下着をおろし、下半身を露わにした。
デスクにマグカップを置くとき、波打ってコーヒーが少し溢れた。
私はハンカチでそれを拭こうと思ったが、先輩が既に私のズボンを綺麗に畳んでしまっていたのでこぼれたコーヒーに気がつかないふりをした。
私は先輩に見えやすいように、少し前傾になり、左右の手で割れ目を開いた。
「ここも几帳面だ。」
割れ目を這う先輩の冷たい指は、私の口はカラカラに乾かす。
「仕草が几帳面だ。」
私は何も言えず、お腹で大きく呼吸をした。
私の下半身の隆起はまっすぐと前を見つめる。その静かな様子が私には恐ろしかった。
「アタックリスト、見せてごらん。」
「はい…」
私はパソコンのロックを解除し、作業中の画面を映した。
先輩は、リストに連なる名前に目を通す。
私は先輩の冷たい指に優しく撫でられながら呼吸を続けた。
「相田圭史様。」
先輩はおもむろに口を開いた。
「相田圭史様。」
「あいだけいしさま。」
私は、大きくお腹を波打たせながら先輩の言葉を繰り返した。
「秋山小平様。」
「あきやましょうへいさま。」
「井上諒様。」
「いのうえりょうさま。」
「伊原俊介様。」
「いはらしゅんすけさま…」
先輩が名前を読み上げ、私がそれを復唱する。
その作業はおよそ一時間に及んだ。
最後の名前を読み上げると先輩は静かに立ち上がり「お疲れさま」と耳元で囁き、オフィスを出て行った。
私は、絞り出すように「ありがとうございました。」と言うと、お客様の名前と先輩の指の感触を忘れないよう何度も何度も深く息を吸い込んだ。
こぼれたコーヒーはすっかり乾いていた。

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