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【4日目】荒野の中のオアシス

まだ闇夜に月がぼんやり輝いている明け方。

肌に突き刺すような寒さの中、昨日食べた残りのご飯の入った鍋に水を入れて、湯を沸かす。

徹夜でバッグの修復をしていたせいで30分しか眠れなくて、まだ体には疲れが残っている。
昨日はあれだけ騒がしかった現場の人たちもすっかりと寝静まっているようだ。

雲一つない満点の星空に安心しながら、沸いた湯にインスタントラーメンを入れて、一気に腹に掻き込む。

テントを畳んで、クロに頭絡(馬の口に嵌めて手綱をつける為の馬具)を付けようとした時、昨日暴れたせいか、少し皮ヒモの部分が壊れかけていることに気付いた。 面倒だし時間もかかるけど昨日身をもって安全の大切さは経験したし、念には念を入れなくて修理しなくては。

頭絡を修理したり、バッグをジョナに乗せるのに手間取ってしまって、準備が終わったのは結局6:30過ぎだった。

辺りもすっかり明るくなって、現場のみんなも起きてきて準備を手伝ってくれた。

最後に、この先の道を確認していると昨日色々と教えてくれたトラックの運転手が紙切れを渡してくれた。

「この先に何かあればここに電話してくれ。すぐにトラックで助けに行ってやるからな!」

みんなの優しさが本当に嬉しすぎて、ただただ「ありがとう」の言葉しかでなかった!
携帯の電波は繋がらないけど。

みんなに「頑張ってこい!」と背中を叩いてもらい、クロに跨る。

この先には盗賊も多いらしいし気を付けないと!
みんな手を振ってくれる中、お礼を言って、勢いよく走りだした!

雲一つない晴天で気温も暖かく、360度見渡す限りの壮大な荒野に感動すら覚える。
風が程よい具合に吹いているから今日はブヨも少ない!
今なら「なんでもできる!」って気分だ!

でもそんなに現実は甘くないんだよなぁ。
クロは体が小さいせいかすぐにバテてしまった。

昨日の一騒動もあったし、また歩くことに。
ジョナに蹴られた膝の上が少し痛む。。。

石ころがゴロゴロしている荒野は歩きにくく、緩やかな登り坂は永遠に続いているんじゃないかとさえ思える。
足には豆が出来ては潰れて、どんどん痛くなっていく。

それでも歩き続けていると痛みはそのうち痺れになってくる。
さっきまで嬉しかった晴天も今は憎たらしくしか思えない。

もともと少ししか生えてない草も、上に登るにつれてどんどんなくなっていく。

この先に小さな湖があるはずだけど、本当に水はあるんだろうか。
そんな不安だけが頭をよぎる。

4時間ほど歩いて暑さでジョナもクロも俺もバテバテになってきた時、やっと下の方に陽の光でキラキラ輝く湖が見えてきた!

そして何より嬉しかったのは西側に来てから初めて見る家畜がいること!
草も生い茂っているし、きっと動物も過ごしやすい環境なんだ!!

まだAM11:30頃だけどこの先にしばらくは湖や川はないし、ここにはゲルも1軒だけあるし、今日はここで休むとしよう!

ジョナもクロも俺も自然と早足になっていた!
ゲルに近づいていくと、ゲルのすぐ近くで子供たちが3人遊びまわっていて、こっちに気付くなりすぐに警戒して固まってしまった。

頭に赤い布を巻き、ボロの上着に迷彩ズボン。
傍から見れば完全に不審者だ。

警戒を解くために笑顔を作って、大声で「こんにちは!」と言ってみた。
みんな首をかしげている。

「馬をこの近くで休ませてもいい??」 続けて話してみたものの、まだ首をかしげている。
その中の子供が一人、ゲルの中に走っていって、お父さんであろう人の手を引っ張ってきた。
お父さんは警戒しているのか木の棒を手に出てきた。

こんな時こそ警戒を解くためにも笑顔だ。
「こんにちは!馬を休ませたいのであっちのほうでテントを張ってもいい??」

お父さんは眉間にシワを寄せたまま、カザフ語で何かを話し始めた。
きっとモンゴル語が話せないのだろう。

俺もカザフ語が話せないし困ったな。。。。
ジェスチャーと簡単なモンゴル語の単語で何とか伝えたけど、とても歓迎されている感じではなく、ゲルの近くにはテントは張るなと言われた。

しょうがなく湖の反対側までジョナとクロを引っ張って行く。 ジョナが「もっと早く!」と言わんばかりに俺の背中を頭で押してくるもんだから、右足のかかとをジョナに踏まれて悶絶。

少しアキレス健を痛めたけど、なんとか歩けるレベルだった。
反対側についてからジョナとクロに水を飲ませてテントを張った。

あの親子には歓迎されなかったけれど、それでも湖があるのはめっちゃ嬉しい!!
水と草と虫に困ることがない場所があるなんて、オアシスにいるみたいだ。 ジョナもクロも生い茂っている草を勢いよく食べ始めた!

自分自身も長距離バスを降りたきり、シャワーを浴びてなかったからパンツ一枚になって湖の中に入りタオルで体を洗った!
水温は氷水のように冷たいけれど、1週間ぶりの風呂だから心身ともにスッキリ!

ブーツを脱ぐと豆がいくつも潰れたせいで靴下代わりに巻いていた布が血で真っ赤になっていたから、ついでに服と一緒に洗濯!

草の上に地図を広げてこの先のルートを確認していると、昨日の徹夜のせいか急に眠気が襲ってきて、気付くと眠ってしまっていた。

・・・ 何かが顔にヒクヒクさせている。
「なんだ?」と思って目を開けると本当に目の前に羊の鼻!!

おぉ!っと飛び起きてみると、さっきまで反対岸にいた羊たちがみんなこっちに来ていた。
地図をかじろうとしてた羊を怒ってから、思いっきり伸びをした。

ジョナもクロも立ったまま寝ている。
まだまだ日もあるし、釣りでもするか!とルアーと竿を取り出して湖に投げてみた。

なんの当たりもない。

でも、そのノンビリした時間が幸せに思えて少し癒された。
結局一匹も釣れず、バーナーでご飯を炊いて魚の缶詰と食べた。

夜は2時間おきにジョナとクロを移動させないと、食べる草がなくなっちゃうから短い睡眠を繰り返しながら日記を書いて過ごした。

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