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【9日目】オオカミに襲われたおじさんの話

朝6時。
大分軽くなってきた体を起こして、朝ごはん代わりの板チョコをかじりながら地図を広げた。
こうやって見てみるとモンゴルは本当に広い。

この9日間で進んだ道程は150km、残り2200km。
まだ1/10にも満たない。

このペースだとあと4ヶ月ほどかかるけど、残されたビザの期間は2ヶ月もない。
気の遠くなるような状況だ。

少しペースを上げないと!
明朝の出発までに、もし雨が降った時に備えて馬用のバッグの内側にゴミ袋を縫い付けたり、切れそうな紐を交換したり、道具の補強や整理をしていた。

そこに、昨日訪ねてきたおじさんが友達を連れてやってきた。

「なにしてるんだ?」
「荷物整理!」
「こんな大きなナイフは何に使うんだ?」
「オオカミが襲ってきた時に備えて!」
「銃は持ってないのか?」
「日本人だから持ちたくても持てないんだ」

銃を持ってないことを聞いたおじさんは目を丸くして、「銃を持たずに一人で馬で移動するなんて無謀だ!」と驚いていた。

「この3mのムチがあるから大丈夫!」 と言ったけど、完全にスルーされて真剣な表情で話を始めた。

数か月前、この村のすごく太ったおじさんが、放牧した家畜を探しに出て行って、いつになっても帰ってこなかった。
それで、皆で探し回ったら少し離れた山の所にボロボロになって血のついた服だけ落ちていて結局骨すら見つからなかったようだ。

ここから先はオオカミが増えるから夜は気を付けたほうがいいとのこと。
でもオオカミはまだマシな方で、もっと怖いのが尻尾のないオオカミ。
つまり人間。

この近くは警察もいないしオオカミに食べられて行方不明になる人もいるから、 もし死んでも見つからない可能性は高く、実際は何が原因かは分からないで行方不明になっている人も少なくないようだ。

森の中には山賊もいて、そういう人たちのほうがよっぽど怖いって言っていた。
おじさんは何回も、「もし旅を続けたいなら銃をどこかで手に入れたほうがいい」と忠告してくれた。
あと、荷物が多いと馬の体力も消費が早くなるからいらないものは買い取ってあげようか?と聞かれた。

投げナイフはジャンパーの内側に2つも入れてるし、中型のナイフも一本持ってるから、とりあえず一番大きなナイフを売った。(1500円程度)
ペットボトルに水は入れてるし、軍用の水筒も売った。(200円程度)
体と荷物を繋げているキーホルダー用のチェーンも売った。(100円程度) 少し荷が軽くなった。

おじさんが帰ると、明日からまた厳しい旅が始まるんだと改めて実感が沸いてくる。
荷物を軽量化する為に予備用の食材も早めに使おうと思って、豚汁2袋分をご飯と一緒に食べた。

正直、食料はなくてもなんとかなるけど、水分はなくなると命の危険が伴う。
少しでも食料を減らして、多少余分に水を積めるようにしたい。

一通り、荷物の準備が終わった後、隣のゲルにお礼を言いに行った。
「もう行くの!?ここに住んじゃいなよ!」 底抜けに明るいこの家族と話していると、本当にここに住み着いてしまおうかと心が揺れてしまう。

でも日本に帰ってからやりたい事もあるし、待っている人もいるし、何より冬にこの環境で-40℃まで下がったら生きていける気がしない。

『超』が付くほどの寒がりの自分にとって、現実に一気に引き戻されるには十分すぎる理由だ。

最後にみんなで写真を撮って、連絡先を交換して、軽くお酒を飲んでからテントに戻った。
早めに寝袋に入って、明日からのコースを再確認してから寝た。

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