飯島さんとぼく

飯島さんとは、私の小学生時代の遊戯王の師匠である。
私が勝手に師事し始めたので、この表現が正確かはわからないが、とにかく師匠なのである。

とある放課後、いつものように友達とショッピングモールの休憩スペースでデュエルに興じていると、見知らぬ中年男性が「俺と勝負をしよう」と声をかけてきた。
それが飯島さんとの出会いだった。

歳は50くらいだっただろうか。
寂しい頭髪、指紋だらけの眼鏡、フリースにダウンの着こなし。
私と同い年くらいの息子をつれていなければ、通報案件みたいな出で立ちだったが、飯島さんはその胡散臭さが霞むレベルで強かった。
八汰鳥、開闢、混沌帝龍…
当時の環境トップカードをふんだんに使ったデッキで完膚無きまでボコボコにされた。

その日から私は飯島さんのデッキを真似はじめた。
家中のカードをひっくり返して見つけた押収、ブックオフの1枚10円のコーナーでカードの山から掘り起こした魔導サイエンティスト、友達にレアカードを何枚も積んで交換してもらった天空騎士パーシアス…

そうして組んでいったデッキは、飯島さん相手に10戦2勝できるくらいには強くなっていったが、時を同じくして禁止カードが制定されはじめ、
苦労して集めたカードのほとんどは公式戦で使えないものとなってしまった。

使えなくなったカードの代わりにまた強いカードが出る。
この世の理を見た私はいつしかカードへの情熱が冷め、飯島さんとの奇妙な師弟関係は自然消滅していった。

今でも師匠と切磋琢磨した日々を時々思い出す。
当時持っていた、純粋無垢な向上心や情熱の一切を失ってしまった私を、師匠はどう思うだろうか。
まぶたの裏、いつでも嬉しそうにカードを引く師匠の表情からはそれを窺い知ることはできない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?