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『Sugarless III』〜特別な10年〜

2021年12月22日、スガシカオさんのデビュー25周年イヤーのキックオフ作品『Sugarless III』が発売になった。

Sugarlessというアルバムは、通常のオリジナルアルバムとは少しだけ趣が違い、シングルのカップリング曲や提供曲のセルフカヴァーを中心とした、いわば”あまり陽の目を見なかった曲″に光を当てるコンセプトアルバムと言っていい。

2000年に発売された『Sugarless』、2011年に発売された『SugarlessⅡ』は、どちらもスガシカオ史上に残る名盤となっており、特に第一弾の『Sugarless』は自身初のオリコン1位も記録した大ヒットアルバムとなった。

そして、『SugarlessⅡ』発売から10年、満を持して発売された『Sugarless III』。
個人的にも、恐らくスガさん本人にとっても、この10年という時間は特別なものだった。

スガシカオさんは、アーティストとして脂が乗り切っていた2011年10月27日に、衝撃の独立宣言。
40代半ばにして大手芸能事務所、レコード会社を辞め、Hitoriになった。

それは、まるでルーティンのようにタイアップの楽曲制作→シングル発売→キャンペーン→アルバム制作→アルバム発売→キャンペーン→ツアー開催→タイアップの楽曲制作→シングル発売・・・と無限ループを繰り返しているうちに、CD1枚チケット1枚の重みを忘れてしまいそうになる自分が居て、そこから脱却するには全てを一度捨てて原点に帰る必要性があったからだ。

だが、まだこの時点では、その先にどんなに険しい道が待っているのか、我々ファンも、スガさん本人すらも予想していなかったのだと思う。

独立した途端に”スガシカオ”の名前と音楽が、一斉に各メディアから消えた事。

ツアーの会場を押さえようと自らライブハウスにTELするも、「前金でお願いします」と人気アーティストとしては異例の扱いを受けた事。

原盤権が前の事務所に有るため、それまで作ってきた数々の名曲たちを使って商売ができなかった事。

過度のストレスから突発性難聴を発症し、アーティストの命である聴力を半分失ってしまった事。

渾身のアルバム『THE LAST』発売に合わせて、前所属レーベルから、嫌がらせとしか思えないようなとても紛らわしいタイトルのベスト盤が発売された事。

他にも、数え上げればキリがないほど、スガシカオが進む先には向かい風が、それもとんでもない程の暴風雨が待っていた。

それでも、決して信念を曲げずに、自分の信じる音楽を作り、一本一本のライブ、フェスのステージを真剣勝負で演り続けた結果、気がつけばあの頃よりも多くの熱いファン、仲間たちがスガさんの傍に居たんだ。

それはまるで、少年漫画の主人公が傷つく度に強くなり、仲間を増やしていく様を見ているようだった。

そして俺個人にとっては、2010年にMr.Childrenのドキュメント映画『Split The Difference』で雷に打たれたようにスガさんの歌声に惹かれ、『SugarlessⅡ』で沼に落ち、全てのアルバムを聴き沼にズブズブと沈み、初ライブでスガマニア道を歩き始めてから、本当に深く濃い10年だった。

あれから10年経ち、ついに発売された『Sugarless III』。
僭越ながら、いろいろ感想など書かせていただこうと思う。

『Sugarless III』(スガシカオ:2021年12月22日発売)


1.トワイライト★トワイライト

Sugarlessシリーズの前作『SugarlessⅡ』が、前事務所所属中に発売した最後のアルバムになり、それを踏まえても1曲目はこの曲しか考えられない。

あくまで個人的な感想ですが、前事務所への愛と惜別のメッセージのようにも感じて仕方ない歌詞に、スガシカオをスガシカオたらしめてきたFUNKと ROCKとPOPとノイズミュージックをミックスさせた、まさにスガシカオにしか作れない最強のミクスチャーロック。

ちなみに俺はmixiにて発表した『2017けんりきが本気で選んだ超個人的名曲15選』に、この曲を選曲しています。大好き😊✨

『君がくれたヘッドフォンは置いていこうかな 右がもう聞こえないんだ 新しいのにするよ』


2.10月のバースデー

実は俺は10月8日が誕生日なので、この曲のタイトルが発表された時テンションめちゃ上がりました笑

スガさんが原因不明の高熱に苦しんでいた時(検査は陰性)に見た夢?妄想?みたいなモノを具現化した曲。
こういう淡々と語りかけるような曲は、スガさんの声が抜群に映えるんだよなぁ。
スガさん本人もメルマガで取り上げてたけど、♪白々と明けていく朝が部屋を侵食して ぼくの身体は粉になって 消えてしまいそうです♪の歌詞が秀逸。

『君はあまり笑顔ではなかったみたい そんな気がしたよ ため息が生ぬるく喉を通った 熱がまだ高い』


3.Music Train〜春の魔術師〜

2015年春のFM802 × TSUTAYA ACCESS! キャンペーンソングのセルフカヴァー。
ライブではお馴染みの”ひとりぼっちの魔術師″が、ついに正式に音源化!
レジェンド揃いのkokuaの演奏が、聴いてるリスナーをまさに音楽の列車に乗せてキラキラ光る星空を飛び回っているような、そんな感覚にさせてくれる素敵な曲。

『いつか君が誰かを幸せにできたら 君に次のミラクルが生まれる』


4.もういいよ

ここ何年も感じていた事では有るが、コ口ナ禍になってから特に顕著に見られる”誰かが誰かを叩き続け、いつまでも許さない″風潮。
そんな時代にあえて、”許す心″をテーマにしたこの曲をアルバムのリード曲に選んだスガシカオ。

光に満ちた明日が皆に平等に降り注ぐ事など有り得ない。
有り得ないと解ってるからこそ、あえて♪ぼくにも君にも 父さんや母さんにも平等に ただそれだけでいい♪と歌う。
スガさんのファンなら大方の人が知っているように、スガさんの父親は2002年に既に亡くなられている。
その父親にも平等に光を。。

そして、”あの頃”の悔しい、腹立たしい思い。
それはスガさんだけじゃなく、彼を信じてついてきたファン一人一人が(程度の違いこそあれ)持ち続けてきた”許せない思い”。
それすらも、♪もういいよ もういいんだってば♪と、「もう許そうよ」というメッセージに、俺には聴こえた。

そして、それをとてつもなくオシャレなサウンドで彩るのが、前事務所時代の盟友Family Sugarである事も、あまりにもエモすぎる。

『あの時 ぼくには許せなかったけど もういいよ もういいんだってば 明日は いや明日こそ前を向けるように 生きたいんだ ただそれだけなんだ』


5.JOKER

まるで全てを浄化するように、優しい歌声で♪もういいよ♪と歌った後に、”許さないからこそ起きる負のループ”のような曲。
しかもゴリゴリの強烈FUNK MUSICを入れてしまうのが、我等がスガシカオ。
いやまぁ、何と言いますか変態ですね。←褒め言葉

本人曰く「恐らく日本歌謡界初の性病をテーマにした歌」との事ですがw
先日も新型コ口ナに感染してる恐れが有るにも関わらずサッカー観戦に行ってクラスターを起こした人の騒動が有りましたが、そういう世相を切ってる歌詞にも感じられる凄く刺激的な曲。

そして匂い立つような強烈FUNKなのにメロディアスで聴きやすいのが、スガシカオにしかできない匠の技であると思う。
He is King of Japanese Funk‼︎

『さぁ もう迷わないで!いますぐ引いて どれかがJOKERだ』


6.雨ノチ晴レ

『もういいよ』→『JOKER』→『雨ノチ晴レ』と、まるでジェットコースターのような曲順に、ココロがついて行くの大変だ(笑)。

この曲は、2017年5月6日、デビュー20周年記念イベント『スガフェス!』開催当日に配信開始となった、言うなればデビュー20周年キックオフ作品。
スガさんの配信限定作品でもTOP3に入るぐらいの素晴らしい歌詞の曲だと思うのだが、何故か今まで一度もライブで歌われた事の無かった曲。
ついに日の目を見られて良かった!✨

ちなみにこの曲も、『2017けんりきが本気で選んだ超個人的名曲15選』に俺が選出した曲です。

今までありとあらゆるアーティスト、作詞家が使い表現してきた「勇気」「希望」「夜空」「心」「涙」「命」といった言葉たち。
それらを、こんなに深いコトバで哲学的に表現したこの曲こそ、作詞家としてのスガシカオの到達点の1つであると、そんな風に思うのです。

『この世の事に答えなんかはあるわけもない 君とぼくの答えだけが重なりあうなら もうそれでいいんだ』


7.ハッピーストライク

この曲も『雨ノチ晴レ』と同じく、スガフェス!開催当日に配信開始となった曲。
こんな前向き全開なタイトルの、カラッとしたハッピーファンク・チューン。
そこに何やら不穏な歌詞を早口で乗せていくセンスの良さよ。
結局HAPPYになれない歌なんだよなぁ。
そこが、あまりにもリアルで素晴らしいのです。

『なんかいつでもダメな自分の姿ばっかり見つけて それを誰かに許して欲しがったり』


8.ヒカルカケラ

Little Glee Monsterへの提供曲のセルフカヴァー。
この曲も、Family Sugarの演奏、森俊之さんのアレンジが魔法がかかったように素晴らしい✨

スガさんの声は不思議だ。
この年齢の男性が10代女子の恋心を歌うのって普通間違いなく違和感を感じるものなんですが、それがスガさんの唯一無二の歌声で聴かされると、違和感どころかただただ胸にコトバが刺さってくるんだ。

いつか、芹奈と一緒に歌う所も見られる日が来ればいいなと、そんな日が来るのをのんびりと待っています😊


9.心の防弾チョッキ

このアルバムには完全なる未発表の新曲が4曲有るが、その中でも一際歌詞がど直球な失恋ソング。
スガさんの歌詞でここまでの直球な歌詞も珍しいんじゃないかと思うんだけれど、これは完全にリアルタイムで恋したり失恋したりしている若者層に刺さるように書いたのだろうと推測する。

近年はMr.Childrenやスピッツですらも、特に恋愛ソングに関しては歌詞を解りやすくする傾向があるし、スガさんもかぁ。仕方ないかな、、とか思いながらよく聴き直すと、「携帯探ればよかった」とか「ワラの人形なんか作ってる そんな時代じゃない」とか、しっかり″拗らせリアル”なスガシカオ節が炸裂しているのに降参。

男の失恋なんて本当にダサくてカッコ悪いもので、でも大抵の失恋ソングは「何だ、結局カッコつけてんじゃん」って思ってしまう歌詞が多いのだけど、スガさんのそれは、男のダメな所を惨めなほど曝け出してて、やっぱり好きです笑

『おれだって恋愛中級者だし 心の防弾チョッキは (ちゃんと着てたのに) 君とよく待ち合わせた この駅に降りたら (精神が)メルトダウンした』


10.ぼくの街に遊びにきてよ

この後の2曲がボーナストラック的扱いで有ると考えると、この曲がSugarless IIIのラストを飾る曲。
俺が『2019けんりきが本気で選んだ超個人的名曲15選』に選出した曲であり、何とあの桑田佳祐氏が自身のラジオ番組で、2019年のNo.2 SONGに選んだ名曲。

小林武史氏作の美しいメロディーと、スガさん作の情景がフワッと眼前に広がるような抒情的な歌詞。
この約2年間とても辛い事が多かった東京。
スガさんが生まれ育った東京を歌ったこの曲は、今だからこそ、より胸を打つ。


11.Real Face(Produced by 松本孝弘)

KAT-TUNへの提供曲『Real Face』誕生から15年、ついに実現したスガシカオ×B'z。
普段のスガさんの曲では考えられないぐらいエレキギターがギュインギュイン鳴りたい放題鳴っていて、KAT-TUNのオリジナルとも、スガさんが以前セルフカヴァーしたのともまた違う、新しいReal Faceの完成だ。
いや、もう本当にカッコいい!としか言いようがない。

そして、この曲をスガさんが歌う度に、インディーズ時代にまさにギリギリに追い込まれながら、分厚い壁を思いっきりブチ破ってみせた”あの日のスガシカオ″を思い出す!


12.Progress

スガシカオデビュー25周年のキックオフ作品『Sugarless III』の最後の最後を飾るのは、NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』の主題歌であり、もはやスガさんの代名詞となったProgress。
しかも、”バックバンド”としてkokuaが演奏するという、贅沢極まりないオリジナルバージョン。

そう、この曲もこの10年、スガさんと一緒に闘ってきた曲。
あるときは存在すら消されかけていたスガさんの守り神のような存在になり、またある時は自然災害で絶望の淵に立たされた者の心に、そっと寄り添う存在になる。
スガさん自身も、「自分が書いたこの曲の歌詞に励まされた」と何度も公言している。

最初にNHKから来たオファー内容は、「(プロジェクトX』の主題歌だった)中島みゆきさんの『地上の星』を超える曲で、Mr.Childrenやオアシスのような曲を作ってほしい。あ、放送開始は迫ってるから急ぎでお願いします。」というムチャ振りにも程がある内容だったらしい😅

そのムチャ振りに期待以上の結果で応えてみせたスガさんにも、「スガシカオくんしか居ない!」とスガさんを指名した武部聡志さんにも、スガさんがインディーズ時代も変わらず流し続けてくれたNHKにも、本当に心から感謝したい。


以上12曲。
スガシカオさんの会心のアルバム『Sugarless III』。
1人でも多くの人に聴いてほしいと願う。


あれからの10年。
スガシカオさんの音楽を好きにならなければ見られなかった景色を、いっぱい見させてもらった。
だから、こんな浅いレビューしか書けない奴ですが、これからもずっと、その優しくも怪しく光る月のような音と共に。


さて、これが2021年最後の記事になります。
来年は、音楽業界にとって素晴らしい年になる事を、心から願っています。
そして、スガシカオさんの25周年イヤーが最高の1年になりますように🍀🍀

皆様、良いお年を。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました😊

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