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佐久穂町の2022年〜中間教室指導教員・小田良男さんインタビュー

さくほ通信clubのメンバーが企画・制作した「さくほ通信」10号(2022年12月発行)では、『町民に聞きました「こんなことあったね」佐久穂町の2022年』と題して、町民の方々に「自分にとっての町のニュース」を発表していただきました。
ここでは、紙面には掲載しきれなかったお話を紹介します。おひとり目は、佐久市の小学校校長やスクールメンタルアドバイザーを務め、現在は佐久穂町の中間教室で指導教員をされている小田良男さんです。

小中学生が通う「中間教室」がスタート

-- 小田先生にとって、2022年の町のニュースは?

私は今、不登校の子の相手を仕事にしていまして、それが今年から「中間教室」という形になったことが一番のニュースですね。

-- 今年始まったのですか?

実態としては去年も一昨年も同様のことをやっていたのですが、今年になって正式な中間教室ということになりました。旧佐久町中央小学校の跡地にある「こどもセンター」でやっています。

-- 中間教室の役割は?

今、誰が不登校になってもおかしくない状態なんですよね。ちょっとした友達関係のこじれだとか、担任の先生との関係だとか、親御さんの考え方だとか、いろんなことが影響して学校へ行けなくなることがあるんです。

そんな状況を受けて、文科省の方でも学校に行けない子のために、学校以外に居場所を作るよう方針を出しています。その役割を、中間教室でやらせてもらっています。

-- どのような子どもたちが来ているのでしょうか?

今は小中学生が合わせて13人登録されています(2023年1月現在)。

常時来てるのは8人から10人。子どもによって色々ですが、早い子で8時から。午前中のあいだ面倒を見て、それから一緒にお昼を食べます。そのときにおしゃべりするのが、子どもたちは一番楽しみみたいで、ああでもない、こうでもないって言ってね。食べ終わったら、お迎えが来るまではしりとりをしたり、ブランコをぐるぐる回して「目が回ったー」なんて大騒ぎしたり、鬼ごっこやったり。こっちはくたびれちゃうんだけど(笑)。毎日1時半くらいまで、子どもたちと一緒にいます。

10人いると、まあ大変は大変です。子どもたちそれぞれに、一生懸命勉強したいっていう日もあれば、今日はもうあまりやりたくないなっていう日もあって、子どもの状態に合わせて対応するのが難しいところもいっぱいあります。でも、できるだけ子どもたちがのびのび生活していけるようにということで、活動をさせてもらっています。周りから見れば「甘いんじゃないの」と思う人もいるんじゃないかな?

勉強だけでなく「人とつながる力」を

-- いずれ学校に登校できることを目指しているのでしょうか?

そうですね。中間教室があんまり居心地がよすぎてもいけないのかなって思ってるんです。やっぱり最終的には、学校に行ったり、多くの人と接することができるようにしてやりたい。でも、厳しくしすぎると中間教室にも来なくなって、居場所がなくなっちゃうともっと困るから、難しいところですよね。

勉強も大事だけど、何より人とつながる力をつけてあげたいと思っています。例えば、学校で行事があるときだけでも行けないか、担任の先生とも相談します。それで「こんな行事があるけど、どう?」って聞いたら、行けるお子さんもいるんですよね。

この間は、「むかたん」(佐久穂町ふるさと遺産収蔵館・愛称「むかしたんけん館」)っていうところへ行かせてもらって。昔の黒電話を体験したりして楽しんでいたお子さんもいますよ。普段学校に行けないんだけれど、そういう機会に参加して「よかったね」って思うところもあったり。音楽鑑賞会なんかは、こっそりステージの上の2階から聞かせてもらったり。「運動会に出られたらいいね」って言って、何回か練習に参加したりもしましたね。

そうやって、できるだけ学校とのつなぎをできればいいなっていう風に思ってるんだけども、周りの人からすると「なんでそういうとこに来られて、普段は来られないの」っていう、疑問の声が投げかけられることもあるんですよね。それは、子どもたちにとってみれば、ちょっと切ないのかな。「本当はもっと行きたいけども、行けないんだよ」っていうお子さんもいるし、人と接することを本当に苦手としてるお子さんもいる。そういうことが周りに理解されにくいのも、不登校になる原因かもしれません。

-- 中間教室では、どんな活動をしていますか?

ボランティアの先生と私と、中学の英語はありがたいことに中学校の先生が火・水・木の週3回来てくれるので、一緒に教えてもらいながら学習しています。また、プリントやタブレットを使って勉強したり、体育館でドッジボールやバドミントンをしたりしています。

最終的には、生きる力をつけなくちゃいけないって思うんです。「生きる力ってどういうこと?」といった時に、やっぱり自分で生活していけるだけの力をつけたいんですよね。そうすると、学習的な能力もつけてあげたいし、生活の中で「いけないことはいけない」って教えることも必要だ思うし、まだ始まったばかりで難しいところもたくさんあります。

まずは、子どもがのびのびと生活ができるということを、一番大事にしていかないといけないと思うんです。でも、特に中学生で一番問題になってくるのは進路なんですよね。「高校どうする?」っていう時に、それだけの学力をつけておかないと、自分の思う進路を選択するのが難しくなってしまうという状況があって。

小学生の段階でも、長い期間学校に行っていないと、 どこまでの力をつけたら中学校で頑張れるのかな、ということも大きな課題になります。

不登校の子どもと進路を考える難しさ

-- 進路について、具体的に対策している子もいますか?

中学3年生で、だいぶ長く学校に行けなくなっていたお子さんがいます。大勢の人と接するのが苦手だというんですね。家庭訪問をして、「おい、どうだい勉強してみねえかい?」って言ったら、「じゃあ、ちょっと行ってみようかな」という話になりました。「できれば、誰とも接したくない。先生ひとりだけ?」って言うから、「うん、俺ひとりだけだから大丈夫だよ。ほかに支援員さんがいても、声かけないようにするから大丈夫」と言って、2週間前から週に1回、1対1で勉強を見ています。

今までずっとうちに引きこもっていたから、一緒に暮らしているおじいちゃんやおばあちゃんも、「先生、外へ出れるようになって良かったよ」って喜んでね。

そういうふうにスタートを切ったばかりだから、その子の気持ちを大事にしていかないといけないなと思うのと同時に、中学3年生だから進路のことも考えなきゃいけない。それで、「どんなふうに進めたいの?」って聞いたんです。すると「僕は、できればeポーツをやりたい」って。eスポーツって、ありますよね。スポーツと言っても、ゲーム機なんかでやるやつです。

(その方面の通信制の学校があるんだけど、)結局、人と接するのが嫌だから、スクーリングがあるのがちょっとどうなのかなっていうことが、本人の課題になってるんです。月に1回とか年に数回とか、学校によって条件があって、スクーリングに行かないと単位が出ないんですが、「年数回だけでも、そこへ行くのがちょっと辛い」って。

「何か良い方向を考えなくちゃいけないけれども、でも、人と会わねえってわけにはいかねえやな。だんだん慣れてきたら、行けるっていう感じはないの?」って聞いても、「今のところは、ちょっと厳しい」って言うんですね。「わかった。少しずつ考えてこう。じゃあ、今日はちょっと勉強しようか」という感じで、今のところは様子を見てます。

中間教室ができて、そのお子さんがうちから出られるようになったのは、すごく良かったと思う反面、卒業まであと半年もないなか、どうやって力をつけたらいいのかな、というのが難しくてね。

--卒業の時期は迫るけれど、その子のペースというものがありますよね。

そう、少しずつ変わっているところもあるんです。そのお子さん、最初は顔も見せたくないって髪の毛を伸ばして顔を隠していたんです。それが最近は、普通に顔を出せるようになった。担任の先生も、最近やっと会えるようになって。

最初、その子に「担任の先生とも顔合わせていないらしいじゃない」と聞いたら、「タイミングが悪いんだよ」って言うんです。会いたくないわけじゃないんだ、と。それで、前もって電話して、会えるかどうか確認してから行くようにしてもらったら、会えるようになって。今は担任の先生がちょくちょく連絡して行くようになって、それまで昼夜逆転していた生活も、だんだん改善してきたみたいです。

「どうでもいいんだよ」で心が開くことも


--学校に行けなくなるというのは、本人にもはっきりした理由は分からないのかもしれませんよね。分からないけれど、小田先生のところに行って「この人はなんだか安心できる」みたいな気持ちになることで、少しずつ心が開くということがあると思います。

なんか理由が分かんないけど、なんとなく行きたくない……という感じになっていそうだな、という子はいますね。

例えば、「人と接するときには、こうしなきゃいけない」という形でしか教えられていない子に、「どうでもいいんだよ」って話せば、「ええっ?」って驚くんだよね。「だから、 こうやらなきゃいけねえっていうことじゃねえだろ?」って説明すると納得するんだけど、それまでに色々言われて、「絶対こうしなきゃ」という風に思っちゃって、それで心を閉ざしてしまったりするんでしょうね。

--中間教室が自分を開放する場所になり、心の支えになっているのだとしたら、とてもいいですね。

だから、中間教室ってもっと大事にしなきゃいけないと、私は思うんです。教育委員会の方にも、「もう少し協力してよ」「先生方の人数を増やしてよ」っていう話をよくします。

ありがたいのは、小中学校の校長先生、教頭先生、養護教諭の先生たちも様子を見に来てくれたりと、学校が本当に協力的なことです。私、午後は佐久穂小・中学校の方に行って、子どもたちの様子を担任の先生方にお話するんです。そういうつながりができるようになったというのは、本当に良かったです。そういう意味でも、今年、中間教室が始まったというのが、自分の中では一番大きなことでした。

(取材日:2022年10月18日 聴き手・構成:やつづか えり)


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