高校の同級生とのトークイベント

高校3年間、もっとも多くの時間を一緒に過ごした友人が、黒岩徳将くんだった。
彼とは、同じ文系だったこと、電車で帰る方向が一緒だったこと、さらには音楽の趣味が一致したことなどから、仲良くなった。

音楽の趣味といっても、好んでいたのは流行りのJPOPだ。彼はポルグラフィティを愛し、僕は森山直太朗さんを愛した。
数名で連れ立って、学校帰りによくカラオケに行った。6時間歌い込んでもまだ歌い足りなかった。
最後は大抵、中島みゆきを合唱してカラオケを締めた。最後に歌うことで、歌謡曲そのものへの畏敬の念を再確認しておこうという趣旨だった。

彼とは部活も一緒だった。俳句創作部。たしか、僕が誘った。

僕が俳句創作部に入部したのは、顧問の先生が学校図書館長をやっていたからだ。
僕は図書委員をやっていた関係で、その先生から直に俳句創作部への勧誘を受けた。
最初は、尻込みした。
俳句なんて古典的なもの、ダサいと思っていたのも正直なところだ。

ところが体験入部してみると、ハマった。
僕が俳句にハマったのは、先述したカラオケにハマっていたのと恐らく構造として似ている。要は、俳句を、歌詞と通底するところがあると感じたのだ。

JPOPを愛する僕は、メロディよりも歌詞を気にしていた。テキストを重視していた、ということだと思う。
とにかく、人気のメロディに乗せられて歌われる歌詞の、その切実さや深みが好きだった。
無意識に、自分でも、歌詞を書いてみたい、となんとなく思っていたのかもしれない。

ところが作曲できる人がいないと、歌詞を書いたってどうしようもない。
そんな僕にとって、俳句を作るというのは、作品として一人で完結する作業であり、とても心地が良かった。
高校3年間、3年連続で俳句甲子園全国大会に出場した。実は選手宣誓までした。俳句が、好きだった。

大学に入ると、今度は目の前にカメラと編集ソフト、それを扱える仲間が立ち現れて、映像に夢中になった。
テキストがなにより大事だと思う一方で、テキストから離れた、いわば曖昧で、それでいて現実よりもさらに現実だと思えるような不思議な世界が、カメラを覗き込むと、見えた。
僕はテキストだけで戦う土俵から離れようと決め、映像に進んだ。
その当然の結果として、俳句からは遠ざかった。(映画は、脚本というテキストを経由してから、映像になる。テキストに縛られ、それでいてテキストから自由になろうとする芸術なのだといつも思っている。今は映画監督として映像に向き合う日々だが、やはりテキストや構造重視の人間だと自分でも思う。それが出発点だからしょうがない。それでも仕事があるのは、テキストを重視しようが軽視しようが、それ自体は問題にはならないという豊かさを、映像が持っているからだろう。自分にフィットする芸術様式を選択できて良かったと、心から思う)

一方で、黒岩君はどっぷり俳句に浸かった。テキストに向き合い続けたのだと思う。
自身でも句作を続け、また母校の俳句甲子園の指導に当たった。

15年が経った。
僕は映画監督になり、黒岩くんは俳人になった。
なにかが変わるには、十分な時間が過ぎたのだ。

黒岩くんは、第3回俳句大学新人賞特別賞。現代俳句協会青年部長を務めている。
そして先月、念願の第一句集「渦」を出版。全国の大きな書店で買える他、ネットでも購入可能だ。

僕はこの本を送ってもらった時、嬉しくてたまらなかった。周りの人に、ほらほら同級生が句集を出したんだと、自慢して回った。
黒岩くんが15年の間に積み重ねた、創作への苦労と感動を想像すると、自分のことのように思えてならなかった。僕も、この道をやめなくて良かった、と思った。

そして一つ一つの俳句を読んで、唖然とした。
テキストしかないはずの、その向こうに、あらゆる映像が見えてくるのだ。まったく、カメラや俳優を必要としない。脳のイマジネーションさえあれば、彼の俳句は、どんなに高いお金を出しても味わえない景色へと連れて行ってくれる。

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頬ずりで凹んだやうな夏の月

口笛となるまでの息冬桜

もろこしを動く歩道で頂きぬ

書く前の手紙つめたし夕桜

神々が跳び箱を待つ立夏かな

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黒岩くんから、京都で一緒にトークイベントが出来ないかと連絡をもらった。何を差し置いてもやりたい、と返した。
彼が全てセッティングしてくれた。京都にある恵文社という、素晴らしい場所でトークイベントが実現する。

【日時】2024年7月28日(日) 15:00〜16:30
【参加費】無料
【ご予約方法】予約フォームよりお申込みください。

もしご都合宜しければ、あるいは物理的に寄れる距離であれば、ぜひお越し願いたいです。

7月ながら、季語の世界では晩夏の京都にて。
お待ちしています。

↓イベント詳細


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