爪のコンプレックス

私は、物心ついたころから自分の爪がコンプレックスだった。いわゆる貝爪や男爪だと言われる、小さな、すらっとしていない爪である。

小さい頃は、そんな爪でもいつかはすらっとするかもしれないと思っていたし、ネイルサロンの力を借りればコンプレックスは無くなるんだろうと思っていた。

同級生がネイルをしだす年齢になった時、自分もあこがれてネイルをしたことがある。でも、ポリッシュを塗った自分の爪は想像とかけ離れた、不格好な、色を乗せただけのもので、かわいいとは到底思えなかった。気に入らなくて泣きながら除光液で落とす。どうにもならない自分の小さな爪が悲しくて悔しくて、でもそうじゃないよと言ってほしくて、母親にネイルの感想を求めていた。思っていた答えが返ってこないと泣きじゃくって拗ねていたので、母親はさぞ面倒だっただろうと思う。

SNSで‘ちび爪さん‘と紹介される、比較的爪が短い人のネイルを見ては、「それくらいでちび爪なんて名乗るなよ」と思っていた。(今も思っている)

今も、いわゆる女爪の同級生のかわいいネイルを見ては、帰ってから悔しくて泣いてしまう。そんなずっとずっとコンプレックスだった爪を変えたくて、育成専門のネイルサロンを調べていた。地方なので、育成をしているサロンは片手に収まるほどしかない。金額もそれなりにする。爪の形が変わる保証は無い。ネイリストさんにどう思われるかも怖い。2時間も3時間もお店のInstgramを見て、やっとの思いで予約した。

ネイルサロンには3回通った。口コミを見ている限り、爪の悩みに真摯に向き合っているスタッフさんなのだろうなとは思うし、実際に接してみてそうでなかったとは思わない。でも、泣くほどに悩んでいる爪のコンプレックス、爪を変えたいんだと真剣に悩んで来店した過程、それらが伝わったとは思えない。客と店員の関係だから、伝える必要もないのかもしれない。でも分かってほしかった。施術中説教のような話をされるくらいなら聞いてほしかった。(色々な美容系のサロンがあるけれど、私はたいてい施術者より若く、学生であるためタメ口を使われる。舐められているようで気分が悪い。)

爪の形を変えるために必要なことは、ざっくり次のようなことだと言われた。

①サロンでのケア(甘皮の処理など)
②オイルによる保湿
③指先に負担をかけないこと

②と③は客のがんばりに委ねられているのだ。
②はできる限り頑張った。なんでも3日坊主の私が、毎日継続できた。
③は、スタッフさんの求めるレベルまでは実践できていなかったと思う。(アルバイトでは常に指先を使っているため)

3回来店しても、爪が伸びたとは思えなかった。Instagramに投稿される写真には、3回目の来店でも爪が伸びている人が多くいた。客観的に写真で見れば、自分の爪も多少は伸びていたのかもしれない。でも、伸びたという実感はなかった。そこで気づいた。写真でよく見ないと伸びたかわからない爪は、コンプレックスの根本的な解消にはならない。

もちろん、他人には気づかれなくても、「爪が伸びている」と自分が思えれば爪に自信が持てるのかもしれない。そのためには、(自分のなかなか伸びない爪では)来店回数を重ねる必要がある。今の私は、祖父母からもらったお年玉を切り崩してネイルサロンの施術代を払っている。1回6,000円以上。それを払う価値があるのか?今までの3回、払ってきた価値はあったのか?
そしてこれから「爪が伸びた」と思えるまで払い続けることができるのか?

正直、払ってきた価値を感じられなかった。今から伸びる可能性はあるのにそれを信じられない自分の弱さも理解している。しかし、アルバイトで月に2,3万しか稼げない自分にとって、確約されていない希望的な未来に何千円もは出せない。そのお金を使いたい用途は他にも沢山ある。

通っていたネイルサロンは、3回目以降の施術いつ辞めても良いことになっている。サロンの方はそれを‘卒業‘と呼ぶ。4回目の予約をしていたが‘卒業‘の旨を連絡した。そして、あわよくば、‘卒業‘の理由を聞かれないだろうかと思っていた。

結果は、沢山の絵文字と了承の旨が書かれた文面のみで、去る者追わずの姿勢だった。辞めると言った客に理由を聞いて引き留めるほど暇ではないのだろう。

耳障りの良いレビューの奥には、声なき声があったのだろうと思う。スタッフの方の技術や態度が悪いわけではないので、こういった思いをしたした人は、声をあげることはないだろうし、サロンに通おうかと検討している人には伝わらない。

爪は魔法のようには変わらないし、変わるためには日々の習慣に加えてお金がかかる。

これからも爪を見て泣いたり、ポリッシュを塗ったのに悲しくなってすぐに落としたり、そういう日々が続く。コンプレックスとともに生活していくしかない。

社会人になり、自由に使えるお金が増え、爪の形が変わる希望を再び持てたらネイルサロンに通うのかもしれない。それまではこのまま。諦めて生きていくのだ。





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