めのたま氏の「ハーフアウェイク&ハーフアスリープ」について語れる限り語っていく

この作品は夢であり、この作品は古明地こいしである。夢は理解しえぬものであり、古明地こいしは理解し難いものである。よって本作を理解せんとする試行は基本的には無為であり、本作はただただ「こいしちゃん可愛い!」「こいしちゃんマジこいしちゃん!」を叫ぶ為だけに読むのが好ましい。



なんてね。


※本記事にはめのたま氏の同人誌「ハーフアウェイク&ハーフアスリープ」についてのネタバレが多く含まれております。

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=588567

※26日現在、メロンブックスで購入することが可能です。当作品を購入し、心行くまで堪能してから当ブログを読むことをお勧めいたします。
※※5/30追記:電子書籍版も出たらしく、売り切れの心配をする必要はどうやらなさそうです。是非入手しておくことをお勧めします。




冒頭文と似た感じのことを前々から考えてはいたわけですし、実際本作を読んだ感想は上記の通りだったわけですから、まあ作者さんの云うところでの「たぶん貴方はこいしちゃんです」に当方は程々近いのではないかしらと思うのですが(自惚れ)、それはそれとして一介の感想書きとしましては、この作品の感想はがっつり書きたいしちょっぴり考察もしたいな。ということで、当方はこのブログを書くに至ったわけでございます。

まあお題目などはここまでにして、それではさっそく作品について語らせて頂きましょう。


さて、なにはともかくも本作はこいしちゃんが可愛い!きゃいきゃい楽しそうなこいしちゃんからきょむいじ状態なこいしちゃん、ちょっぴりしょぼくれ状態だったりちょいおこだったり、ころころと表情が変わって大変可愛いです。大好き。

冒頭を彩るモブの方々も、単なるデフォルメモブかと思いきや見覚えのある姿が結構ちらほら……出してる縁日もどことなく本物を匂わせてるあたり、芸が細かくて大変良いです。

あとさりげに1pだけドロワチラを描いてるの、めのたまさんほんとドロワ好きですね……となります。遊び心大好き。


霊夢と魔理沙が逃げて向かった先の森、樹の先端が丸まった後にハートマークを描いてるんですね。縁日シーンでもやけにハートマークが強調されているようですし、重要なモチーフなのかしら。

けれどこれを見て第一に思い浮かべるべきは、やはり「胎児の夢」でしょう

胎児の夢。その第三段階が描かれたなら、他の段階も描かれることを予期すべきでしょう。まずは第一段階といえば……単細胞生物……単純な構造と単純な反応、そして無数に発生する……。すると第一段階は、冒頭のデフォルメモブが指していたりしたのかしら?

第二段階、たい焼き屋の看板だけちゃんと魚の絵なのが気になったんですがたぶんこれではなくて、するとこいしちゃんが神輿に担ぎ上げられてたシーンがそれにあたるのかしら? 指向性を持った単細胞の集団、と考えるとそれっぽいですね。

では第四段階は……?

第四段階は解釈が分かれます。大量絶滅を引き起こした隕石の光、人類の興した叡智の光、胎児の生まれて初めて浴びる光……。けれど当方二次作品中で胎児の夢を描くひとは、その多くが第四段階を「叡智の光」、つまり「発見」であり「真理」であり、そういったシーンに用いることが多いです。それを踏まえて見るならば、これはさとりの出てくるシーン、真白で何もないあのシーンが指すものであると考えて良いのではないでしょうか。


霊夢と魔理沙の飛び込んで行った茨の空間。「刺々しい弾幕です。心の奥底は誰しも刺々しい物だそうです(射命丸文「ローズ地獄」について)」とのことなどから、これは恐らく「無意識への境界」と見るべきでしょう。デフォルメされていない人妖たちが、茨の上ではただ逃げるだけだったのに茨の下では一気に凶暴になっているのは、抑圧された本音を暗示しているのかしら




さて、細かい考察やネタ拾いはここまでにして、ここからはもう一歩踏み込んだ解釈を行っていきます。

本題:ハーフアウェイク&ハーフアスリープはこいしちゃん考察に一石を投じる希代の傑作である


「こいしちゃん自身へのメッセージを含む夢(作品あとがき)」との記述がありますから、本作の夢の描写には明確な意味が存在するようです。

決して眼を開けない無言の人妖たちと、目を開いてるこいしちゃん。そして「やあこいしちゃん」の一言しか発さないデフォルメモブたち。無理くりにでも第三の瞳を開けようとする霊夢、そしてサードアイ周辺のみを切り落としたこころ。これらを統合していけば、自ずと夢の指すメッセージは見えてきます。

そう。
この夢には、「こいしちゃんは眼を開けるべきだ」「眼を開けないと私達は分かり合えない」といったようなメッセージが含まれているのです。

これは正直なかなか残酷というか、いやまあこいしちゃんが瞳を開く物語というのはこいしちゃんの物語としては実に正道ではあるのですが。けれどもそれを優しい世界線の路線ではなくこういう乱暴で暴力的な路線で描くというのは、なかなかえげつないことをするなと思うのです。


しかし。

本作のこいしちゃんは、このメッセージを無視します。

完全にスルーするのです。


最後の方、さとりに話しかけるシーンではこそ、どうしたらいいのかと幾らか落ち込んだ様子を見せますが、しかしその後目を覚ました時はこいしちゃんの様子は完全にいつも通りで、ニコニコと笑いながらお姉ちゃんのことを考えるのです。暗示的な夢を見たからといって、このこいしちゃんはなにも変わることはないのです。


ここで、こいしちゃんについて少し考えてみましょう。


当方は、こいしちゃんはとても強いと思っています。

それも物理的にではなく、精神的な意味で。

思い返せば、こいしちゃんというのは常にへらへらにこにこと、原作においてはちっとも暗い顔を見せないキャラクターです。間欠泉異変では敗北しても驚きながら相手を褒めて讃えますし、黄昏作品でも敗北立ち絵はにこにこと笑った様子のままです。こいしちゃんの闇の最も濃い部分として持ち上げられるこころと遭遇時の台詞「感情なんてもとより持ち合わせていないもん」ですら、こいしちゃんはにこにこと笑ったままなのです

これを指摘しても、多くのひとは「それは感情が表に出ていないだけだからだ」と反論するでしょう。そしてそれは解釈としてはかなり一般的なものでしょう。ですからそう主張したくなる気持ちも分からなくはないのです。

でも、本当にそうなのでしょうか?

幸薄系少女さとりの一般的なイメージをぶち壊し、唯我独尊自己肯定系さとり様のイメージをぶち上げた「さとり11点騒動」は、まだ記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。多くのさとり書きを驚愕させしめたかのクロスレビューですが、けれども思い返してみればそれを示唆するシーンというのは幾つも存在していました。多くのひとがそれになぜ気付かなかったかといえば、それはひとえに人々が「引きこもりで弱弱しく、強大な能力に振り回されがちな幸薄少女のステレオタイプ」に引きずられていたからなのではないでしょうか。


そして何より、これと同じことはこいしちゃんにも起こり得るのではないでしょうか。


こいしちゃんは、なにをするにも笑顔です。生を謳歌しているように見えます。多くのひとはそれを見て、「あの笑顔は空っぽの偽物である」と考えています。

けれどそれは本当なのでしょうか。

こいしちゃんは昔から、ああいう気質であったのだという可能性はないのでしょうか。

よく笑い、勝っても負けても笑顔のまま。楽しいことを愛し、見られることを喜ぶ、表象上のあのこいしちゃんこそが、実は元々のこいしちゃんの性格だったとしたら……。

こいしちゃんは地霊殿での初登場時、「人の心なんて見ても落ち込むだけで良い事なんて何一つ無いもん」と発言しています。重い言葉と扱われがちなこの言葉が、例えばそこまで重い意味ではなかったとしたら……?



「ハーフアウェイク&ハーフアスリープ」のこいしちゃんは、こういったようなぼんやりとした予想を我々に感じさせるタイプのこいしちゃんだと、そう当方は考えています。

つまりこのこいしちゃんというのは、現状に満足し、現状を受け入れ、現状を楽しんでいるのだという予想を。


この考察が正しいものであるか否かは、当方には判断が付きません。

けれどもし、この考察が正しいものだとするのであれば。当作は、こいしちゃん界隈のこいしちゃんへの捉え方について、まさしく一石を投じる形になるのでしょう。

コロンブスの卵の逸話が示す通り、世の中において「汎説とは違う新しい解釈を示す」というのはたいへん難しい行為です。
そしてそれを達成せしめた本作は、正しい意味で「希代の傑作」と呼ぶのにふさわしいのではないでしょうか。


そしてもし、この解釈が間違っているのだとするならば。

そうであるならば当方はもはや作者様に白旗を上げることしかできません。

なぜなら夢とは理解できぬものであり、そして古明地こいしは理解し難いもの。本作が当方にとって理解するには手に余るような代物であったとするならば、それはまさしく作者様が、こいしちゃんを描き切っているということに他ならないということなのですから。


余談になりますが、目を閉じたままの夢の世界の人妖たちの中でただ一人、1シーンだけ目を開けているキャラクターが存在します。

彼女はきっと最後の最期までこいしちゃんを見放すことができないのだと考えると、ああ、やはり彼女たちの関係性は今でも唯一無二であるのだなあといたく感じ入ってしまうのです。


この素晴らしい作品を世に生み出してくれた作者のめのたま氏に、感謝を。

それでは。


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