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#1母のリアルトーク「残りの1割に入りました」

先日の1歳半健診にて。

発達相談が終わり、出口まで親子2人をお見送りしていたときに母がポツリ。
「クラスの9割は歩いているのに、残りの1割に入っちゃいました」

その母の主訴は、「歩かない」だった。
聞けば、ハイハイは1歳。
つかまり立ちと伝い歩きは1歳4か月。
そうして迎えた1歳半。
もうちょっと、あと少し、今日こそ、
明日にはきっと‥。
祈るような思いのうちに、とうとう今日という日が来てしまったのだろう。

母の、何とも形容し難い表情が、私の記憶を呼び覚ます。

小さめに生まれて食も細かった我が娘は、
体重測定では、成長曲線の下限ギリギリのラインを長らくさまよっていた。
ご存知ない方のために説明すると、
母子手帳には身長体重を測定記入するグラフに成長曲線というものがあって、曲線の帯の範囲内なら全体の94%に入っていることになる。
娘もまた、残りの1割に入っていた幼児期があった。

あのときは、毎日のように体重を計り、
100グラムの増減に一喜一憂した。
煮たり茹でたりすり潰したり、より食べやすい食材と形状をと、離乳食にも頭を悩ませた。
育児雑誌の読者の投稿欄では、
よその同年代の子どもたちが食べる大人並みのメニューとボリュームに愕然として、辛くなって見るのを止めた。

‥残り1割に焦るんですよ、母は。
人と比べるなと思いながら、
これも個性と言い聞かせながら、
やっぱり、乳幼児期は、横並びがいい。
まだ個性はいらない。

   *     *     *

「あと、もう少しでしたね」
そう言うと、母は、
「そうなんですよ〜」と笑ってみせた。

母の言うように、
統計的にも1歳半の9割は歩行が完成している。
そして、残りの1割もほぼ2歳までに歩く。
(当区調べ)

2歳過ぎに、
いつ頃に歩けるようになったかを教えてもらう約束をして、親子の背中を見送る。

人に相談するのには、勇気がいる。
1人で格闘していた私より、子どものために言いにくいことをさらけ出せる母の背中は強い。

相談室を一歩外に出てから玄関先までの、
ほんのわずかな距離。
そこでは時々、相談室の中では見られなかった母(父)の本音がこぼれ落ちる瞬間がある。
私はそれを見落とさぬように大事に受け止めていきたい、と思うのだ。

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