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さかさ近況㊲

日本推理作家協会賞にノミネートされたよ

 我ながらすごい字面だなと思うが、拙作「ベルを鳴らして」が、第77回日本推理作家協会賞の短編部門の候補作になった。

 作品はこちらから読める。

https://amzn.asia/d/hs8oC8d

 ツイートもしたが、「ベルを鳴らして」は、第14回創元SFコンテストの最終候補作でもある。高い評価を受けながら(と私には読めた)受賞には至らなかったので、その日はA5黒毛和牛をやけ食いしたものである。そういった経緯があるものだから、その後、小説現代に拾われ、このような名誉ある賞にノミネートされたことは感慨深い。創元の選評が、「SFの賞に相応しいか」で論議されたのは、やはり的を射たものだったろうと思う。が、私はそこまでできた人間ではないので、「試合に負けて勝負に勝つ、というやつだな」と、にちゃぁ…としている。
 編集者経由で連絡をいただいたのだが、「日本推理作家協会賞短編部門、ノミネートおめでとうございます!」という件名はスパムメールかと思った。旦那がオオアリクイに食い殺されるわけもなく、帰り道に通知を見たもので、自転車を漕いでいた私は内容を確認することもできず、とにかく事故に遭わないように必死に家に帰ったことを覚えている。あとで心拍数のトラッキングをみたら、そこだけ異様に高ぶれしていた。
 選考会は5月13日である。正直、まったく自信はないのだが、この機を逃すと、もう二度と訪れないのではないかと(ミステリを書くことがこの先あるのか?)思うので、ぜひ受賞してほしい。史上初の5人全員受賞でもいい。

書影が出たよ

 私が画像を見た途端に「神よ…」と崩れ落ちた書影が公開された。


 最高ではないですか? 最高ですよね。オマエも「書影最高!」と叫びなさい!!

 帯にはなんと、岸本佐知子さん、小山田浩子さん、斜線堂有紀さんからおそれおおくもちょうだいした。敏腕編集I氏による辣腕である。
 小山田さんは、短い小説を書く方としてとても尊敬している。このまえお話したとき、私と同じで、まずは書き始めてそれで完成させると聞いて、勝手に親近感を抱いた。一回勝負で初稿を書き上げるのだ。プロット立てられない民としては、それが内心負い目でもあったのだが、自信がついた。どれがよいかと問われると難しいが、ベタだけどやっぱり「穴」はとてもよい小説だと、再読しても思う。
 斜線堂さんは、作品もそうだけど、とにかくクオリティの高いものをがんがん短いスパンで発表されていて、そこに自分のとるべき道があるように思えて、これも尊敬している。ミステリ、SFなど、ジャンルが多岐にわたるのもすごい。いろいろ好きだけど、(手前みそっぽくなるが)、『百合小説コレクションwiz』(河出文庫)の「選挙に絶対行きたくない家のソファーで食べて寝て映画観たい」は、「こういう書き方があるか…!」と震えた作品でもある。
 そして、岸本佐知子さんは、もうはるか昔からお世話になっている方である。白水社の海外文学を読んでいると、決まって岸本さんのお名前が出てきていた。とにかく文体がいい。翻訳は好き嫌いがあると思うけど、訳書を読んで、「これ岸本さんかな?」と思えるのは、やっぱりすごい。どれかひとつは選びにくいが、やっぱり一番はルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』(講談社)だ。人生の中で衝撃を受けた一冊でもあるし、それが、岸本さんの翻訳で出たということが大きい。これに影響を受けて「5年ランドリー」を書いたのは内緒だ。あとは、ショーン・タンの『内なる町から来た話』(河出書房新社)のタグボートねこちゃんの話も何回も読んで泣いた。

 小説を(再び)書き始めてから3年ちょい。もうすぐ4年目になる。まさか、自分がこのお三方から帯コメントをもらう未来なぞ、想像したことなどなかった。先生方が評してくださった「鍵束」「余白」「拡張」は、この作品集の特徴を的確に表した言葉だと思う。その全貌は、君の目で確かめてくれ。

目次も出たよ

 目次も公開されている。

 おかげさまでいろいろ賞をもらったので、そちらを中心に入れているが、現時点での坂崎のベストアルバム的な感じなので、かなり読みやすいのではないかと思う。「ぜんぶ読んだな…」という熱心な坂崎ファン(いる?)の方にも、書き下ろしの「私のつまと、私のはは」「日出子の爪」がオススメだよ。1日1編紹介もしているので、そちらもよろしく。

「あの作品が入ってないじゃないか…!」という声もあるかもしれないが、そこらへんは分量と、まあ、続報を待て、というところもある。

最近読んだもの、見たもの

 締切り地獄に追われてなかなか読めなかったので、少しだけ。
R.D.レイン『好き?好き?大好き?』(河出文庫)を初めて読んだが、頭がおかしくなりそうだった。いまさら説明するまでもないが、精神科医でもあったレインの、詩篇とも呼べるようなそれは、ものぐさな私でも知っているぐらい、あまたの分野に影響を及ぼした。が、なかなか読む機会がなかったので、文庫化は本当にありがたい。読んでみると、なんだろう、患者と医師(家族)の対話のような感じで、平易な会話劇が、心の奥をさざ波だてていった。「で それから」「ねえきみ たのむよ かんべんしてよ」などにあるような、「知ってるくせに/知ってるって なにをさ?」という、成立していない会話の成立具合の現実感が、自分の心を混乱させるのかもしれない。
 詩ということで、笹井宏之『えーえんとくちから』(ちくま文庫)も読んだ。笹井の短歌は数篇拾うように読んで気になってはいたのだが、まとまった形では初めて読んだ。パンチというより、平手打ちされる感じの歌の数々で、「このケーキ、ベルリンの壁入ってる?(うんスポンジにすこし)にし?(うん)」みたいなユーモアのある意外な単語の組み合わせ、「きれいごとばかりの道へたどりつく私でいいと思ってしまう」というストレートな自由律的な表明の歌など、とにかく目をひき耳に残る歌人だと思った。あとがきや解説を読むと、毎日は身体的・精神的にも辛いことの連続だったと思うのだが、そこから研ぎ澄まされた言葉(≒身体)が生まれてきたのかもしれない。
 文學界4月号(恵投感謝)は短編がなんだかたくさん掲載されていた。なんでだ。長嶋有「ゴーイースト」は、連作の一編で、見つかった刀を都庁の登録所へ自転車(+スクーター)で運ぶ、というある意味ロードムービー的な話。シンスケさんという中年オタクを軸に据えて話が進む男三人の掛け合いの調子がとてもよい。こういうのを書かせるとほんとにうまい。だからこそ、最後の「食料の配布」のくだりが効いてくる。滝口悠生「煙」も、短い旅の話で、老人ホームへ長兄をつれていく兄弟たち(+親戚)を描く。こういう家族の情景を書かせると天下一品だと思う。憧れる書き方だ。
 アイナール・トゥルコウスキィ/鈴木仁子訳『おそろし山』(河出書房新社)もおもしろかった。登ったものの「人を変える」と呼ばれる山の絵本というかグラフィックアート的というか。頂上まで行き、別の山を見つける部分はちょっとぞくっとした。絵本では、斉藤倫、うきまる 作/五十嵐大介 絵『にだんべっど』(あかね書房)がよかった。兄妹の二段ベッドの会話がどんどん広がっていく、という話なのだけど、やさしさにあふれていて、最後のお兄ちゃんに会いに行くところが泣きそうになる。
 伊藤なむあひ「窓狐」(Call Magazine vol.52)は、おお、現代的怪異譚ではないか、という出色の出来。狐とテクノロジーは相性がいい。旗原理沙子「くびったけ」(Call Magazine vol.53)も、山のくだりから民話的な下敷きを感じる。不気味な爽快感。南木義隆「ここは世界で一番地獄だよ早く迎えに来て」(ケムール)もおもしろかった。私はいっさい煙草を吸わないし嫌いなのだが、それを魅力的に描けるところはさすがだ。煙草と閉塞感は相性がいい。「私」「あなた」の書き分けも、決定的に分割されつつベン図の交わりのように分かち難くなる要素も効果的だった。
 人文書系では、アリソン・マシューズ・デーヴィッド/安部恵子訳『死を招くファッション 服飾とテクノロジーの危険な関係』(化学同人)が面白かった。毒や寄生虫など、危険にあふれた服飾の歴史を丹念な資料とグラフィックで紹介していて、これはたいへんよいものでした。さんざん服飾を着る人というより、それをつくる労働者が顧みられなかったという歴史的な話をしてきて、最後に「でも現代だっておんなじですよ」と冷や水を浴びせるやり口もよい。

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 以上である。発売まで一週間。また宣伝が多くなるがご容赦願いたい。