2.「フリヴォラス・トゥナイト」ができるまで

ふと思い浮かんだメロディやメロディの一部は、何年間もかかって、ごちゃまぜになり、あるとき、曲と呼べるものになっているものだ。僕もたまたま、ギターでこんな風にEのコードを弾いていたとき♪♪♪すごく好きたな、と思えるメロディというか、ある音程を偶然みつけたんだ。それは、どこか聴きなじみがあるようでいて、それで独自のアイデンティティを持っていた。たとえば、「Steptoe and Son」の主題歌とか、「南太平洋」の中のロジャース&ハマースティン作「Happy Talk」とか、あと2つ3つの曲が思い浮かぶ、そんなメロディだった。それはこうやって♪♪♪Eのコードに乗せたとき、響きが美しくて、揺れるような感じがあって、これは曲になるかもしれない、と思ったんだ。どんな歌詞をつけたらいいか、見当さえつかなかったけど、ただ、音の響きがすごくきれいだった。♪♪▶でもしばらくEのコードばかりを弾いていたら、ちょっぴり飽きてきてしまったので、Eの次のコードチェンジということであれば、論理的にいってC#マイナーかな、などと思ったりした。でもEのコードでは平凡すぎると思えたので、そこに下音を加えてみてはどうか、と考えた。ちなみにこう思ったのは、少しあとになってからの話で、一番最初のデモではすっとEのコードのまま♪♪♪
そしてコードチェンジ、という具合だった。それはともかく、ここに下降するベース音を加えたら、どんなメロディになるだろうか?という興味が沸き、ネックの上の方でAベースのEコードを弾きながら、ベース音を下降させてみることにした。その結果がこんな感じ♪♪♪「つまらない話をしよう」…メロディ的にいって、こっちの方がちょっぴりいいだろ。それで、これを使うことにした。Eコードをキープしながら、ベース音だけを下降させることで、音の調和がさらに厚みを増したんだ。Eコードからどんどんペースを下げながら>>>C#マイナーへ>♪>そしてあるとき、偶然にみつけたのが今の7thへのコードチェンジだった。すると7thのコードがたいていそうであるように、自然と次の展開が見えてきたんだ。展開が見えてくると、音の流れの中で、さらにおもしろいことができるものだ。そんな風にしてみつけたコードチェンジは、曲の中間部分でも、違うメロディにのせて使っている♪>♪こういったメジャー3rdをベースにした7thのコードというの♪♪♪ネックの位置を変えれば、何通りも弾けるからね。次に考えたのは、Cマイナーから一音上げてみたらどんな風に聞こえるかな?ということだった。♪♪♪メロディにはどうやらあうようだ。というわけで、それがサビの部分になった。そんな風に、Cマイナーを足がかりにして、何種類ものコードへ発展させてみたんだ。このコードチェンジは曲の中間でも、メロディを交えて、取り入れられている。というのも、すごくこのコード進行が気に入ってしまったからなんだ。

アレンジについてだけど、ギターでこうやって♪♪♪ダウンストロークで弾いて、たまにこうアップストロークを入れるのでは♪♪♪自分の描いているリズムのイメージとは違う。と思ったんだ。こういう♪♪♪アップストロークはいらない。均衡をとるためのダウンストロークがあればいい。この曲には、取り立てられるようなリズムが必要だった。かといって、ドラムを全面的にち出すべきではないと思った。そこで、僕が注目したのはピアノだった。ピアノには、強く打ち込むような、打楽器的な資質があるが、アコースティック・ギターにはそれがない。この曲には、きっとピアノが適当にちがいない。とそう思った。ピアノに加え、デイヴ・グレゴリーが弾くくメロトロンもフィーチャーされているけど、ストリングスの音色にセットしたので、まるで1920年代の弦楽四重奏団のような音に聞こえるんだ。同じストリングスの音色でも、ちょっぴり違いのある音色で、曲全体に古風なサウンドの印象を与えている。まるで1920年代、パーク・レーンあたりのホテルの広場で弦楽四重奏団が優雅に演奏しているみたいな雰囲気、とでもいうのかな。僕がギターで作ったデモは、完成した「アップル・ヴィーナスVOL.1」のアレンジとは、まったく別ものといっていい。そのときは、まるでデイヴ・クラーク・ファイヴかなにかのようで、エレクトリック・ギターと足を踏みならす音だけ。種明かしをしてしまえば、それは僕がリズムをキープするために足を叩いていただけの、すごく簡単なことなんだ。でも、このデモにもなんともいえない魅力があるから、もう一度、エレクトリック・ギタ
一の別ヴァージョンを作ってみるのもいいかな、なんて思ったりもする。まるでサッカーの応援歌のような熱気があるんだ。でも、アルバムの方もすごくいいヴァージョンに仕上がったと思うから、ケチをつけるのはよすことにしよう。

この曲のブラス・アレンジは、僕とプロデューサーのヘイデン・ベンデルとデイヴ・グレゴリーの3人でおこなった。ヘイデンのスタジオで作業をしているとき、ふたりに提案したんだ、遊園地みたいな感じにしたい、と。デモの段階でもブラスは入っていたけど、コードのベース音を単に追っているだけの簡単なものだったんでね。この曲は、金曜の夜、カップルや夫婦が一緒に楽しいひとときを、部屋の中で過ごす、ということを歌った曲だったから(笑)、そういう楽しさを醸し出すのに、遊園地なんていいんじゃないか。そう思ったんだ。ヘイデン、僕、デイヴ・グレゴリーの3人がブラス委員会ということで、共同でアレンジを施し、デイヴがそれをキーボードで再現し、ヘイデンが譜面におこし、録音はその数週間後、アビーロード・スタジオでおこなわれたんだ。
揺れるような動きのあるメロディはできあがっていたので、それにあう歌詞はなんだろう?と言葉を探し始めた。僕はなぜか昔から、室内的なものとか、室内にまつわるちょっとしたことに、すごく魅力を感じてきたんだ。コール・ポーターの譜面集の中に、「The Great Indoors」という曲をみつけたときも、なんて素敵なタイトルだろうと思ったよ。そんなぐあいに、室内や家庭のささいなことにまつわることならなんでも大好きなので。そのあたりから考え始めた。そして思ったのは、部屋の中で親しい人達が集まるパーティのような、そういうことをお祝いするような詞が書けたらすばらしいんじゃないか、ということ。そこからイメージはどんどん膨らんでいった。人は金曜の夜とかに、会社の同僚を呼んで、ホームパーティみたいなことをするよね。奥さん達も一緒に集まって、夕飯を食べたり、軽くお酒を飲んだり。食事後、男性陣は居間に陣取って、一杯やりながら、得意の話を披露しあう。その間、女性は自分だけの小さな隠れ家ー普通、キッチンと呼ばれる場所さーに集まって、スフレでも焼きながら、僕が思うに、それぞれの旦那の話をしあう。うちの主人にはこんな癖がある、といったたわいもないおしゃべりさ。そんな光景が僕の頭の中で展開され、想像はみるみると膨らんでいったんだ。そして思ったのは、金曜の夜のこういう光景は、おそらく世界中で展開されているに違いない。
週末の金曜、人が楽まり、お酒を飲みながら、楽しいひとときを過ごす。そんなシンプルな感傷がとても気に入ったし、きっと誰もが共感できるはすだ。そう思ったんだ。

メロディと歌詞というのは、一緒に成長するものだ。最初から最後まで、メロディだけが一人歩きしてしまって、メロディがないと詞がでてこない。
というような曲は、僕はあまり好きじゃない。それでは向かう先が別々になってしまう。そうではなく、歌詞とメロディが一緒に同じ方向へ進むものであってほしい。最初のメロディ・ラインとそれに乗る言葉がひとつかふたつ見つかれば、あとは想像力が両方をさらに発展させ、一緒に成長していくことができる。それが理想的な形だとずっと思ってきたんだ。僕の場合、出だしの「つまらない話をしよう」という1行ができていたので、それを出発点とした。タイトルをどうしようかとか、あまり心配はしなかった。実際、いくつか候補はあったんだ。「Trivial Tonight」と呼ぼうかと思ったこともあったし、サビの部分にたどりつくころには、joyful という言葉を使って「今夜の我々はあまりにも陽気(joyful)」にしてみようか、とか「今夜の数々はあまりにも盛々しい(rowdy)」はどうかな、と思ったり。1行目に「つまらない(trivial)」という言葉を使っていたので、サビのあたりでまた使ってもいいかな、いや、それでは使いすぎかな、と思い直したり。そんな調子だったから、「他愛ない(frivolous)」という言葉を思いついたときには、飛び上がりたいくらい嬉しくて、探していたのはこれだ、「今夜の僕らはなんて他愛ないんだろう」だと思った。そんなわけで、これは金曜の夜、もしくは土曜の夜をーたいていは金曜の夜だよね?一楽しんでいる人達を祝う歌詞、というわけさ。

結局、仕上げるまでに全部で3カ月くらいかかったかな。この方が自然なのではないか、という淡い期待のもと、次の週になると、歌詞が変わっていたり、新たな1行を思いついて「これはいいぞ。ぜったい使わなきゃ」と思ったり。結局、いかに自然に感じられるものにできるかがすべてなんだ。時と一緒だ、とかつて誰かがいっていた。出発点は、ほんのささいなインスピレーションかもしれないが、その過程はクロスワード・パズルのようだ、と。
たしかに、ソングライティングとはそういうものだと思うよ。間違いなく、僕の場合はね。

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