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千早愛音さんの居場所

 アニメの感想文を書くなんて初めてで、いったい何に書いていいかもわからず、学生時代によく使ったレポート用紙に下書きし、それを転記しています。noteに直書きするのが苦手ということなら、メモ帳でもWordでも、何でも適当なものに書けばいいだろうというのは、もちろんそう。でも、燈ちゃんもノートに歌詞書いてるし。
 燈ちゃんが紙にシャーペンで歌詞を書く理由は結構わかるんですよね。紙に書くって、ペンが滑っていくというか、自分が意識できないことさえ文脈に導かれ溢れていくというか。うまく言えない言葉をそれでも伝えるという、歌の目的にすごく合っている気がします。

上手く言えない言葉?を描いている燈ちゃん

―閑話休題―

 アニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」の感想として、まずは徒然なるままに書いてみると、千早愛音についての言及だけで結構な量になってしまいました。燈ちゃんが愛音ちゃんのことを好きすぎるのはよく知られているけど、俺くんもかなり愛音ちゃんのことが好きらしい。


千早愛音の憂鬱

 人は多かれ少なかれ、千早愛音のような経験をしてきたと思います。ちゃんと言えば、挫折のことです。彼女の挫折は2つ、イギリス留学の失敗、そして、要楽奈との邂逅です。

イギリスへの留学

書いたって言えないこともある

 千早愛音さんは、中学校では生徒会長も務められ、成績優秀、スクールカーストもトップ。高校は得意の英語を生かして留学されました。ただ、向かった先ではみんな英語ペラペラで威圧感あるし、Annって呼ばれるし。嫌気が差した愛音さんは寮を飛び出してしまいました。

 5話のこのシーン、私は結構堪えました。高校生で留学というのは、夏休みに短期留学とかそういうレベルならまだしも、現地の学校で3年を過ごすとなると相当の準備がいるはずです。本来なら。そういった描写がまるでないどころか、むしろ、ノリで海外留学を決めているような描写があります。そういうのがすごく分かるんですよね。自分なら特に苦労もなくいけるやろ、みたいな謎の万能感。
 私にも、ノリで大学院に進学し、周りとのギャップに苦しんだ時期がありました。でも、そういう時に素直に周りの凄さを認めることってかなり難しくて、逃げ場を見つけられるならすぐに逃げてしまうし、そうでないなら、周りよりも優れているところをなんとか見つけて、そこだけを見るようにしてしまう。愛音さんの場合は、羽丘に逃げてきましたね。
 ただ、彼女がイギリスから逃げてこれたというのはかなりすごいと思うんですよね。現状の変更というのはいつでも労力のかかるものですし、特に、馴染めないから転校するというような、道から外れてしまう行動には相当な覚悟が必要です。そういうところで、私は愛音さんに敵わない。

ギター星人、要楽奈

5話冒頭の、BGMにギターケースを開ける音を嵌めてるやつ好き

 要楽奈さんは千早愛音さんと対を成す、は言いすぎですけど、対照的な存在です。愛音さんが、「そよりんもやめんなよ~!」と叫んでいたころ、世間では、"A〇Ⅵ"が発売されておりました。その作中の凄腕パイロットについての記述を引用すると、

A〇を駆る事を愉しみ日々の小さな上達を積み上げ続けた、
ただの人間である

A〇Ⅵ

 これ要楽奈さんのことだろ。要楽奈さんが人間かどうかについては議論の余地がありますが、ギターを弾くことを愉しみ日々の小さな上達を積み上げ続けたことは言うまでもありません。(楽しんでいるかは置いといて、若葉睦さんも恐らくそう。)まあ、いますよね。自分が努力だと思っていることを楽しんでこなしていく人。当然苦にも思ってない分、そういう人の方ができるようになりますし。
 一方、楽奈さんに初めて会ったころの愛音さんは、ギリギリコードを抑えられる程度の腕前。そりゃ逃げだした上で、時短で楽してワンランクアップしたくなるわ。

 さて、イギリス留学への失敗に続き、一か月ぶり二度目の挫折を経験した愛音さん。今回も世間を知らなかったのが主な敗因でしょう。でも、学祭ではギタボとして盛り上げてるわけだし。むしろMyGOのキャラみんな努力しすぎで強すぎなのがいけないとも思うわ。

居場所だったもの

 話は変わりますが、"居場所"とは何でしょうか。「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」のキーワードの一つでもあります。
 皆さんは居場所がありますか?あると即答できる人はあまりいないのではないでしょうか。まあ居場所っていろんな意味で使えるからね。私が住む1kのアパートを居場所といったっていいし、SPACEのことだって、そよさんの膝の上だって。

 では、千早愛音にとっての居場所とは何だったのか。

 順風満帆だった中学生時代、彼女の居場所は学校でした。生徒会長で、イケイケの女子グループで、スクールカーストの頂点に立つこと、周りからちやほやされるすごい存在。そんな、すごい存在であることが、彼女の居場所を保証していました。
 何かすごい存在であることは、自分のアイデンティティを強力に支えてくれます。みなさんも例えば、特に幼い頃、何かで一番だったことはありませんか?なんでもいいです。ギターでも、お絵かきでも、スマブラでも。なんでもいいからトップだったこと。すごい人だったこと。その頃って人生楽しかったですよね。そんな経験から、一番であることに居場所を見出してしまった人間、それが千早愛音さんで、私で、もしかしたら、これを読んでいるあなたでもあるかもしれません。トップだった物事の方がアイデンティティになればよかったのにね。付け加えていうと、すごい人という居場所を高校生になって初めて失うというのは、結構珍しいことだと思うんですよね。だいたいみんな中学生の頃には、自分は普通の人間だって気付きませんか?15の多感な時期に居場所を無くすの本当にかわいそう。
 留学に失敗し、帰ってきてからも、目立ってて一目置かれる存在になることを、中学時代のような居場所を求めています。そんな居場所を求めて、ギターを、バンドを道具にしようとしたら、要楽奈の登場。自分しかそこに存在し得ないという意味で強力な居場所であった、“すごい人”のための席は、2つの挫折を経験した彼女には届かないものになってしまいました……



終わってない……!

新しい居場所

 水族館での燈ちゃんの言葉がどれほど嬉しい言葉だったか、よくわかります。今まで、愛音さんに愛音さんであることを求めてくれた人はどれだけいるでしょう。私はすごい人間だから求められるというロジックに支配されながら、その前提が崩れてしまった彼女の目の前に、彼女の行動に救われたと、必要としていると、私もあなたみたいに進みたいと、そういってくれる人が現れたのです。そりゃしっかり手を繋いで離さないようにするでしょ。ライブやると宣誓もします。

 この後9話までの愛音さんは本当に強い。そりゃそうなんだよね。居場所を見つけたから。心を折ってきた楽奈さんの気まぐれにも負けず、逃げ出すリッキーも捕まえて。そして迎えた初ライブは大成功、いや大っっっ成功を収めるのでした……








なんで春日影やったの!!!

迷子

 長崎そよさんといえば、裏表すごいし、噓つきまくりだし、意地悪いところがあることでお馴染みですね。長崎そよさん本当に好きなんだよな。一生バンドやるために野菜ジュース飲んでるとか、ネタとしては絶対思いつけないしガチだろ。
 7話の最後から9話にかけて、長崎そよは一同のバンドをメチャクチャにしていきます。まあよく考えると、彼女はただ縁を切っただけで、それに対する免疫の過剰反応(とくにリッキー)がバンドを壊していく、というのが正しい気もしますが。

終わった、ではなく、君が終わらせたとこあったよね?

 10話が始まった時、本当に終わってて笑っちゃったんですよね。あそこから入れる生命保険はないよ。全12話だと思ってたし、あと3話でこの焼け野原から復活して謎バンド(オブラートに包んだ表現)も結成されるなんてことあるわけわけないだろって思ってました。実際には、「詩って伝わる気がするよね」から流れが一気に変わり、”詩超絆”で理解らせられるわけですが。もう何度見たか分からないけど、10話は何度も見直してしまうんだよな。

元からあった不完全さ

 さて、ここで大きく話をもどして、6話の愛音さんに視点を移したいと思います。このころの彼女は本当に強いのですが、アニメ13話まで見終えた今、彼女の余裕のなさが窺えるポイントがあります。

 皆さんお分かりですよね? そう、"ANON TOKYO"が存在しないのです。

 いやふざけてるわけではなくてですね…… このころの彼女といえば、燈ちゃんに必要とされることで得た居場所を守ることに必死なんです。ギターとして、自分がバンドの中で下手だという自覚。立希を中心としたバンドの不和。内憂と外患をかかえています。いや、居場所ってさ、必要とされることも大事だけど、自分として振舞えるかどうかも大事じゃないですか。それなのに、愛音さんがやりたいからやっていること、みたいなものが全く見えてこないんですよね、この時期の彼女。愛音さんのペースが明確に崩れるタイミングってのが、立希ちゃんに当たったときくらいだからかなり分かりずらくもあるんですが。この愛音さんのペースを維持することでさえ、バンド内の緊張感を和らげるために意図的に行っているように見えます。お前長崎そよに本当に似てるな。
 まあ、7話で演奏を始める前はかなり緊張しているのか、かなり素が出ていて衣装ほしいとは言ってくれるんですけど。

表情が豊かすぎる。

 必要とされる場所であって、自分が居たい場所とは少し違う、という意味で、7話までのMyGOは愛音さんにとって少し不完全な居場所だったように思うわけですが、そんな彼女が、自分が居たい場所としてこのバンドのことを捉えなおしたのはいつでしょうか?
 私は、7話で大成功したライブだと思うんですよね。だってすごい嬉しそうだったんですよ。碧天伴走を終えた後も、春日影を終えて楽屋に帰っていく時も。彼女が初めに報われるタイミングというのがここだったことは間違いがなく、すごい人としてのアイデンティティを失った彼女が遂に見つけた在りたい場所であったのです。
 まあ、その後の彼女も、必死にバンドを守るために奔走して、結局、彼女のやりたいことというのは出せない状況が続くわけですが。

崩壊

イキナリ・イラナイコ宣言

 そよさんに無視されても、L〇NEブロックされても、必死に居場所を守ろうとする愛音さんに止めを刺したのは、「いらない」という一言。ここまで書いてきて今さら言うことではないですが、彼女の居場所というのは誰かに必要とされることで保障されてきました。そこにこの一言。彼女の居場所を崩すことを目的としていたなら、あまりにも直球すぎるその言葉。動揺を隠せなかった彼女は、あろうことか、自分を必要としてくれた燈ちゃんに当たってしまいます。
 ここで燈ちゃんに当たってしまうのはあんま分かんないんですよね。私の人生の中で、明確に「お前はいらない」と言われた経験がないからだとは思うんですが。実際言われたことがある人からすれば、愛音さんが燈ちゃんに当たってしまう気持ちというのがわかるんでしょうか。ただ、居場所を否定されることのつらさというのは私にも本当によく理解できて、投げやりな気持ちになるのはめちゃくちゃわかります。
 書いてて思ったけど、「そよさんとCRYCHICやりなよ」ってのは自虐の一種だな。これというのは、自分を切り売りすることで相手を貶めることを正当化しているんですよね。こいつ意地悪いわ。

瓦礫の中で

 9話で止めを刺されてからというもの、彼女は、居てもよい場所、という弱い意味での居場所に戻っていきました。あれからどれほどの時間がたったのか、千早愛音さんは燈ちゃんに再び、「一緒にライブやって」と誘われます。

まだ弱い

 しかし愛音さん、これを「そよさんどうすんの」と軽く一蹴。解決できない問題の解決を先に迫ることで、自身の立ち位置を曖昧なままにしておくスマートさが彼女にはあります。さすがは生徒会長も務めた才媛。政治家とか向いてそう。まあ、千早愛音さんが欲しいのは彼女が必要とされる場所ですから。ライブなら"CRYCHIC"とやってればいいですもん。それか楽奈ちゃんでもいいじゃん。

 ここからが千早愛音さんの本当に可愛いところです。なぜか公式で場面カット画像が用意されていないのが不思議でたまらないのですが、途中で挟まれる絆創膏の描写が本当に美しい。燈ちゃんにライブをやろうと誘われた時にはしていなかった、ごく普通の柄のない絆創膏を、燈ちゃんと謎の中楽聖がライブをやっているという噂を聞いた時には付けてるんですよね。

ここに、「やっぱり、いらないじゃん、私」の画像を貼る

 燈ちゃんにまた誘われて、やっぱり必要とされたいからギターをひとりで必死に練習してさ。そしたら、自分の心を折った存在でもある要楽奈さんとライブやってるの。なんすかそれ。一つのカットでこんなにも美しいと思ったのは5年振りです。ご丁寧に「愛音ちゃんいるよ!」のシーンでは絆創膏付けてないし。練習やめてはないんだろうけど、どうせ私はいらないんだという自己否定に苛まれているのが手に取るようにわかってしまう。
 でも、救いを求め続けてるのもめちゃくちゃ分かるんだよな。強い口調で「愛音ちゃんいるよ!」って言われたって、それだけじゃ足りなくて。どうせ私なんて、という思いを払拭するためには、そこで逃げて、それでも追って来てもらわなきゃいけないんですよね。

立希ちゃんは逃げるためにちゃんと校内をグルグルしてた。
愛音ちゃんはなぜ逃げ場のない屋上に行ったんだい?

 挙句の果てに「燈ちゃんのせいだよ」という発言。それだって、自分がやりたいと思っていることへの照れ隠しで。本当に可愛いよ愛音ちゃん。

千早ママ

 さて、その後の愛音さんはと言えば、長崎そよとのバトルに完勝するわけですが、まあ当然ですね。10話の長崎そよさんは豊川祥子さんのマネをしているだけですから。居場所のために苦しみ抜いた人間に、そんな体たらくで挑んでも勝てるわけありませんわよ、長崎そよ。

 これを書いているタイミングで10話を見直したんですけど泣いちゃった。やっぱ詩って伝わる気がする。

It's MyGO!!!!!

 タイトル回収ノルマ達成。10話で復活を遂げた一行、11話以降は彼女たちの居場所としてのバンド、"MyGO!!!!!"が描かれていきます。愛音さんも、バンドの名前を決めたり、衣装を作ったりと大忙しです。
 本当に嬉しいんですよね。愛音ちゃんが自分のやりたいことガンガン出せているという状況。

 ところで、さっき絆創膏の話をしたので、ここでも少し言及しておきますと、ここカットでは、無地の肌色の絆創膏ではなく、ちゃんと柄の入った絆創膏をしています。ついでに言えば、片方はパンダの絆創膏。アニメ本編では述べられていなかったかと思いますが、立希ちゃんはパンダがめちゃくちゃ好きです。あらゆるものに文脈乗せてきてるの怖くなってくるわ流石に。

居たい場所になっていく過程

 このシーンも、私のお気に入りだったりします。まず、愛音が努力を隠すところ。これめちゃくちゃ分かるんですよね。なんか苦労せずに上手くなるとか、結果を出すとか、成績がいいとか。そういうのを格好いいと思ってる時期ってあるじゃないですか。特に、苦労をせずに、トップであることをアイデンティティにすることができた時期のある人は、そういう傾向があると思います。実際私がそうだったので。なんなんですかねあれって?とにかく、そういうところがまだ愛音さんに残っているという、まだ迷子な一面が垣間見えるのが本当に好きです。加えて、立希ちゃんに向かって「謝るの下手すぎ」というところ。「(私の口から)あんなこと聞かされてもやってたのは、偉い」という発言に対して、そう返せるの本当に読解力があるし、謝ったとはふつう言えないような発言で謝ったことにしてあげる優しさもあるし。やっぱ千早愛音さんっていい人なんだよな。

 その後の愛音さんはといえば、ライブ前にちょっと焦ったけどまた大成功させたり、豊川祥子さんに何とも言えない感じの目線を送ったり、燈ちゃんと水族館デートに行ったりと、順風満帆ですね。"MyGO"という居場所がなくなることは一生ないんじゃないですかね。"till the death do us part"ってやつ?

迷子でもいい、迷子でも進め

 さて、最後のトピックとして、「迷子でもいい、迷子でも進め」というコピーについて触れて、この感想文を締めくくろうと思います。12話でも燈ちゃんが叫んでいましたね。普通に考えれば、これは決意のようなものですが、オタクなので穿った見方をしてみたいと思います。我々に向けた言葉として捉える?まあ当然それは可能でしょうが、今回は、「BanG Dream! Ave Mujica」の主人公としての豊川祥子さんへの手向けとして見ていきたいと思います。

これは迷子だと思うな、オブりん

 未だ詳細は語られていませんが、家庭の事情から"CRYCHIC"をやめて以来、居場所はどこにもなく、若葉睦さんに言わせれば「こわれそう」なオブリビオニスさん。彼女は商業的な成功、というよりかは、社会の中ですごいと言われるような存在を目指し、バンド、"Ave Mujica"を結成します。
 さて、この感想文を丁寧に読んでいただいた皆様なら気付かれると思いますが、彼女は千早愛音さんが歩んできた道を逆走しています。具体的に言えば、"CRYCHIC"という、自身が必要とされ、居心地もよかった場所を捨てることになった彼女は、社会から認められるすごい存在、もっと言えばトップであることに新しい居場所を見出し、それに向かっているのです。やばない?信じられるのが我が身一つというのも、千早愛音さんに対する燈ちゃんのような、特定の誰かから必要とされるという形の居場所を諦めたことの証左です。愛音さんと正反対な点はまだあって、愛音さんは自分を開示することをそれほど躊躇いませんが、祥子さんは頑なに拒みます。まあでも、それを祥子さんを責める理由に使うのはかわいそうなんですよね。そういう苦境ってふつう隠したいものです。
 さて、そんなオブリビオニスさんは、初ライブを成功させ、"Ave Mujica" は順調なスタートを切りましたが、不穏な空気しか感じません。彼女の居場所として、"Ave Mujica"は機能し続けることができるのか。
 「BanG Dream! Ave Mujica」、楽しみですね。


 最後に、今回の企画に対する感謝を少し述べておきます。いつもはSNSで、エネルギーの発散のようなまとまりのない感想をつぶやくことしかしませんが、感想文としてまとめてみると思わぬ発見がありました。それは間違いなく、素敵な企画のおかげなわけで。本当にありがとうございます。

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