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死にたいノート

 自分の声なんて、誰にも届かないんだと思っていた。悲鳴を上げても、誰かに届く前に、掠れて潰れて、消えてしまって、気付いてなんて、もらえないんだと信じていた。


 架空の遺書をノートに綴る女の子が、そのノートを落としてしまう、というお話です。

 まだデビューするよりも昔に、自分のブログに、詩のようなもの、を載せていました。それが『死にたいノート』の原型です。死にたい、死にたい、と綴られた言葉は、それが詩なのにも関わらず、ブログを訪れる人に心配されてしまう有様でした。どういうわけか、『死にたい』を検索キーワードにして、そのエントリを訪れる人たちがいっぱいいたのです。それと同時に『生きたい』というキーワードも、たくさんリファラに引っかかっていました。

 前の二作と少しお話の作りを変えようとして、そのノートは自分が落としたのだとは言えない主人公が、落とし主を探すクラスメイトに振り回される……ミステリでいうところの倒叙モノっぽいハラハラ感を出そう、としてみました。マンネリ回避のための作戦でもあったのですが、良い効果を生んでくれた気がします。タイトルはとても気に入っていて、あまりにもストレートなので、最初、担当さんには冗談かと思われていたようです。

 感想を頂くときに、これがいちばん共感できた、好きな話だ、と言ってもらえるような気がします。自分としても、理由もなく死にたくなる、という感情を描いた小説ってあまり読んだことがなくて、そういうのを求めていた気持ちもあったので、すごく好きなお話です。このシリーズは、とてもマイノリティな感情を描いています。有名なドラマにも小説にも映画にも、取り上げてもらえないような感情です。幼い頃の自分は、そういうお話が読みたくて、けれど、どこにも描かれなくて、自分だけが特殊で、だから独りぼっちなのかなぁって寂しく思っていました。でも、そうした感情を持って生きている子は、きっとずっと多いはず。

 たぶん、みんなつらくて、それでも生きているのです。それは普通なことなのです。

 ゆうこさんの挿絵が、ほんとうに強く気持ちを表現していて、とにかく素晴らしいなぁと思っています。贅沢を言えば、単行本にも収録したかった。

 このお話だけ、ちょっとした理由から、時代設定を少し古めにして書くことを意識しました。けれど、あんまり変わりが出なかったなぁと思っていて、後悔しております。



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