【読む映画】『モーリタニアン 黒塗りの記録』

国家権力が開いた「地獄の扉」を告発する

《初出:『週刊金曜日』2021年10月22日号(1350号)》

 今年(2021年)初め、米誌『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』に、バイデン米大統領への公開書簡が掲載された(1月29日付)。
 書簡の送り手は7人。いずれも、9・11米国同時多発テロ事件(2001年)の“被疑者”を取り調べるためキューバの米軍基地内に設置された、グアンタナモ収容所の元被収容者だ。書簡を通じて同収容所の閉鎖を求めたひとりが、本作の主人公モハメドゥである。

 モーリタニア出身のモハメドゥは、9・11首謀者のひとりと見られて自宅から拘引され、02年にグアンタナモへ送られた。解放されたのは、じつに14年2カ月を経た16年である。
 その間、『グアンタナモ収容所 地獄からの手記』(中島由華訳、河出書房新社 15年)を出版した(本作公開を機に刊行された、映画名に改題した文庫版もある)。

 本作は、黒塗りだらけの同手記を元に、米国政府の犯罪性を告発する劇映画だ。
 手記に照らせば、ブッシュ政権が許可した「強化尋問手法」、水責めなどの残虐な拷問の描写は、かなり抑えられている。それでも、収容所の実態を初めて知る観客にはショッキングだろう。

 つくづく許しがたいのは、グアンタナモが、法の適正手続などを定めた米国憲法の外にあることを利用して、権力による無法の極地という地獄の扉を開いてしまったことだ。現在もなお、40人もが拘禁されたままだという。

監督:ケヴィン・マクドナルド
原作:モハメドゥ・ウルド・スラヒ
出演:ジョディ・フォスター、タハール・ラヒム、シャイリーン・ウッドリー、ベネディクト・カンバーバッチほか
2021年/英国/129分


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