【読む映画】『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』

特定秘密保護法廃止へ あらためて奮起させる

《初出:『週刊金曜日』2018年3月23日号(1177号)、境分万純名義》

 1971年、米国の元国防総省職員ダニエル・エルズバーグが、歴代政権によるベトナム戦争の欺瞞を示す機密文書を暴露した。翌年のウォーターゲート事件の「導火線」(田中豊『政府対新聞 国防総省秘密文書事件』 中公新書 1974年)にもなった事件だ。

 スクープした『ニューヨーク・タイムズ』は、続報の一時差し止めという仮処分を連邦地裁から受ける。提訴した国側の根拠は、エルズバーグや、ずっと時代が下ってエドワード・スノーデン訴追にも使われる防諜法だった。

 この措置に、後追いで機密文書の掲載直前だった『ワシントン・ポスト』は、厳しい判断を迫られる。報道すれば共謀を疑われ、処分が加重される虞もある。
 ハイライトは、キャサリン・グラハム社主の決断だ。その結果、『タイムズ』とともに行きついた連邦最高裁では、どのような判決が下されたか。

 スティーヴン・スピルバーグ監督は、先行の別作を中断してまで、本作の制作を優先した。トランプ大統領が、自らに批判的なメディア攻撃に倦まないばかりか、それらをリストアップした「フェイクニュース大賞」なるシロモノを発表するに至っては(2018年1月17日)、その理由は明らかだろう。

 この機会に事件を調べなおして悔しくさえ思ったのは、特定秘密保護法の基本的な論点の多くが、1971年当時の法廷論争に見いだされることである。国益とは何か、国家機密とは何か、機密指定とその解除はどうあるべきか。

 本作が公開されるころ(2018年3月)には、日本の人権状況への国連人権理事会最終勧告が採択されているだろう。先立つ中間勧告で理事会が懸念し、政府が拒否した特定秘密保護法。その廃止への気概が、あらためて刺激される。

監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソンほか
2017年/米国/116分


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