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(短編小説)『ビタミン』

 ポンテンジャギーは、キミには絶対振り向かない。だって。キミ、自分に才能があるって思い込んでいるんだろ。それじゃあ、キミにポンテンジャギーを教える訳にはいかないだろう。ポンテンジャギーは、キミを気に入るはずが無い。いっつもキミはミゴを見下しているのを、アタシは知ってるんだから。ミゴは何たって、アタシの兄の妹でもあるんだから。アタシがミゴも、もっと言えば、ポンテンジャギーについて、キミの悪態を知らない筈が無いんだ。

 キミがキミの才能に泥酔して中野の街をエレキベースを引きずり回していた時。アタシは五反田の駅前を徘徊していた。五反田の駅前は上野駅前よりかはサッパリしている様に見えるけど、ポンテンジャギーは千歳烏山だけは許せないって言うんだ。それならキミに言い返すけど、アタシとしては、何としてでも赤坂見附だけは倒さなければならないと思うんだ。それはモデルナも兄も同意ではあるんだけど、でも、ポンテンジャギーもミゴも、アタシの意思には賛同しかねると首を横に振る。

 さて、時候の挨拶は済ませたね。いよいよ本題に入ろうか。

 キミはエレキベースで中野で弾いていたんだっけ? 目白だっけ? どっちでもいいか。それがニューヨークであったって、キミがエレキベースだってことには変わりないんだから。じゃあ、間を取って大井松田ってことにしようか。

 アタシはキミの演奏を聴いたことあるよ。
 ポンテンジャギーが珍しく渋谷公会堂のキミの名前を暗唱するくらいには、キミの演奏は素晴らしい物だった。ハチ公もビックリって感じ! でも、マルキューには遠く及ばないから期待しないで欲しいよね。キミでは役者不足って感じ。ポンテンジャギーも、粗削りだって、アタシの意見に頷いていた。
 キミが自分の才能を高く見なければいいなって、アタシは帰りながら思ったの。
 ひとりだったけど、ポンテンジャギーの息遣いは遥か五メートル反転から聞こえるから、キミだって寂しくないって思うよ。それに、ミゴも、いたし。かっこ。

 夜になると蝉の声が大きく聞こえるのはなんだろう。でさ、さっきっからアイドルの歌が耳の奥からしてうるさいの。どうにかしてくれない?

 ああ、そうだ。何だっけ。続きが見たい。そうだ。アタシは、キミに会いに行ってたんだ。

 夏休みの路地裏。合法の太陽。ポンテンジャギーのフレーム。
 キミはもう、諦めた方がいいよ。媚じゃ終わりだから。

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