『ぼくの火星でくらすユートピア(1)』
《ユートピア》——扉を開けたなら、爆発しそうな勢いで空気が入れ替わる
目を開ければ車の中だった。外は晴れ。いつもの日和だ。
車から降りたら、目の前にゴミ捨て場があるのは常の事情で、大小高低関わらず、とにかく、そこにゴミ捨て場はある。
僕は屑を捨てて車に戻った。
「こいつ」とは長い付き合いになる。
レンタルショップで しょぼくれていた最後のひとつだった。
僕は店内のカウンターで、ぼんやり葉巻を吹かしていたイッカクに言った。
「僕はね、ミッションの免許は諦めたんですよ。教官がいけなかったんです。ええ。そんでね、僕は止めちゃったんです。つまりね、ええっとね、何が言いたいかって言うとね、僕はね、口下手なものだから、上手く言葉が出てこなくって。いえ、お茶はいいんです。とにかく、とんでもなく上がってしまうんですよ。独り言は、ほら、素直なんですがね。こうやって人と喋るとなると、上手く言葉が浮かんでこないんだからね」
僕はそのイッカクに、列記とした限定免許を見せたはずなんだが──
どうしてか「こいつ」が僕の相棒になった。
しかし「こいつ」は僕に上手く懐いてくれている。「こいつ」は僕しか知らないからだ。可哀想に。
僕はアクセルペダルを踏み込んだ。ほら、「相棒」。いつものドライブだ。ここでも給油代は高くつくぞ。
クラッチペダルを持ち上げると、相棒は元気よく発進した。
さあ、古本屋へ向かおう。
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