『ぼくの火星でくらすユートピア⑶』
給油代はいつでも高くつくぞ。だから今日も古本屋へ向かう訳だ。
コンクリートは整備されるから人が群がるのか群がるから整備されるのか。とにかくコンクリートのある場所には人が群がる。
ほ。ほ。蛍こい。あっちの混凝土は苦いぞ。こっちの混凝土は甘いぞ。とか言った具合に僕はこの土地にやってきた。妄想の中ぐらいもっとマシな色にしてくれれば良かったのに僕のコンクリートは桃色をしている。またピンク色とも言う。
僕が奇抜な世界の色にうんざりしている最中に相棒は4回もエンストを繰り返した。今日は何だか調子がいいじゃないか相棒。お願いだからもう二度とエンストしてくれるな。
結果を言うと僕の後ろにも前にも道はあるが誰もこの道にいないのだからどんな速度でもいいことになる。しかし僕の周りには人がいて僕が舌打ちをしながらエンジンを入れ直す間にも僕をケラケラと笑っているのは知っている。僕以上に楽しそうな趣味を持っているのが憎たらしい。僕も人を笑ってみたい。
僕が過去の事を語るのはつまり。僕が古本屋に着いた証拠であるが。僕はやる気のない店主を呼ぶ。
あの。本を売りに来たのですが。あの。本をですね。売りに来たのですよ。
仕事に行こうと目覚めると虫になっていた男がいた。人間の頃の彼は誇るべき人間だったがあの様な虫に変身してしまった訳だ。僕なんて元から何もかもが上手くいかない虫けらの様な存在だったから虫になったところでまるで誰も気がつかなかっただろう。寧ろ。少しマシになったわね。ええ。人間らしくなって。なんて言われてしまうのがオチだったろうか。
虫になれば店主も店先に出て来てくれる様になるだろうか。
この店のコンクリートは剥げかけている。
僕は店の中で一番高い値のつく本を手に取ると車に戻った。
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