天使のいない12月は今の時代にこそ再評価されるべき作品なのかもしれない(前編)

天使のいない12月という作品を知っているだろうか?嘗て東の葉っぱ西の鍵と呼ばれた、東の部分、最早原型はなく辛うじてアクアプラスという名前だけが今と昔を繋いでいる、2000年代の嘗ての遺産。
恐らく今の時代葉っぱのゲームはウケないのだろう、と私だけでなく関係者もうすうす理解しているこの時代、DL販売が中止されたのは(互換性の面もあるだろうが)そのような点もあるのだろう、と私は考えてしまっている。

その通りに初期の葉っぱは過激なゲームを出しており、その裏で万人受けするトゥハートを出していた。今ではDL販売されている作品もホワルバ2だけとなっており、あの作品が一般受けするかは兎も角、他の作品よりはまだ柔らかい作品だろう。天使のいない12月とは、正に当時の過渡期の葉っぱを象徴している作品なのかもしれない、一般受けしない作品と一般受けする作品。学園ものでありながらどことなく妖しい雰囲気を醸し出し続ける雰囲気。私はこの、唯一無二の点に惹かれて購入したのだ。


前置きが長くなったがレビューのほうに入っていこう。天使のいない12月とは2003年に発売された作品であり、現在は準プレミアがついてしまっている作品となってしまっている。
起動も面倒くさいものの、私が購入したものはDVD版であり、win10では互換性モードで起動することができた。なので購入する方はこの点には注意していただきたい。万一起動しない可能性もあるのだ。
こちらの作品、平たく言えば電波ゲーと鬱ゲーを足して二で割った…現在で言えば三大電波げーに近い作品と言うこともできる。言わば普通のエロゲーではない…100人いたら50人は面白いというものの50人はつまらないと言える、平均をとれば星3ではあるものの、同じ星3でも凡ゲーとは凡そ似ても似つかない怪作となっている。
なのでプレミアがついているから面白い、と安易に判断してしまうのは危険だろう…最もわざわざこの(古っぽい)絵柄をそこらのエロゲーオタが触れるのか…という疑問はあるが。
電波ゲーにありがちな、主人公の思考回路は異常であり、誰も攻略したくないヒロインは当然の事完備されている。
このゲーム、形さえ見れば普通のエロゲーと同じようなもののさよ教とは別ベクトルで普通のエロゲーを皮肉った作品となってしまっているのだ。


主人公について

主人公だが、デフォルトネーム(木田時記)以下主人公と記す。主人公は所謂中二病であり世の中を俯瞰的に、斜に構えており最初のシーンからしてタバコを吸っているし友人にちょっとお前、異常だぞ…と言われる、序盤からパンチを飛ばしてくれる主人公である。彼にもエロゲーによくある妹がいるのだが、妹との仲はかなり悪く、序盤から死ねと中々右ストレートと言っても差し支えない言葉を飛ばしてくれる。
この時点で、ん?と思った方、貴方は正常です。この物語は終始こんな感じであり、恐らくだがこのゲームをつまらない、と語っている人の評価は十中八九これと言って差支えがない。別に妹だけ、とかじゃなくて全編ヒロインこんなもんであるからだ。ただ…わざわざ今の時代にこの作品に触れている、もしくはこの記事を読んでいる方はこの程度、軽く受け流して物語を進めることができるだろう。
このゲームはさよ教とは違い序盤でふるいにかけてくれる。
最も作品を進めていくと妹は本当に兄を嫌っているわけではなく…普通に心配してくれたり、なんだかんだ気にかけたりしてくれている。正直主人公もヒロインもイカれている中で口こそ悪いものの本気で心配をしてくれる妹(木田恵美梨)は恐らく癒しに見えるだろう。なお、作中で彼女の呼ばれ方はエミ公である。…正直主人公が(ry
共通ルートはそんなもんであり、ここからはルートに分けてヒロインとの関係性を書いていく。
想定以上に長くなったので、この記事では透子としのぶだけにして、残りのキャラは後編で述べるとする。

栗原透子

メインヒロインである彼女。…最もメインヒロインなのかは分からないが恐らく、ふつうにプレイすると真っ先に彼女のルートに入ると思うのでメインヒロインとさせて頂く。
彼女との出会いはよくある、ロマンチックなものではなく屋上でタバコを吸っていたらポイ捨てをしてしまい、彼女に当たってしまうという…なんというかこのゲームさの特異さを示すような出会いとなってしまっている。
それを見た主人公の評価…何というか、本当に(ry

そこからいろいろあって屋上で一緒に過ごすようになるのだが、流石メインヒロインというべきかこの異常な主人公の本質を真っ先にとらえている。

一応補足しておくと彼女は榊しのぶ(クラス委員であり幼馴染)に過保護に囲われており表立っていじめられてはないものの影で馬鹿にされている。彼女は馬鹿だけどそんなことを気にしてられないほどに馬鹿という訳ではなく、日々擦り減っていく事を嫌がり、ここの屋上へとやってきた…という経緯がある。
そこから紆余曲折あり体だけの関係になるものの、お互いに足りないものを求めていく…言わば共依存のような関係に陥っていく。
このゲームの一つのテーマが
      願ったのは、束の間の安らぎ──
         ──叶ったのは、永遠という贖罪

(関係ないですけどキャッチコピーかっこよすぎですよね、私はこのキャッチコピーに惹かれてプレミアついているものの購入に踏み切ってしまいました)
であり、もう一つは心と体の関係…体と体はつながっても心と心は繋がらない、であるがそこの点は後々掘り下げていく事にして本編へと戻っていく。
そこからなんだかんだあり、犬を飼う話になるのだが、そこの主人公が本当かっこいい。

(これだけ見るとギャグですけど、本当にいいシーンなんですよね)

そこから更に色々あり、体だけの関係を重ねていく二人。体だけ、っていうのは実は間違っていて心も繋がってはいるんですが二人とも気付かず、この体だけという関係に最後まで囚われていく事になる。
この作品の1つのテーマ、束の間の安らぎ、とはこのことですね、二人とも言葉を交わすよりも体を重ねたほうが楽だからその方向に流れていく、だからこそ…最後の最後まで二人とも悩み続ける。だっておかしいじゃないですか、本当に体だけならここまで悩む必要はないものの…二人とも悩んでしまっているんです。
そこから更に色々あり、メル友のような関係になる二人。旗から見ればどう見ても付き合っているのに二人とも言葉にする自信がない。これが本当に主人公のどっちつかずの心境と芸術のような美しい文体で話が流れていくんです。言葉にするのは簡単、それでもその言葉を発するのは間違っている気がするって…もう良すぎるじゃないですか、このルート。何ていうのかな、このルートは二人とも本当に真面目なんですよ、だから言葉だけの偽りの関係にならず、本物を求めようとする。だからこそ藻掻いて苦しんでいく。
昨今のテレビでよくある、若者はマニュアル通りにしか動かないっていうやつあるじゃないですか、まんま同じで真面目だからこそ不真面目な事ができないっていう…この辺り矛盾しているように見えて、テキストを読み進めていくとそれしか表現できないってのが痛いほど伝わってくるんです。

ただ、物語はそこで綺麗に終わらず幼馴染のしのぶが関係してくる。しのぶは透子がよくないやつらと関わっているんじゃないかと訝しむ訳で、後半はこの3人を主軸に展開されていく。
この物語の極端なテーマがこの一連の流れに密集されており

このテーマの願った(ryは主人公じゃなくてヒロインもなんですが、本当に…痛いんですよ。
この、しのぶというキャラが言葉では透子の事を理解していて表向き彼女の為に行動しているんですがそれが主人公と正反対なんですよ。正しいのはしのぶ、だからこそ本当に読み進めていくと苦しくなる。正しいからと言って、それが透子を救っているわけじゃない、と。
言葉だけの関係を重ねるしのぶと透子、言葉だけの偽りの関係にならないが為にどこまでももがいていく主人公と透子の対比が本当につらくて、それは主人公もそうなんですが、この流れのあと精神を病んでしまうんです。
ありえないですよね、あんなイカれた主人公が一人の女性の為に心をやんじゃうんですよ、本当…感動というか、どこまでいっても優しいんですよね。

主人公は体を重ねればいいって思ってもそれは違うって思っていて、だとしてもそれしか出来ない…だからこそ拒否されて何もできなくなる。言葉を重ねるのは簡単なのに、それは本当の意味で救済にならないと主人公が理解している。
天使のいない、ってのはそういう意味でもあると私は考えており、ご都合主義とかないんですよね、本当にただ淡々とまるで精神医学のように心と心のすれ違いを見せられていく。
体を重ねても同じなのに何かが違う、その何かが言語化出来ない。体だけの関係なのに、どこまでいってもその表面通りの言葉にならない。
物語は何かを感じたところで終わるわけなんですが、その先は書かれない。

この先がどうなるかは分からない、個人的な答えは書きませんけど…これはあくまで一つの予想なんですが
主人公と透子は確かに体だけの関係だったし、今もその関係から脱却できるかは分からない。ただ一連の流れを経て、それだけじゃないってのはこの二人は感じたと思うんですね。だってお互いに本当にそうならだれでもよかったはず、でも二人ともその他の人ではダメだった。だからお互いにこうして…擦り切れる程心が痛んでしまう。
好きとかそういう言葉では表せないもの、友達でもない…雪のように儚い関係。いつか気の迷いだった、となってしまうかもしれない、そんな切ない関係。
ただ、それでもこの瞬間、12月という短い間、本当の意味で愛し合っていたのは事実なんですよ。
愛かどうかは…まだ分からない、ただ12月のクリスマスを経て二人は少しずつその言葉の意味に気付いていく、と。勿論、その先が幸せかどうかは分かりません、ただ…それでも二人でその先を探すんですよ。答えがないものから逃げても、幸せはなかったから。
今まではすぐに終わる、退廃的な時間だったがこれからは永遠のような長い時間、二人は答えのない探し続けなければならないんです。…その、言葉だけの関係は嘘だと気づいてしまったから。

異常に長くなり過ぎたが、透子ルートはこれで絞めたいと思う。恐らくだがこのゲームのトゥルーエンドが彼女だろう。伝えたいテーマも一貫しているし一見汚い関係から、ふつうの恋人のような関係になる。というかほかのルートがね…異常というか…ちょっと、どうしようもないというか…一つだけ裏エンドみたいなものがありますが、それは後述。


榊しのぶ

次にレビューするのは榊しのぶ…所謂、メインサブヒロインってやつですが、このヒロインは攻略してて兎に角キツかったですね。
何がキツいって透子ルートから分岐するので必然的に透子から寝取ったみたいな扱いになるんですが…その結果誰も幸せになれないっていう、トゥルーが全然トゥルーじゃないっていう、どうしようもないルートです。
榊しのぶというキャラ、上で少し述べたんですが途中から…透子と主人公のS〇Xを除いた時から分岐して、そこから少しずつ壊れていくんです。
まぁ、要約すると透子が侵されている事に興奮してしまいそこから自分自身は罪を背負ったという体で罰を受けるんですが…その結果本当に透子が可哀そうなことになる。
実はしのぶが透子に依存してたという…まぁ、割と透子ルートの保管みたいな話なんですが割とそれは透子ルートで述べてくれよって部分も多々。
上でこのテーマを述べましたが、そのテーマをより強く…というかこのゲームの本当の深淵がこのルートですね。一瞬だけの関係だったのにも関わらず、そのことも踏まえて、より自分たちを追い詰めていく。
全体的に透子ルートと対になっていて、あっちのルートが体と体の繋がりで心が少しずつ通じていく…ならばこちらのルートは心を壊さないために体と体を重ねる、というとにかくやっててゲロ重い話。
マジで一切愛が無い、主人公も最初はノリノリだったけれども途中からは困惑しながらしのぶの事を考えるんですが、これですよ

あくまでも、罪の償いという扱いで犯されなければならないのでそこに愛情があってはいけないっていう…当然そんな行為をしていくにつれて主人公もしのぶも精神が擦り減り透子が気にしているんですが…まぁ、しのぶに口止めされているというか、しのぶの事を話したところで追い詰める事にしかならない。
この事を話せば楽になるけれど、そうするとしのぶの心が完全に死んでしまうという。そもそもS〇Xしてるのも体をこれ以上傷つけさせないためですからね。

主人公は本当にやさしいから、しのぶの事を傷つけさせたくない。だからこそ透子とも距離を置くことになる。
これはたとえなんですが、本当に大切だと思うから遠ざけるか、近づけるかっていうのは割と不変のテーマなんですがこのルートは本当に大切だと思うから透子を遠ざけるっていう…だからこそすれ違いが止まらないんですよ、本当に。やってて本当に透子が可哀想で泣いちゃいました、だってこれですよこれ。

透子は今までと変わらない関係を望んでいるのに、それが適わない…何も話してくれないからみんなどんどん沈んでいく。
そんな異常な関係が進み、透子とは結果的に別れることになります。正直やってて全然面白くない、泣きましたね、ほんと。
私寝取りって本当に大嫌いなんですけど、透子は透子でしのぶに劣等感持ちまくりなので結果的にはどうであれ、完璧超人に彼氏が寝取られたっていう事に変わりないんですよ。…ああ、このルートだと一応正式な恋人になるんですが、だからこそ重いんですよ。本当に。

しのぶも主人公も隠したくて隠してるわけじゃない、お互いの心を守るために、透子を大切だと思うからこそ遠ざけている…だからこそここまですれ違ってしまうという。
そして最後は一応、主人公としのぶは付き合うんですがそれも付き合っているといえるような関係ではなく、お互いに透子を傷つけた罪悪感から一緒にいるだけっていう…まぁ、本当に、異常なルート。
まぁ別に、こいつら二人が傷つくならいいんだけど透子がね…しかも恐らく、ちゃんとプレイをすると透子ルートからしのぶルートに派生するのでなまじ透子に感情移入をしてしまうので何かもう、不快になりますよね。
この不快は決して貶してるわけではないですが…あまりにも丁寧に作られているからこそ、気持ち悪くなるんです。
天使のいないっていうのを最もよく表しているこのルートの事ですね、ほかのルートと違ってマジで救いがない、というか別に主人公としのぶ以上に大切な二人に裏切られた透子に対してだろって思う。マジで…このトゥルーが幸せになる未来は見えないです。正直私も、このルートのトゥルーはBADのがまだ希望がある分マシじゃないかとは思う。…まぁ結局、この辺りは見え方次第なのかもしれないですね。私が透子に必要以上に感情移入しているからこそこんな異常なレビューになってしまうのかもしれませんが。

感想も無いですね…正直マジでトゥルーは救いが無いので、主人公たちに愛情もあんまりないっていうか…体だけの関係から心が繋がったっていうテーマこそ透子と通じているものの、その形はいつ壊れてもおかしくないっていう…正直、まぁ…あんまり気持ちいいルートではないですね。
永遠という贖罪を最も表しているかもしれない、そう考えるとキャッチコピーの回収はよくできている。
なので、最後に述べる感想ですが
寝取りは良くない、という事を再認識させられた、という事にします。

想像以上に長くなったので、残りのキャラは後編に続きます。

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