麻雀回顧録(高1フリーデビュー前編)

「私がお薦めします!」


ブラウン管の向こう側で、一発で高め一通の1pをツモりながらミスター麻雀が笑っていた。
深夜の地元ローカルの雀荘CMだった。


「雀荘か。。。」


当時中学生だったさきたま少年はウズウズしていた。


「でも○○市か。。遠いな。。。」

自分の住んでいる街にも雀荘があるにはあったが、雑居ビルの薄暗い2階に煤けた文字で店名だけが出ているようなシロモノで、とてもじゃないが中学生の自分が入れる場所じゃなかった。
しかもここはど田舎の小さな街。出歩けばすぐ知り合いに会うようなこの街だと誰に見られてるか分かったものじゃない。

交通網の発達してる都会とは違い、田舎の中学生の交通手段は自転車しかない。汽車に乗ってまで見知らぬ土地に行くこともハードルが高かった。

この時代のど田舎の街に名の知れて比較的足を踏み入れやすいチェーン店などあるはずもなく、そもそもまだ坊主頭で一目で中学生とわかる自分は雀荘に行くのを泣く泣く断念していた。

(当時の中学生男子は校則で全員丸刈りとなっており、丸刈り=中学生というのが共通認識だった。)


そんなこんなで悶々とした日々を送っていたさきたま少年も、無事高校生となった。

中三の受験前から、高校生になったらすぐ雀荘に行きたいが為に伸ばしていた髪もそこそこ伸びてきた。お金も貯めていた。

「よしっ髪も伸びたし準備万端!雀荘行くぞー!」

高1のGW  さきたま少年ようやく念願の雀荘デビューを決意した時だった。


しかし、行くのはいいのだがそこからが大変だった。
何せ雀荘の詳細な場所がわからない。

モノや情報に溢れた現在とは違い、インターネットやスマホどころかようやく黒電話からプッシュ回線の電話に切り替わった(もうちょい後か)ような時代だった。
情報を得る手段がまるでない。

ただ店名だけは深夜CMで分かっていたため、分厚い電話帳で調べてみることにした。幸い電話番号を調べるとその横には○○市△△1  と大まかな住所も載っていたので、大体の場所を把握することはできた。そこから予め本屋で買っていた市内の詳細地図をとりだし、目を皿のようにして雀荘名を探す。


しかし、幾ら探してみても地図で見つけることはできなかった。今考えるとアホの極みだし、地図に雀荘名載ってる訳ないやろ。。と思うのだが当時は頼るものがこの地図くらいしかなく、ホントに失望したのを覚えている。

しかしもう高い汽車賃を払い○○市へ向かっている。後戻りはできない。最寄り駅に着いてから歩きまわって探すことに決めた。


そんなこんなで最寄り駅に着き改札をでたところで呆然とした。
とにかく何というか、、圧倒的に都会だった。
自分の住んでる街とは情報量というか建物の数が違いすぎた。


そもそも出口が2つあることに唖然とした。駅は全て出口が1つだと思い込んでいた。

「えっ、、どっちいったらいいの。。こんなん絶対探せないやん。。。」


いきなり躓いたがここで持っていた地図が役立った。町名から方角を割り出し、なんとか雀荘方向の出口に向かうことに成功する。

地図をみる限り△△1 (丁目)の位置は駅から2~300mのように思えた。
徒歩感覚を頼りに近辺のビルのテナント表示を片っ端から探しこむこと約1時間。ようやく、ようやく雀荘の入ったビルを見つけ出すことができた。

(なお途中であまりの見つからなさに挫折し、駅前交番に戻って場所を聞こうと思ったが直前で自分のやろうとしてることのマズさに気づけたのは本当に幸いだった。。)

朝早く家を出てからもう3時間近くが経っていた。
行動範囲が地元の街しかなかった自分には既に大冒険だった。しかもこれから高1の自分が向かおうとしているのは初めての雀荘だ。

緊張して然るべきの状況だったように思えるが、この時は既に雀荘探しで疲弊しきっており、とにかく見つかった喜びから深く考えずに雀荘の扉を開けたのを覚えている。

さきたま少年高1の春。ようやく雀荘デビューである。

多分後編へ続く。







そのお気持ちだけで充分です。読んで頂きありがとうございました。