続 ナスターシャ
長い夢を見たの。とても懐かしい夢だった。あの人に会った夢、純粋で、何も知らないとても誠実な人。あの人はもう忘れてしまったんじゃないかしら。
ここにいると、私だけ見て、とも、貴方と過ごしたいとも思わなくなったわ。不思議ね。何も無くなって貴方と出逢ったこともいつか忘れてしまうのかしら。
朝日が眩しい。私は別荘みたいなところで一人ひっそりと暮らしているの。今は一人が幸せ。何も無い、不思議な所。でも私は何も怖くないの。
いつか貴方にまた会える日が来るといいわね。その時は謝りたいわ。貴方の美しい心を欺いたから。
ある日、少年が現れた。私にはどこから来たか分かりもしなかった。少年は「ここまでやっと辿り着いたんです。食べ物とか何も無くて、歩いていたら、この家を見つけたんです。いつかお礼をしますから、何日か泊めてくれませんか?」と言った。
私はそれを許したわ。
彼は喜んだ。
「お姉さん、貴女を見ていると、初恋の人を思い出すんです。僕は彼女のことが大好きでした。心の底から思っていました。涙が出る程欲しかったんです。でも彼女と会えなくなってしまいました。僕はとても苦しみました。告白しなかったことを悔やんでいます。今頃はもう結婚しているでしょう。」
「辛いわね。私も本当に好きだった人がいたの。彼には釣り合わないって決めつけて、逃げてたの。もう少し自分と向き合えていたら、そう考えると今も辛いわ。」
「お姉さん、僕と気が合うみたいですね。トランプでもして、世間話でもしましょう。」
彼とは気兼ねなく話せた。初対面なのにこんなに話せるなんて思わなかった。すぐに帰る日が来て、帰って行ったわ。名残惜しいぐらい彼に好感を抱いた。
彼は数ヶ月後、綺麗なペンダントを送ってくれたわ。翡翠色だった。とても美しかった。私はこんな高価な物をくれなくてもいいのにそう思った。
私の愛する人は泣いていた。私が彼じゃなくて、違う人を選んだから。私も彼の気持ちが分かったの。苦しみが、痛いほどの苦しみが。私も本当に好きだったから、貴方と離れたくなかったから涙が出たの。
貴方ともっと話せたらよかった。貴方ともっとわかり合いたかった。後悔って後に起こるものね。
私は久しぶりにお洒落をすることにした。別にもうお洒落なんてする必要無いのよ。だってもう魅力的になる必要ないから。でも、せっかくペンダントを貰ったのに、使わないなんて、勿体無いじゃない。
色の好みとか何にも話さなかったのに 何故こんなにも私ピッタリに合わせられるのか私は疑問だった。でも、そんなことすぐに忘れた。
彼は手紙も付けていた。「お姉さんお元気ですか?僕はあの後無事に家に帰リました。貴女は命の恩人です。いつか僕の初恋の相手に渡すつもりだったペンダントを差し上げます。
僕の気持ちを汲んで受け取ってください。貴女なら使いこなせると思います。とても美しいので。僕はあの後、彼女がどうしているのか考えてみました。
僕が告白できなかったのは病気で療養していたからです。僕は違う国に渡ったので彼女のことを知ることさえできなかったのです。彼女は今も苦しみに陥っているかもしれません。或いは幸せを掴んでいるかもしれません。
僕はもう彼女とは一生会えないでしょう。でも、似ている貴女と話せて、とても幸せでした。お姉さんも元気でいてください。ではまた。」
私にはこれが最初で最後の手紙だと思えた。彼のお陰で前を向いて歩けるような気がした。貴方とももう会うことは無いわね。いつかは無いのよ。私はもう幸せだから、貴方のことを考える気持ちにさえならない。
ある日、私は何かに怯えていた。とても悪いことを思い出しそうなそんな恐怖感があった。私は全く思い出したくないのに、記憶の隅から隅まで思い出しそうで怖かった。
何をしてもそわそわして落ち着かなかった。誰かに会ったら、何か分かってしまいそう。そう思って、ずっと家の中にいた。何かしていないと思い出してしまいそうだった。
とにかく忙しく、忙しくした。夜になって疲れがどっと押し寄せてきた。彼女は酷い頭痛がして意識が無くなった……………
次の日彼女は目覚め、いつものように朝日を浴び、紅茶を注ぎ、ゆっくりと啜った。昨日はよく眠れた、そう思った。昨日は何をしていたっけ?どうも思い出せない。そこまで大したことも無かった気がするからと思い出すのをやめた。
そして何事も起きていないように普通に過ごした。彼女はペンダントを眺めみた。こんな美しくて高価な物買ったかしら。そう思った。でも気にならなかった。彼女は自分にあまりにも似合っていたため自分で選んだのだろうと思った。
そしてそのまま本を読み始めた………
…………この物語はここで終わった。
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