容量市場の経過措置は小売電気事業者の負担を増やす

容量市場では、小売電気事業者の負担を減らす目的で、経過措置が導入された。しかし、この経過措置は逆に小売電気事業者の負担を増やすことになるのである。いかにまとめた。読むのが面倒な方はは最後のまとめを読んでほしい。

前回の振り返りと約定結果公表延期

前回の記事で容量市場の価格予測をした。内容を簡潔にまとめると、容量市場の経過措置により、約定価格が上限価格付近になると想定した。

8/31に約定結果が公表されるはずだったが、約定結果の公表が延期となってしまった。

https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2020/200831_youryouyakujokekka_enki.html

電気新聞によると、約定価格が高めとの予想もあり、あながち間違いでもないかもしれない。

約定価格と容量市場の容量拠出金総額

容量市場から発電事業者へ支払われる容量拠出金はすべて小売電気事業者が負担する。容量拠出金総額を求めれば、小売電気事業者が負担する費用が決まる。

容量拠出金総額は以下のように求められる。まずは経過措置無しで考える。

容量拠出金総額=約定価格×調達量

約定価格と調達量は需要曲線から求められる。

グラフにしてみると、次のようになる。

経過措置無し

結果的には約定価格に比例するほぼ直線である。なぜそうなるのかを考察する。約定価格と調達量の範囲は以下のとおりである。

約定価格:0円/kW~上限価格の14,138円/kW

調達量:176,525,671kW~182,119,181kW

調達量の目標値である177,468,513kWと比較すると、目標調達量の99.5%~1.026%であり、幅は3%しかない。

容量拠出金総額=約定価格×調達量 であり、調達量は3%しか変化しないのでほぼ一定とみなすことができ容量拠出金総額は約定価格にほぼ比例するといえる。
よって、容量拠出金総額は以下のように計算できる。

容量拠出金総額≒目標調達量(177,468,513kW)×約定価格・・・式(1)

経過措置を考慮した場合の容量拠出金総額

ここで、やっと本題の経過措置を考慮した場合を考える。経過措置対象電源は約定価格に経過措置係数を掛けた費用が支払われる。よって、同じ約定価格でも経過措置があれば、取引総額は安くなる。経過措置を考慮した容量拠出金総額は以下のようになる。経過措置係数は2020年度の場合は58%である。

容量拠出金総額=(目標調達量×約定価格×経過措置係数×経過措置対象電源割合)+(目標調達量×約定価格×(1-経過措置対象電源割合))・・・式(2)

右辺第一項は経過措置電源に支払われる費用、第二項は経過措置対象外の電源に支払われる費用である。

これを踏まえて、約定価格と容量拠出金総額を求めると、次のようになる。凡例は経過措置対象電源割合である。100%はすべての電源が経過措置電源の場合である。

経過措置有り

逆数入札と容量拠出金総額

容量市場の約定価格は、経過措置対象電源の入札価格でほぼ決まると思われる。そして、経過措置係数を考慮した逆数入札はOKとされている。電源維持費をP円/kWとすると、入札価格はP/経過措置係数となる。

約定価格を決める電源の維持費用をPとすると、約定価格=P/経過措置係数より、容量拠出金総額は、次のようになる。

容量拠出金総額=(目標調達量×P×経過措置対象電源割合)+(目標調達量×P/経過措置係数×(1-経過措置対象電源割合))・・・式(3)

もし経過措置がない場合の容量拠出金総額を求める。約定価格=Pとなるので、次のようになる。

容量拠出金総額(経過措置無し)=(目標調達量×P×経過措置対象電源割合)+(目標調達量×P×(1-経過措置対象電源割合))・・・式(4)

式(3)と式(4)を比較すると、右辺第一項は同じである。第二項は、経過措置係数だけ異なる。経過措置係数は1より小さいので、式(3)の方が大きくなる。これは、経過措置によって容量市場拠出金が上昇するということである。

まとめ

容量拠出金は式(2)より次のようになる。

容量拠出金総額=(目標調達量×約定価格×経過措置係数×経過措置対象電源割合)+(目標調達量×約定価格×(1-経過措置対象電源割合))・・・式(2)

右辺第一項は経過措置対象電源に支払われる費用の総額である。逆数入札をOKとすると、約定価格=入札価格=電源維持費/経過措置係数となり、経過措置係数にかかわらず、一定となる。

そして、約定価格は経過措置係数が小さいほど、約定価格が大きくなる。

第二項は、経過措置対象外の電源に支払われる費用であり、約定価格に比例し、経過措置係数が小さいほど、大きくなるのである。

よって、経過措置係数が小さいほど、容量拠出金総額が大きくなるのである。

容量市場の経過措置を導入した経緯として、小売電気事業者の負担を減らすこともあったが、逆に小売電気事業者の負担を増やすだけの制度である。そして、増加した容量拠出金は経過措置対象外の電源を持つ発電事業者やアグリゲーターなどに支払われることとなる。

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