悪の造形とクジャクの進化論

 友だちと飲んだときに話したことを少しまとめておこうと思う。

 ぼくは普段小説を書いている関係で、創作論について考えることが多い。物書きの中には、創作論と聞くと、頭が痛くなるくらい創作論が嫌いな人もいる。多分創作論を語る奴らがのきなみ批評家気取りで偉そうだからだと思うけど。創作論はカウンセリングと似ていると思う。いくら心理学的な知識があっても信頼関係が築けていなければ、何を言っても相手の心には響かない。厳しいことを言えば、かえって心を閉ざしてしまう。その信頼関係の前に批評が先に来るから。創作論は信頼してる人から摂取するのがおすすめ


 とまあ、創作論が嫌いな人にお断りをしたところで話を進めようと思う。ぼくは創作論じたいは好きなのだけど、「創作論ってなんぞや?」と聞かれても、説明するのはなかなか難しい。台詞は「」でくくりましょうみたいな原稿用紙の使い方(これも別に破ってもいい)から、起承転結で物語を構成しようみたいな大まかな話。「密室殺人事件で秘密の抜け穴はなしよ」と言った細かいお約束まで。まあ、それぞれが勝手なことを言ってるわけだけど、その中に

「悪役は魅力的な方がいい」

というものがある。悪役が魅力的だと物語が面白いというわけで、みなさんが真っ先に思い浮かんだ悪役は? 僕は「ダークナイト」のジョーカーを思い浮かべた。あの映画はバットマンが勝つかとか、善と悪の対立みたいなテーマはさておいて、ジョーカーが格好良すぎるから見ててアガる。『羊たちの沈黙』のレクター博士とか。とにかく悪役はクールで最強だと楽しいと思う一派がいる。

「じゃあ、どうやって悪役を恰好よくて魅力的にすればいいんだ」と具体的に言われると、それはまあ色々あるんだけど、その一つとして悪役には「障害」や「身体的な欠損」があると良い。


 たとえばピーターパンのフック船長は海に落ちて、ワニに食べられそうになって手を失って、片腕がフックなのだけど、あれも身体的欠損だ。身体的欠損はこういった絶体絶命のピンチから脱出したことの象徴だ。つまり、「片手は失っても生きて帰った」「あんな状況でも死ななかった」という最強の証明なのだ。今期のアニメだと「イド」のアナイドは自分で自分の脳味噌に穴をあけている。そんな状況でも生きている、あるいは脳に損傷があるからこそ見える世界があるということで、大勢とは違った存在になっている。ジョーカーも口が裂けている。

 こうやって大勢とは違う存在にしたてあげるために、安易に障害を利用するというのは、ポリコレ的に問題があるとは思うけど……

 この本来ハンディキャップにしかならない身体的欠損が、逆説的に最強を証明するという話をすると、理系の友だちがクジャクの進化論を教えてくれた。

 クジャクはとても派手な羽を持っているが、あれは自然下では不利に働くと考えられる。派手だと外敵に見つかりやすく、食べられてしまう。虫でもカメレオンでも、多くの動物は周囲の色に擬態する。それなのに、あの派手な羽が、より美しいほどメスにモテるというのはどういうことか!!

 と、あの派手な羽に疑問を抱いている人が多いそうだ。そのクジャクの羽についてこういう説がある。派手な羽を持つオスはそれが逆説的にそのオスの優秀さを示すのだとか。メスはオスの派手な羽を見て「あんなに見つかりやすい羽を持ってるのに生きてるなんて凄く強いんだわ!! きっと優秀な遺伝子よ!!」とメロメロになるという説で、なるほど、生存に不利な特徴を持っていながら、それでも生きてることが優秀な遺伝子をアピールするというのは悪役の造形と似ている。

 面白いのは僕は創作論のなかで、この考え方に出会った。理系の友人は生物学の知見から、この考え方に出会った。似たような考え方が、一方では生物への理解に繋がり、一方では魅力的なキャラを作り出そうと苦心する物書きの助けになる。

 ちなみにその友人は今、某国立大学の院生として、クモの毒を人工的に作り出しているのだとか。君が一番キャラ立ちしてるよ……




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