落ちこぼれ東大生が院試に落ちた話(前編)

院試に落ちた人間が最終的にどうなるか、当事者になりそうな人にもそうでない人にも関心の的になる事項かと思います。
本記事は、2019年夏実施の院試に落ちた私がその後どう動いて、今どうなっているかという超個人的な自分語りです。院試落ちの当事者となった人へのハウツー的な一般論は含まれていませんのであしからず。

院試1日目(筆記試験・共通数学)

私の所属は工学部・情報系の学科です。そこから内部進学を行おうとしていました。
試験は1日目に研究科共通の数学、2日目に専攻別の専門数学、3日目に面接が行われる方式でした。点数配点については公式には発表されていませんでしたが、内部では「共通:専門=1:2で、面接は社会不適合者をふるい落とすだけ」と言われていました。真偽はわかりませんが。
1日目(共通数学)は大問3個必答でした。1問目は問題なく完答しましたが、2問目では過去18年で全く見たことのない系統の問題が出て手がつけられず、3問目でも苦手な分野が出て半分くらいしか解けない(しかもあっているか確信持てず)という大惨事を引き起こしてしまいます。専門と違い全く警戒していなかった共通数学、しかも普段は3問完答して当然という状態だったので、本番でこの現実を突きつけられたときは血の気が引きました。しかも3問ある中で1問+αしかまともに解けていないので試験時間も有り余っているわけです。泣きたくなりましたが試験中に泣くわけにはいかないので、余った時間で落ちたらどうしようどうしようとグルグル考えていた記憶があります。

院試1日目終了後

共通数学が終わった後は専攻別に専門科目の説明会がありました。そこで出願時に提出していた指導教官の希望を変えることができるというイベントが起こりました。院試出願以降に東大への赴任が決まった先生がいたので、その方を指導教官希望に加えたい場合のみ変更が許されるということでした。情報がない新教官を志望するという博打を打つ人はそういないだろうからボーダー低くなるんじゃない?という藁にすがり変更することにしました。一応希望する研究分野の方でもあったので。
指導教官希望の変更、そして共通数学の比重が軽い説という2つが揃っていたとしても、やはり完答当然の試験の半分を落としてしまったという事実は私に院試落ちを想定させるのに十分な根拠になりました。専門数学でこのやらかしをカバーできるほどの出来を取る自信が全くなかったのもあり、本気で2日目の試験に行くのをやめようと思いましたが、同じ研究科の先輩にとりあえずやるだけやってみろとの励ましをもらったので行くだけ行くことにしました。

院試2日目(筆記試験・専門数学)

専門数学は6問中3問選択でした。手がつけられる3問を消去法で選び、3分の2くらいは解けたという感触でした。ダメ元の気持ちで臨んだこともあり大きなやらかしはしませんでしたが、私が3分の2解いているということは周りの学科民は全完していることでしょう。私は落ちこぼれなのでそう思っといたほうがいいのです。
そんなことで専門数学が終わったところで不合格の可能性は消せませんでした。試験終了後に中央食堂で昼ごはんを食べながら「専門数学の比重が想定以上に重ければワンチャン?」「いやいや共通数学もまともに解けないやつを通すはずがない」「落ちたらどうする?」とか色々考えていました。

院試3日目(面接)終了後

面接はつつがなく終わりました。まだ筆記は採点してないだろうからバカもばれてないし、顔もわかってる内部生だからある程度優しくしてくれますよね。知ってた。でもその優しさが痛い。
この時点で想定していた院試落ちの場合の秋学期の動きは大きく分けて3つありました。

1. 20年2月実施の冬院試を受ける
2. 20卒として就活をする
3. 21卒として就活をする

弊学科は「卒論のための研究室配属が4年の9月に行われる」という摩訶不思議な制度をとっていまして、つまり8月の院試時点で研究室が決まっていない&もちろん卒論なんぞ1文字も書いていないという状況でした。
1か2を選ぶ場合は、予定通りの20年3月卒業が必須なので「1からの卒論執筆作業」と「院試勉強or就活」を絶対に両立させる必要があります。
しかし3を選ぶ場合は事情が異なります。21卒就活をするならば「卒論執筆を20年秋〜21年春に延ばし19年秋〜20年春は就活に専念する」という余裕をもった選択肢もありうるわけです。
また、留年し卒論執筆を伸ばすことで2020年度も学部4年生という扱いになるため、既卒での就活を回避することができます。私は卒業論文以外の単位を残念ながら全て取得済みだったため、既卒になること、つまり20年3月での卒業を回避するためには、合格発表後行われる卒論配属を辞退する以外ありませんでした。

その場合焦点になるのが「制度上本当にそれが可能かどうか」ということです。そのため、面接が終わった後すぐに学科の事務室に行き、諸々の相談をしました。
私の質問と事務さんの当時の回答は以下の通り。

Q. 卒論着手条件を満たしている状態での、自主的な研究室配属辞退というのは可能か。
注:弊学科には研究室配属に参加するための最低取得単位数が定められていて、それを卒論着手条件と呼んでいる。
A. 過去に前例はないが、可能かと思われる。
ただ、20年3月での卒業を回避するだけならば、研究室配属だけは参加して卒論は提出しないということも、もしかしたらできるかもしれない。

Q. 卒業を1年延ばす場合、19年秋〜20年春にかけて履修する講義が存在しない状態なので、休学というのは可能か。その場合、院試の合格発表を待ってということになるが、手続きは間に合うのか。
A. 可能。19年10月からの休学手続きの締め切りにも間に合う。
ただし、休学する場合には届の提出前に学科幹事の教授との面談が必要なので、そのつもりでいてほしい。

Q. もし研究室配属を辞退・休学する場合、今後発生する手続きは。
A. 研究室配属辞退については前例がなかったことなので後で確認するが、おそらくその意思を事務から卒論配属を統括している教授に伝えればOKかと思われる。
私がこのような意思を持っていることを学科事務として把握したので、これからどう動くとしても不自由ないようにサポートする。とにかく院試の合否が出たら、結果の如何を問わずすぐに事務室に来てほしい。もし休学面談が必要になるならば、事務経由でその場をすぐにセッティングする。

前期教養の事務(教務課)はクソだのポンコツだの散々な言われようでしたが、弊学科の事務はかなり親身になってくれました。後期課程の事務は捨てたもんじゃないぞ!

院試の結果待ち期間

合格発表まで2週間あったので、その間好きなだけ悩めます。いや長いって。実際生きた心地がしませんでした。

事務室に行って上記の相談をした翌日に、対応してくださった事務さんからメールが届きました。合格発表後本当に休学するのであれば研究室配属に参加しなくても問題ないと正式に確認が取れたとのことでした。後期課程の事務さんは動きが早くて優秀です。ありがてえ。
また、休学を考えている件もすぐに学科幹事の教授のところに話が回ったらしく、合格発表前に先に相談してほしいと事務経由で言われました。後期課程の事務さんは動きが早くて(ry
というわけで諸々の事情を教授にメールしたところ、合格発表前に合否が絡んだ話はできないので「必要が生じた場合、合格発表後すぐに面談」という約束になりました。これでどう転んだとしても事務手続き的に不自由することはありません。

この期間に取り急ぎやる必要があったのは以下の3つです。
1. 冬院試の情報を集める
2. 秋からの20卒就活が本当に可能かどうかを調べる
3. キャリアサポート室の個別相談の予約をとる

1について、私は専攻を大きく変えるつもりがなかった(というか卒論を1から書く状況でその余裕はない)ので、受験可能な専攻は一択でした。そのため、受験を検討していた冬院試をまさに受けた先輩にTwitterのDMで連絡を取りました。
以下のブログを見ましたってだけで全くもって赤の他人から飛んできたDMに快く対応してくださった先輩には頭が上がりません。ありがとうございました。

2については、サークルの先輩に就職浪人を経験した方がいたので、

・学部4年秋の時点で内定が出ていない場合、予定通り卒業した方がいいのか。それとも何らかの手段で卒業を回避して大学に籍を残した方がいいのか。
・学部4年の秋学期に何をしていたか&何をするべきか。

の2点について連絡して相談しました。
試験の感触に絶望してTwitterで発狂していたのを見て先輩はこの事態を予測してくださっていたようで、すごく親身で丁寧な長文アドバイスをすぐにいただけました。本当にありがとうございます。

3については、東大には御殿下の隣に学生支援センターがあり、その中のキャリアサポート室で就活相談の面談が受けられます。冬院試を受けずに就活に舵を切る場合はこのサポートは結構大きいと思いました。
合格発表当日は教授との面談の終了時間が読めないので、発表翌日の午後一番の枠を予約ができるようになったらすぐに押さえました。

合格発表前時点での意思

結果待ちの間に情報収集をした結果、「不合格なら卒論配属を辞退して休学、21卒として就活をし、20年10月に復学して研究室配属→卒論執筆をする」という意思を固めました。
以下理由について書き連ねます。

・冬院試を受けることにメリットが少ない
先ほども書きましたが、私が受けることができる専攻は一択、その上志望分野ドンピシャの研究室もその中で一つだけでした。卒論執筆を一からやる中で冬院試の特殊な試験対策を並行、卒論発表の時期と試験が丸かぶり、しかも志望研究室への枠も狭き門というトリプルコンボはどう見ても勝ちの目が薄すぎます。
冬院試について相談した方も「研究室割り振りのシステム的に、一つの研究室に絞って志望するのは危険」とのアドバイスでした。
ただ、そこで志望からずれた研究室でもいいと割り切ったところで、手に入るのは「履歴書に変な空白期間を作らなくてすむという事実」と「修士号を手に入れる以外に意義のない2年」だけです。個人的にはこれにあまり価値を感じませんでした。
また、もし仮に冬院試も不合格だった場合、今度はその時点で「院にも行けない、20卒の内定もない、21卒の就活戦線にも乗り遅れる」というまた別のトリプルコンボになります。最悪すぎる。
以上の理由から、冬院試はハイリスク・ハイコスト・ローリターンという結論に至ったので切りました。

20卒の少ない選択肢に妥協して就活をすることにメリットが少ない
冬院試を受けるメリットと同じで、これがうまくいけば履歴書に変な空白期間は生まれません。
しかしその「うまくいけば」の確率が問題で、こればかりはご縁なので正確な数字はわかりませんが決して高いものではないということは想像に難くないでしょう。相談した先輩からも「まだ募集を続けてる企業の中で私に合った職場が見つかるという奇跡が起きる可能性もあるが、正直あまり期待しない方がいい」とのお言葉をいただいていました。
私に合った職場が何なのかということを分析しながらまだ募集を継続している会社を探し、選考の対策をして受けるというのを20卒の枠組みでやるのは、人生のうち少なくない割合を占める仕事というものを決める作業としてはあまりにも急ピッチすぎると思いました。
また20卒として活動するならば、就職活動と卒論執筆作業を並行する必要があり、しかもうまくいかなかったとき用に21卒の用意もしたいと考えるならもうキャパ大爆発です。自殺志願者かな?
さらに、うまくいかなかったときにはもう卒論撤回できないということも考えられ、その場合21卒戦線を既卒で戦うことになってしまいます。そんなハンデはいらねえ。

・卒論を提出しないのに研究室に所属することのメリットがない
21卒にすると決めた以上、20年3月に卒論を提出してはいけないことになります。事務さんに提案してもらった「研究室配属だけは参加して卒論は提出しない」という方法でも21卒になることができますが、その場合「研究室」という所属ができることにより縛りを受ける可能性が0ではないと考えました。
例えば、就活したいのに「君は名目上うちに所属はしてるんだから研究室の仕事しろ or 勉強会に出ろ」とか言われる可能性があるわけで、それを排除したいのであればラボの教授に対してきちんとイニシアチブを取らなければなりません。めんどくせえ。
あと、その「ラボの教授」が誰になるのかもこの時点でわからなかったので、話が通じないというリスクを排除できるこちらの方が安全でした。

・1年余裕を持たせることで納得のいく就活がしたかった
上に色々理由を挙げましたが正直これが一番ウェイトが大きいです。
学部3年の夏にインターンに参加したことがあり、そこで色々あったので個人的に「就職するのだったら採用活動の時期前にインターンに行って実情を確かめた方がいい」という考えでした。卒論を蹴って21卒に切り替えることで、そのための時間がたっぷりできます。有り余った時間を使って少しでも有利になるように資格だって取れます。研究室に拘束されたくないと書いたのもこのためです。
卒業せず学生の身分を残しておくことで、東大のキャリアサポート室などの支援も使えますし、学内就活イベントも参加できます。あとはどうしてもダメだった場合、学科に来ている推薦をとるという手段もなくはないというのもありました。
やはり「履歴書に空白を作りたくない」という理由だけで20卒の仕事を選んだらおそらく一生後悔するという確信があったので、いろんな選択肢を手にしてそこからしっかり悩む余裕は欲しかったです。

・その気になれば20年夏の院試に再チャレンジすることも可能だから
実はこの時、もし落ちた場合に学部就職一本に絞るのか再び院進学を目指すのかを決めていませんでした。
21卒の内定を得てもなお院に行きたいと思った場合は、学科推薦で就職を決めた場合を除き、内定をセーフティネットにして同じ専攻を受け直すことができます。

合格発表

さて迎えた合格発表日ですが、予定としては

1.     時間になったら大学に行って、掲示板で合否を確認
2-1. 合格だった場合、事務に行き「何も問題なかったですお騒がせしました」と伝え帰宅
2-2. 不合格だった場合、事務に行って事実を伝えた後、学科幹事の教授の居室に乗り込み休学許可をもらう→終わり次第事務室に戻り休学届を提出して帰宅

というムーブを想定していました。不合格だった場合はやはり手続きが煩雑なので、発表時間になるまでに脳内で何度も動きをシミュレーションしてたのを覚えています。(主に掲示板から学科事務室に走るところを)

掲示板に合格者の受験番号が貼られ、そこに群がった人たちがある程度捌けたタイミングで前に行き、自分の受験番号を3回探してしっかり落ちていることを確認しました。いやだって不合格だった場合事務や教授といった人を動かすわけですから早とちり誤認はダメでしょう。
ちゃんと番号がなかったわけなので、何のためらいもなく事務に向かって猛ダッシュ。このときは割と元気でした。気持ちとしては「オラなんだかワクワクしてきたぞ!」という感じ。

事務室で結果と学科幹事の教授との面談予定も取れているので今からいってきますと報告。終わったら戻ってきますと告げて出てくるまでの滞在時間は30秒もなかったと思います。

次回予告

思った以上に長くなりそうなので記事を分けようと思います。
次回「本日のメインイベント†教授面談†」 デュエルスタンバイ!

※追記:続きを更新しました。


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