観光によるキャパシティを越えた水の消費
ラダックの人びとは氷河の雪解け水に頼って生活している。しかし、地球温暖化の影響によって氷河は溶け続けており、将来の水不足が懸念されているのが現状だ。
レーにある友人の家で過ごしている間は、ポリタンクに溜めた水を使って、タライの中で洗い物をしたり、空き缶に水を入れて手や顔を洗う。村では、家の側にある小さな小川を使う。
1週間に一回くらいの頻度で洋服を洗う時も、同じ水を使って4回くらい洗濯するため、水が真っ茶色になる。
トイレは、伝統的にはコンポストトイレというボットン式のトイレを使っている。これは後に畑の肥やしになる。コンポストトイレは水で流すことはなく、乾燥した環境の中で汚物は勝手に乾くため匂いも気にならない。
ラダックの人と一緒に生活をすると、彼らが暮らしの中でいかに水を大切に使っていることがよくわかる。
村の小川は、複数の家庭が共有しているから自分の家よりも上流で洗濯をしていないか確認してから野菜を洗ったり、洗い物をする前に下流で水を使ってる人がいないか確認する。
こうして、限られた水は足りなくなることなく、共有されてきた。
しかし、観光客の増加に伴い、ホテルやゲストハウスが立ち並ぶようになり、観光客のニーズに合わせるために、水洗トイレや水道設備を整えた建物が増えてきている。
伝統的には、トイレのために必要な水が0だったのが、毎回必要以上の水をラダックの人口に匹敵する数の観光客がトイレの度に流したらどうなるか。
水洗トイレの設備がある場所でトイレを済ませてレバーを押せばジャーと水が流れていく。一生懸命に水を節約して洗い物をしていたのに、節約した水以上の量の水が、必要もないのに流れていくのはなかなか虚しい。
ラダックの人々は体をほとんど洗わない。15日間の滞在の中で私も一度もシャワーを浴びなかった。乾燥した環境の中だから必要ないのだ。
しかし、近年新しくオープンしているホテルの中にはバスタブ付きのシャワールームも増えているという。観光客のニーズに合わせたキャパオーバーのビジネスが広まっている。
分け合うことを大切にしてきたからこそ成り立ってきたラダックの限られた自然は、「観光」というビジネスの中で許容範囲を超え、そのバランスを崩し始めている。
そのニーズはどこから生まれるのか?それは紛れもなく自分たちの生活の「当たり前」をそのまま持ち込む観光客だろう。
訪問者として、まずは、現地の自然環境とそれに合った行動を観察することを大切にしたいものだ。
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