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第122回 「ウィシュマ事件」とミラ・センター(ノルウェー)


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「姉のウィシュマは、治療を受けていたら、35歳になって今も生きています。救急車を呼ぶこともしなかった卑劣な入管行政。その恐ろしさは言葉では言い尽くせません」

8月7日、参議院議員会館101号室。33歳で亡くなったスリランカ人・ウィシュマ・サンダマリの妹ワヨミは、怒りを込めた言葉でそう訴えた。もう1人の妹ポールニマも言った。

「こんなむごい人権侵害を国家機関が実行したことに、日本のみなさんは目をつぶっているのですか」

ウィシュマは、日本語学校の学生だったが、学費を払えず退学となって学生ビザが切れた。ある日、同居していたパートナーの暴力に耐えかねて警察に駆けこんだ。暴力におののき、(授業料の)お金も取られ、中絶もさせられた。

ところが警察は、DV防止法にのっとって彼女をDVシェルターに連絡するどころか、名古屋入管へ送った。監禁されて体調を崩した彼女は、点滴や入院を要望したが応じてもらえず、非業の死を遂げた。

「ウィシュマ事件」は、2019年9月、オスロで訪問したミラ・センターを思い出させた。その壁に貼ってあったポスターが今日の1枚だ。

同センターは、ノルウェーの移民難民女性からありとあらゆる相談を受け、彼女たちが自立できるようにサポートする。パキスタンからの移民ファークラ・サリミが、30年前、マイノリティ女性への偏見打破と人権擁護を求めて設立した。現在、フルタイムの有給職員7人が月〜金の9時から16時まで働く。弁護士や学者研究者等がボランティアで周辺を固める。ここへの問い合わせは、年2万件を超す。

ポスターには、「内なる痛み—虐待に国の違いはない」とある。DV被害の女性たちが、お互いに励ましあい、力をつけて自立への道を歩む。それをセンターは見守る。ファークラは、さらにこう続けた。

「私がノルウェーに来た70年代、外国人は投票も立候補もできませんでした。外国人参政権は、私たち移民の運動が闘い取ったのです。センターの重要な役割は、マイノリティの女性たちが、参政権を使いこなして政治力を身につけることなのです」

ノルウェーの法律には、3年以上住んでいて永住権を持つ外国人には地方参政権がある、とある。この改正は1983年のことだった。

今では全政党の代表をミラ・センターに招待して、政策討論会を催す。ほぼ全ての政党党首がこの一室にやってくる。こんな国だったら、“ウィシュマの悲劇”は絶対に起きなかっただろう。

(三井マリ子/「i女のしんぶん」2023年9月10日号)

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