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「銚子丸とサケベース。」

2023.2.16

今の店舗に移ってからは、鮨職人と共演の構想を膨らませていた。 最高の鮨に合わせて、僕が最適な日本酒を選ぶ。 多くの人にスペシャルな鮨体験を届けることができたら、鮨と日本酒の距離はぐーっと縮まるのではないか。 そしたら、鮨と日本酒はもっと身近な存在になれるのではないかと信じている。 それは、たまにしか会わない恋人のような関係ではなく、夫婦のような関係性だ。 鮨と日本酒、その絆を辿ると江戸時代から固く結ばれてきた。 江戸っ子は屋台で鮨を嗜み、日本酒を味わっていたそうだ。 葛飾北斎の浮世絵に鮨と日本酒が登場するのが、その証拠なのだ。 それにしても一体、いつからなのだろうか。 鮨と日本酒の夫婦関係に亀裂が生じてしまったのは。 昔は誰しもが認める相思相愛の関係性だったのにも関わらず。 今は町鮨でもビールが主流だし、予約のとれない鮨屋でも白ワインが台頭してきている。 回転すしチェーンでも日本酒の注文は殆どない。 このままだと、鮨と日本酒のイメージは完全に消え去ってしまうのではないかとの危機感を抱いている。 僕は祈祷師のように鮨と日本酒を復縁させたいと考えているのだ。 その時に浮かんできたのが、銚子丸の存在だった。 僕が銚子丸と初めて出会ったのは小学6年生の頃。千葉市に引っ越してきたのだが、近所には銚子丸が店を構えていた。 母のいつもの口癖は「100円鮨も銚子丸も値段は変わらない」。 その哲学は確実に親から子へと引き継がれ、僕も友人にその魔法のような言葉を使ってしまっている。 実際、僕も回転すしチェーンでは銚子丸しか利用していない。 給料日前なのにも関わらず、「100円鮨も銚子丸も値段は変わらない」という言葉が浮かび上がってくるのだけは勘弁してもらいたいが(笑)。 実際には銚子丸は100円鮨ではないので、勘定は少しだけ高くはなってしまう。 しかし、店を出た後の幸福感が圧倒的に違うのだ。 「幸福感×価格」のコストパフォーマンスで考えた場合、銚子丸の右に出る者はいないと思う。 そんなこともあり、僕は銚子丸にコラボ企画を依頼したのだ。 お断りされると予想していたが、快諾いただけたことは予想外中の予想外だった。 それに、銚子丸の職人は劇団員と呼ばれている。 その点も今回の企画とは相性が良い。 僕たちは対話型の店づくりを理念に掲げている。 規模感は違えど、エンターテイメント性を追求する同志である。 それに加えて、鮨屋は格式高く、日本酒について聞きにくい雰囲気が漂っている。 町鮨の職人は「俺の鮨に集中してほしい」と言う。 そんなこともあり、僕はエンターテイメント感覚で「鮨×日本酒」を追求することを宣言する。 江戸時代の屋台鮨は気軽に鮨と日本酒を堪能し、「粋」に触れていた。 だから、今を生きる人達にも現代の「粋」を体感してもらいたいのだ。 日本の素晴らしい食文化の「粋」が失われ、後退してしまう悲しい未来だけは避けたい。 銚子丸一座の劇団員と僕たちで伝統文化や食文化の発信ができたらと考えている。 今回は「鮨下駄・木桶の醤油・赤酢」の三種の神宝と鉄板ネタでおもてなしをする。 背伸びしすぎることなく、美味しい鮨と日本酒をそれぞれの趣向と創意工夫をちりばめて。 へいおまち!

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