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「米の原価」

2023.5.18

日本酒の味は値段には比例しない。 最高の誉め言葉として日本酒ファンのあいだで用いられている。 実際、そのくらい酒蔵は本醸造から純米大吟醸まで妥協せず、全ての醸造工程と向き合っている。 しかし、同じ醸造酒であるワインとの価格差には開きが生じているのも事実だ。 そして、ワインと価格設定を合わせる必要性がないことも理解している。 私はこのような価格差が生じている理由については日本酒業界で仕事をする立場として発信していく必要性があると感じていた。話を前に戻すと、ワインは評判のものであれば、750mlで3000円以上するのが一般的だ。 これに加えて、ワインは市場評価で価格が更に高騰したりもする。 それに対して、消費者は不満も抱いていない。 一方で、日本酒は1500円前後で720mlの高品質なものが購入できる。 その販売環境なのにも関わらず、販売価格が2000円を超えてくると高価だと言われてしまう。 しかしなぜ、ワインよりも醸造工程や発酵期間などを要するのにも関わらず、日本酒の価格のほうが圧倒的に安価なのだろうか。 不思議な感覚になっている人も多いと思う。 更に加えると、日本酒は原料米を精米するので、葡萄のように一粒まるごと使用することはできない。 私は日本酒が現状の価格なのは、日本酒業界以外の影響も受けているからだと考えている。 酒蔵が現状の価格で製造を続けられるのには理由があり、それには「米」が関係している。 これは簡単な話で、原料米が格安に入手できることに他ならない。 流石は米の国という感じである。 その米の国で生まれ育った日本人は米がないと生きていけない。 国は国民に対し、安定して米を供給できる体制を整えて価格の安定化を図った。 こうして国民は主食の心配をすることなく、腹を満たせるようになった。 これ自体は素晴らしいことなのだが、米の買取価格は下降傾向にあることも問題視されている。 買取価格が下がれば、農家が割を食うことになる。 それなのにも関わらず、米農家が農業を継続できているのには理由があり、政府の減反政策により米農家の生産量が減少したとしても国から補助金が出るという点が挙げられる。 米農家は地方議員にとっては票田という側面もあり、米の輸入の自由化や新規就農を認めることはできずに手立てがない状況だ。 話しは逸れたが、ワインの醸造家たちは葡萄の栽培も一貫して行っており、栽培にかかる経費をワインの販売価格に自然と上乗せした。 それは当然のことなのだが、日本酒の世界では酒蔵と米農家は分業化されており、酒蔵は酒を造ることだけに専念してきた。 米農家は国からの補助金が支給されるので、酒蔵に対して希望買取額に達さなくても、お金には困らない制度となっている。 また、酒蔵も米を安価に仕入れられるため、日本酒の価格を上げる必要性がない。 私は競争のない産業は淘汰されてしまうのではないかと懸念している。 農業にも様々な農法が存在し、競争することでより良い社会を創る。 私は日本の基幹産業こそ、新規参入者の流入が必要だと思う。 そして、酒蔵側も米を少しでも高く買い取ることで農家の収入を安定化させ、国の負担を減らす必要があると感じている。 日本酒の値段が向上する未来に農業の革新が存在するのだと思う。

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