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「七本鎗」

2023.3.7

まだ、関西アルプスの山々には雪が降り積もっている、春寒の侯。 琵琶湖を周遊する旅に出掛けたら、素敵な出会いがありました。皆様は「七本鎗」と聞くと、何を思い浮かべますか? 恐らく、多くの人は「賤ヶ岳の七本鎗」を連想したのではないでしょうか。 それは、戦国時代の「賤ヶ岳の戦い」で功名をあげた7人の武将のことを指します。 賤ヶ岳は現在の滋賀県長浜市に位置し、1583年に勃発した戦の舞台となりました。 それが「賤ヶ岳の戦い」です。 「本能寺の変」後、羽柴秀吉と柴田勝家が争い、織田勢力を二分する激しい戦となったそうです。 これに勝利した秀吉は亡き織田信長が築き上げた体制や地位を継承し、天下人への第一歩が切り拓かれました。 秀吉側の武将として功名をあげた7人の名前は、「脇坂安治・片桐且元・平野長泰・福島正則・加藤清正・糟屋武則・加藤嘉明」と伝えられています。 その「七本鎗」の名を冠した銘柄を醸す蔵が、滋賀県長浜市の北国街道沿いにあります。 冨田酒造の創業は1532年、現当主で15代目となる老舗です。 また、風情のある母屋は国の登録有形文化財にも指定されています。 そして、冨田酒造は「賤ヶ岳の戦い」よりも昔から酒造りを続けていることを知り、その歴史の長さに驚愕しました。 歴史の重みを感じさせる銘柄、そして蔵の雰囲気は心に響くものがあります。 蔵の歴史が長ければ長いほどに、その時代を生きた人々の聲が蔵には刻まれていると思います。 柱や漆喰の白壁はレコードのような役割を担い、まるで、時の流れを再生してくれているかのようです。 他にも、北大路魯山人が湖北地域に滞在していた際に冨田酒造の13代当主との交流があり、その関係で北大路魯山人の篆刻を用いた「七本鎗」の看板や「酒猶兵 兵不可而不備」の書が現存しています。 ちなみに、この書は「兵も酒も備えを欠かしてはならない」という意味合いとなり、魯山人先生の遊び心が蔵からは漂ってきます。 もし、フレンチと「七本鎗 無有」のマリアージュを、お眼鏡にかなう皿と酒器で嗜んでいたらと想像すると、私は胸を高鳴らせてしまいます。 先生が御存命であれば、15代目蔵元のことを子供のように可愛がったことでしょう。  「時代は変わる」。 それによって、「価値観も変わる」。 もしかすると、そんな概念ですら世の中には存在しないのかもしれません。 いつの時代もシンプルコーデが愛されてきたように、「白Tシャツ×デニム」は定番です。 私たちはイノベーションや革新に憧れを抱きがちですが、心が揺さぶられる瞬間はアップデートしていないことにも気付かされます。 そして、美しき山々や清流を眺めたときに人は感動し、時に涙します。 価値観は時代の速い流れに押し流されているようにも思いますが、基礎的な部分は何ひとつも変わっていないようにも感じます。 それを証明しているのが、冨田酒造の存在です。 なぜなら、戦国時代に生きた人も、北大路魯山人も、Z世代の私も、銘酒「七本鎗」を愛しているからです。 冨田酒造は491年間、愛され続けたから「今」があります。 そして、15代目蔵元は土地を愛し、地に根ざし、未来に繋いでいくことを目標にしています。 「変わらない」ことを尊重する雰囲気を感じました。


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