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剣菱の社長

2022.9.6

剣菱の家訓である、「止まった時計でいろ」。 2022年8月31日―。 剣菱の社長に会うまで、その意味について深く理解していなかった。 僕はベンチャー企業の社長として立ち止まるという概念が今までなかったこともあり、立ち止まり、静観することは未来に対する諦めなのではないかとも感じてしまっていた。 剣菱の社長と話せたことは、自分の人生においても大きな転機となったことは間違いない。 剣菱の社長の哲学である「流行を追い、流行についていこうとすると1歩の遅れが生じる。 そして、遅れている時計は、1日に1度として時間が合わさることはない。 しかし、止まっている時計は1日に2度、ぴったりと時間が合う。 だからこそ、自信を持てる事業を守り続けていく」。 この意味について、深く理解し、頭の片隅に置いておくことで、大きな壁に直面した時の打開策になると確信するほど、剣菱の社長から紡ぎ出される言葉は重く、本質的だった。 そして、会話が進んでいくうちに創業500年を超える老舗酒蔵と一般的な企業の違いは「失敗」の数が圧倒的に違うことに気が付いた。 実際に、剣菱の社長に「100年企業とベンチャー企業の相違点」についての質問をすると、「大きな違いは特にないが、失敗の数だけは違う」と答えてくれた。 確かに、「お客様を満足させる」という点では、100年企業もベンチャー企業も目標は全く変わらない。 Apple社のiPhone、剣菱酒造の剣菱、屋台商のラーメン、社風や規模感は違えど、「お客様を満足させる」という点では違わないはずだ。 愚直にサービスの向上を目指し、妥協なき商品を世に送り出す。 この点を忘れてしまった企業は社会の一員として失格だと思う。 剣菱酒造の誇りは、500年以上も「味を変えない。ゴールから逆算した酒造り」を追求し続けた点にある。 その過程での失敗を糧にしてきた歴史が魅力になっているのだと気が付いた。 長い歴史のなかで剣菱は何度も危機的な状況に陥ったそうだ。 酒造家の交代や幾多の戦争、阪神淡路大震災などを経験し、剣菱ブランドが途絶える危機的状況も、先代たちは知恵と情熱で乗り越えてきた。 いつの時代も失敗を修正し、謙虚な心で成功を目指す。 失敗を糧に変えることが出来たら、圧倒的な強みとなる。 そして、剣菱の社長に「新型コロナウイルスの脅威」についての質問をすると意外な答えが返ってきた。 それは、「向かい風の時は何をしても意味がない」ということ。 実に剣菱の社長らしい答えだという感想と、経営者として背筋が正される思いを抱いた。 その理由について詳しく聞くと、「動いたから勝算がある」、「前に進んでいる感覚に浸れる」、「何かしていると気が紛れる」ということが、手段の目的化になってはいないだろうか。 この言葉を剣菱の社長からのエールだと受け取った。 「情勢を見極め、時期を待つ」。 嵐が過ぎ去ったタイミングで最高のスタートを切れるように準備しておく。 僕も26歳となり、経営者の年齢としては普通の年齢になりつつあることに焦りを覚えていたのかもしれない。 しかし、それはお客様にとっては全く関係のないこと。 これからは真っ当な仕事を心掛け、正直な商売を約束していけたらと覚悟を決めた。

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