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爽やかさと懐かしさを併せ持つ作品。

神奈川県藤沢市に活動の拠点を置く、ガラス作家の山崎雄一さん。ガラス作品からは初夏の湘南に吹き抜ける爽やかな風を想起させるような印象と、在りし日の光景が浮かんでくるような懐かしさを感じさせてくれる。写真が趣味の若者に好まれそうな、昭和レトロな喫茶店の「プリン・ア・ラ・モード」が似合いそうな雰囲気を作品から感じられることもあってか、懐古の情が湧いてくるのだろう。ちなみに「プリン・ア・ラ・モード」発祥の地は神奈川のホテルニューグランドで終戦後に考案されたそうで、山崎さんのガラス作品との縁を感じずにはいられない。きっと、神奈川の歴史と豊かな自然環境がガラス作品にインスピレーションを授けたのだろう。クラフトビールを暑い夏の日にグラスに勢いよく注ぐのも最高だ。湘南の海を目の前にして友人と語り合いながら、乾杯したら一生の思い出になること間違いなし。山崎さんの手掛けるガラスには少しだけ厚みを残していることから、耐久性に優れていて手に馴染むという機能性を兼ね備えている。これは優しさと気遣いが作品に表れている一例であると実感する。山崎さんが工房で話してくれた内容のなかに「普段の暮らしで気兼ねなく使えるように」という説明があったことからも、作り手の性格は作品に写しだされることに気が付いた。山崎さんは最初に知り合ったときから、ひとつひとつの作業が丁寧であると感じた。工房で見学しているときも他の職人と比べていると、ひとつの作品を制作するために時間をじっくりとかけるタイプの職人である。工房での仕事が流れ作業にならないように気を配りながら、自らの最高傑作を隣に置いて同じものを生み出すという心持ちで制作と向き合う。丁寧に工程を終えていくという言葉が相応しい。山崎さんの印象について作業を手伝う助手の作家さんに質問をすると「丁寧な仕事で、誠実な人」という答えが返ってきた。筆者も仕事を見学している時に同じことを考えていたので、まさにその通りであると共感していた。ひとつとして同じものは生まれないからこそ、目の前の作業に集中する姿勢は職人の心得として忘れてはいけない感覚なのだろう。たくさんの物で世の中は溢れてしまっている飽和状態だからこそ、作品を生み出す責任について考えられる人に評価が集まる時代なのかもしれない。作品と製品の性質の違いについて明確に分かった気がする。灼熱のガラスは1300度の熱。マグマのようなドロドロとした液体を職人は変幻自在にコントロールする。灼熱の環境のなかで涼しげな表情で、爽やかな作品を生み出す、山崎さんはまるで魔法使いのようだった。

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