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アルコール添加の日本酒

アルコール添加をしている日本酒の世間での印象はすこぶる悪い。悪酔いするという感覚やメチルアルコールが入っていると勘違いし、購入しないお客様だっているほどだ。あえて強調すると本醸造や普通酒が悪酔いするという科学的根拠は存在せず、メチルアルコールに対しても製造出荷したことが判明したら行政処分の対象となるため、日本酒にメチルアルコールが入っていることは絶対にない。たしかに、かつての日本社会ではメチルアルコールを混ぜた粗悪品が出回っていたことがあった。第二次世界大戦中の日本の闇市ではメタノールが含まれた密造酒の製造が行われており、こうした飲料を摂取した結果、失明者や死者が出ていたそうだ。その誤解が普通酒や本醸造に変換され、噂として広まった。三倍増醸清酒という存在もアルコール添加の日本酒の印象を更に悪くしてしまった感は拭えない。三倍増醸清酒とは第二次世界大戦前後の米が不足していた時代、より多くの醸造アルコールを添加し、3倍の量の酒を造ることから三増酒と名付けられた。戦後に米不足が解消されると同時に三増酒を廃止して特定名称酒などに切り替えることが出来たはずだが、酒造メーカーは利益だけを貪欲に追求した結果、三増酒を売ることを辞めることしばらくは出来なかった。また、醸造アルコール以外にも甘味を補足するために糖類や酸味料を添加していたため「ベタベタとした甘すぎる酒」として、日本酒が美味しくないという印象を付けてしまったのだ。このように三増酒やメチルアルコールを混ぜた粗悪品の存在が醸造アルコールを悪者にしてしまい、江戸時代初期からのアルコール添加という伝統的な酒造技術が否定されてしまう状況となっている。私は1945年に終戦してから79年も経過し、平和な時代が訪れて誰もが美味しい食事にありつけるようになったのだから、アルコール添加の日本酒の魅力も語られるようになっても良いのではないかと考えている。醸造アルコールは主にサトウキビを原料として発酵させた純度の高いアルコールである。通常、醸造アルコールは大手アルコールメーカーが製造しており、それを酒造メーカーが仕入れて日本酒に添加している。私はアルコール添加の日本酒が価値として認められるためには、この部分を見直していく必要性を感じている。主にサトウキビは南半球の南米などで栽培されている作物であり、醸造アルコールの原料も輸入に頼っているのが現状だ。国酒でもある日本酒の原料が国内で調達の難しい原料を使用している点には違和感を覚えてしまう。日本酒の役割として伝統文化を継承していく側面もあるのだから、酒造メーカーは日本酒の歴史的背景を深く理解して、酒造りを行っていくことで付加価値を創造できるのだと考える。例えば、酒粕にはアルコール分が残っているので、これを蒸留によって抽出することで醸造アルコールを生成する。それを日本酒に添加することで本醸造を造る。日本酒業界では副産物として生まれる酒粕の使い道には手を焼いていると聞く。前年の酒粕を蒸留して醸造アルコールとして保存しておき、翌年の酒造りで本醸造の原料として使用する。これであれば、すべて米と水と菌だけでの酒造りが実現する。そして、これによりアルコール添加の歴史的な価値と酒質的にも導入する意味が生まれてくる。ひと手間を加えることで、何百年も酒蔵が紡がれてきた歴史を酒造りで表現できるのではないかと考える。それが日本酒の新たな付加価値を創れるのではないかと大きな期待を寄せている。これからも表面的な言葉に惑わされることなく、日本酒の持つ潜在的な価値を探っていきたい。

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