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『全然殺伐としないデスゲーム』が出来るまで

「全然殺伐としないデスゲーム」とは、漫画アプリ「GANMA!」で連載中のほのぼのギャグ漫画であり、私、酒本さけの連載デビュー作である。
この記事では「全然殺伐としないデスゲーム」、略して「全然デス」の誕生秘話を綴る。

ツイッター漫画の流行

遡る事2019年…。
連載企画のボツが続き悩んでいた私は、ふとある事を思いついた。

「そうだ。ツイッターにショート漫画を投稿してバズらせよう。」

RT数やいいね数の圧倒的な数字をひっさげて、企画を通りやすくする作戦だ。

2019年はいわゆる「ツイッター漫画」と呼ばれる、4ページほどで完結するショート漫画が流行しだした頃である。
個性的なキャラや魅力的なストーリーを、短いページ数の中にぎゅっと詰め込んだ、なんとも贅沢な形式の漫画だ。

今でこそツイッター漫画は受け入れられているが、以前はキャラありきのストーリーよりも、無個性なキャラによる単発ネタの方が伸びやすい傾向にあった。

私が今までツイッターに投稿してきた4コマはその典型的な例である。
特に設定のない「猫ちゃん」というキャラがひたすらボケ倒す4コマを投稿していた。

大前提として、ツイッターは漫画投稿サイトではない。


漫画好きが集まっている訳ではなく、誰もが利用するただのSNSに過ぎないのだ。
そんな環境下において、リツイートなどで流れてくる漫画に対してわざわざ画像を開いてまで「読んでやろうか」いう気分にさせるには、
前知識がいらずサラっと読める「新聞4コマ」のような立ち位置の漫画にする必要があった。

そんな必要性を「ツイッター漫画」がぶち壊したのである。

ツイッター漫画の特徴の1つとして「○○が○○した話」といったキャプションが用いられることが挙げられる。
否でも目に入るキャプションで漫画の内容を予め説明することで、漫画を読む前に強制的に「前知識」を植え付けることが出来るのだ。
映画の予告のように、前知識を植え付けられると内容が気になってくる。
ツイッター漫画最大の発明はこの「思わず読んでみたくなるキャプション」にあるといえるだろう。

そして、このツイッター漫画の流行が何をもたらしたかというと、出版社によるショート漫画家の発掘である。

ツイッターに漫画を投稿 → バズる→ 出版社から声がかかり連載化決定

という流れを頻繁に見かけるようになった。

何気なくSNSに投稿した漫画が連載化され漫画家デビューする者が続出する、漫画家志望者にとっては夢のような時代が到来したのである。
もともと私はツイッターをメインに漫画を投稿していたため、この流れに乗らない手はないと思った。


研究の開始

今まで単発4コマを投稿してきた自分にとって、キャラやストーリーが評価されるツイッター漫画を描く事は新たな挑戦であった。
右も左も分からない私は、まずは、バズっているツイッター漫画の研究から始めることにした。
研究に必要なのはやはりデータ。データはいくらあってもいい。大量に欲しい。

自分でもバズ漫画の収集をする一方、友人らに協力してもらい、見かけたバズ漫画をひたすら共有してもらった。

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集めたバズ漫画は、作成したテンプレートに基づきデータ化していった。
以下はそのテンプレートと、記入例である。

●テンプレート

キャプション:
URL:
RT: いいね:
ページ: ジャンル: 続編:
内容:
備考:

●記入例

キャプション:全然殺伐としないデスゲームのギャグ漫画
URL:https://twitter.com/sake_n/status/1125736408830726146
RT:5.1万 いいね:14.6万
ページ:4 ジャンル:ギャグ・ほのぼの 続編:あり
内容:ストリートチルドレンが拉致され密室に集められた。きっと死んでも困らない世の中のはぐれ者を使って趣味の悪いデスゲームが始まるのだろう…そんな風に思っていると主催者の声が響き渡る。「国算社理…お前らには毎日ここで強制的に数時間の勉強をしてもらう…フフ地獄だろう」それは学校に行けず友達もいない少年少女たちにとって超都合のいい条件だった。主催者、ただのいいやつでは…?
備考:テンポのいいギャグと、誰も不幸にならない世界観


データの集計と考察

データが50件集まったところで、ジャンルの統計を行った。
以下はデータをもとに作成したジャンルランキングである。

●ジャンルランキング(調査ツイート数:50)
※括弧内は続きが作られている数

ラブコメ18(13) 片思い10(8)
           両想い8(5)
萌え12(6)
ギャグ7(3)
ほのぼの6(6)
RPG4(4)
家族4(3)    血縁アリ2(2)
          血縁ナシ2(1)
社畜3(3)
感動3(1)
異世界転生3(3)
ペット2(1)
TS1(1)
共感1(0)
フェチ1(0)
デスゲーム1(1)
BL1(0)
擬人化1(0)
エッセイ1(0)
ホラー1(1)


次に、データをもとに考察を行った。
考察内容は「バズ漫画の条件」である。
以下はバズ漫画に共通する点を洗い出し、箇条書きにしたものである。

●バズ漫画の条件
実際の例を交えて紹介したいところだが、引用とはいえ勝手に漫画を掲載するのもアレなので、控えておく。

・ギャップ萌え

 → 可愛い、格好いい、綺麗など、良いイメージなのに中身が残念
  例:クールキャラなのに実はオタク趣味がある
 → 怖いイメージなのに実はやさしい
  例:気が利く幽霊

・尊い関係性
 → 同じようなやり取りを何度も見たくなる感じ

・続きがありそうな感じ
 → 第1話感がある

・一発ネタや、キャラよりギャグ自体が評価されているタイプの作品は、続きが作られづらい
 
→バズっても連載化に繋がらない
 →単発4コマはこれ
 →ギャグは他ジャンルと組み合わせるとキャラが立ち、続きが作られやすい

自分の好きなものを描いている
 →「こういう関係性あったらいいなあ」など、作者の好きなものが漫画に反映されている

・作者の体験談
 →作者の体験がキャラやストーリーに反映されている
 →社畜系は作者が社畜を経験していることが多い。

・絵が丁寧

・意外性のある設定・展開

・分かりやすい設定や題材

・情報量はシンプル
 →1話4ページ以内が多い

・読者が応援したくなるようなキャラ

・ラブコメは最後のページで赤面する

・漫画の内容を説明しているキャプション
 →「〇〇が〇〇した話」「〇〇が〇〇する漫画」など

・不幸にならない
 →ほのぼのとしていたり、暗い話でも救いがあったりする


全然デス誕生

ジャンル的にはラブコメ萌え漫画が強いことが分かったが、私はギャグしか描けないので、ギャグでいくことにした。

・一発ネタや、キャラよりギャグ自体が評価されているタイプの作品は、続きが作られづらい
 →バズっても連載化に繋がらない
 →単発4コマはこれ
 →ギャグは他ジャンルと組み合わせるとキャラが立ち、続きが作られやすい

しかし、バズ条件的には単発4コマの時のような勢いだけのギャグでは、バズったとしても連載化は厳しいことが分かった。
他ジャンルと組みあわせるにしても、ランキング上位のラブコメや萌え漫画は自分には描けない。
ならば、ギャグに次いで人気の「ほのぼの」と組み合わせるのが良いのではないかという結論に至った。

では、キャラやストーリーを活躍させるための「漫画の内容」はどうするか。
これを考える際に私が着目したのはこの条件だ。

・不幸にならない
 →ほのぼのとしていたり、暗い話でも救いがあったりする

「不幸にならない」
これは50件のデータすべてに当てはまっていた条件だった。

つまり、バズ漫画の必須条件である。
ほのぼのとの相性もいいため、これを突き詰めれば最強のバズ漫画を作れるかもしれないと感じた。

・ギャップ萌え
 → 可愛い、格好いい、綺麗など、良いイメージなのに中身が残念
  例:クールキャラなのに実はオタク趣味がある
 → 怖いイメージなのに実はやさしい
  例:気が利く幽霊

さらに、条件でいうと「怖いイメージなのに実はやさしい」も相性がいい。
オチで不幸にならないことが確定しているからだ。
メインキャラは怖いイメージがあるものに決定した。

では、怖いイメージがあるものといえば何か。
幽霊… 不良… 無表情なキャラ…

この手のキャラはやり尽くされている。
もっと他の条件とも組み合わせて考えてもいいかもしれない。

自分の好きなものを描いている
 →「こういう関係性あったらいいなあ」など、作者の好きなものが漫画に反映されている


「自分の好きなもの」
かつ「怖いもの」



デスゲームだわ。

こうして生まれたのが「デスゲームなのに不幸にならない」というテーマ。

「全然殺伐としないデスゲーム」の誕生である。


結果


ありがたいことにめちゃくちゃバズった。
企画もすんなり通った。

ここまで研究しておいて、もしウケなかったら…
と思うと超不安だったので、ウケて本当に嬉しかった。


ということで「全然殺伐としないデスゲーム」は漫画アプリ「GANMA!」にて絶賛連載中!!

電子書籍は3巻まで発売してます!!!

ぜひ読んでみてください!!!!


おまけ


私のweb漫画処女作は「不幸マン」という、「他人の不幸を肩代わりする能力」を持ったヒーローが主役の4コマ漫画である。

ツイッターに投稿している単発4コマは「オチでいかに不幸させるか」という考えのもと作っており、全然デスとは正反対である。

「不幸」をどう料理するか、私の作品作りは全てそこから始まっているのかもしれない。







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