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「ちいかわ」を見て母の優しさを思い出す

 イラストレーター・ナガノさんの大人気漫画「ちいかわ」に関して私はあまり知識がない。TwitterのTLにたまに流れてきては、ストーリーの流れを無視して読んで「は?」となるだけの存在だった。しかし。

 その人気の絶大さから、こちらから積極的に関わろうとせずとも「ちいかわ」のキャラクターのグッズやアニメが否応なく目に入ってくる。初めの頃は容赦なく視界に入ってくるその流行を疎ましく思っていたが、心を病んでいる昨今、徐々にこの「なんか小さくてかわいいやつ」等(ら)に心を奪われてしまっている。

 こんな感じでコラボ商品を見つけるとつい買っちゃったりしている。とはいえこれから漫画を追っかけようみたいな気持ちはないのだが、「ちいかわ」という作品の、単なる“癒し系”で終わらず、労働を課せられていたりそれぞれの能力によって処遇が変わったりと見た目に反してダークな内容に世間の注目が集まっているという現象がとても興味深い。

 そんな興味深い「ちいかわ」の中でも、「ちいかわ構文」の一つである『泣いちゃった!』(ハチワレ)は、作品を読んだことがなくてもセリフだけは聞いたことあるという人も多いのではないだろうか。

 私は最近そのハチワレ構文が出てくる漫画↑を見たのだが(画像検索で引っかかっただけだからストーリーの前後は未だ知らない)、構文になっているハチワレのセリフの次のコマに、私は強く惹きつけられた。

壮絶なちいかわの泣き顔

 おそらく、「討伐」に向かった2人(ちいかわとハチワレ)の前に現れた敵(?)に対し、ハチワレは勇猛果敢に攻めていったのに対し、不器用で勇気のないちいかわは恐怖心をひた隠しにして頑張ってはみるものの空回りするばかりで、敵と対峙する恐怖にプラスして、自分の不甲斐なさやハチワレとの力の差に心底情けなくなって涙がとめどなく溢れてしまったのだろう。2コマ目の号泣しているちいかわが思い浮かべてるハチワレと自分の姿が勇ましいことも、現実との対比で切なさを加速させる。

 このコマで凄いなと思ったのは、ちいかわの表情ももちろんだが、泣いてしまったちいかわに対するハチワレの優しさだ。泣き顔を見た時のコマのセリフは「泣いちゃった‼︎‼︎」なのに対し、ちいかわに優しく声をかけるコマのセリフは「どうしたのー」「こわかった?」という、かなり間の抜けたものだ。「どうしたのッ」「大丈夫⁉︎コワかったッ?」とかではなく。この間の抜けた優しいセリフが、私の昔の記憶を引き出した。どういうことかというと、ハチワレのセリフが私の母親の声で再生され、号泣しているちいかわは、幼い頃の私自身と重なるのだ。

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 私は学校であった嫌な出来事とかを誰にも言わずに1人で抱え込む性格だった。実際それは今も続いているし、その昔からの(精神衛生上)良くない慣習を治そうとリハビリ真っ最中なのだが。しかし、子供の頃のヤワな精神ではついに耐えきれなくなり涙がポロポロ溢れることもあった(それは今もだけど)。子供ながらになるべく親に悟られないようにとしていたが、母の前で思わずちいかわの様に堪えていたものが溢れてしまった時に、母親はそれこそハチワレのごとく「どうしたのー」や「何かあった?」と、泣いてる私に多少驚きながらも、優しく言葉をかけてくれた。そして私が胸の内を明かすと、漫画のラスト2コマのように美味しいご飯を食べさせてくれたり、面白いテレビを一緒に見たりして徐々に心が穏やかになっていったのを覚えている。

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 そんな記憶を喚起されるので、このコマを見ると思わず涙腺が緩んでしまう。当時の母親の優しい声を思い出して泣いてしまう。その後もいろいろなんやかんやあって、母親との関係は複雑になってしまった。ちょうど良い距離感、付かず離れずの関係性を望むが(むしろうちの場合は全く離れ離れになってたまに連絡をとるぐらいが理想なのだが)、それもなかなか状況的に難しい。過去にあったいざこざが原因で私の方が神経質になりすぎているというのが現状だ。しかしちいかわを見て昔のことを思い出し、そんなに神経質にならなくてもいいのかなと、少し心を改める気持ちになった。過去に慰めてもらった恩返しをいずれ出来たら、それは素晴らしいことだと思う。

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