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局アナやりながら、毎年、本を出すワケ

 「本業」という言葉も、時代にマッチしないかもしれないが。スポーツ中継の実況アナウンサーが「本業」という自己意識はある。野球中継は概算で600試合を喋ったことになる。
 一方で、活字である。2023年、8冊目の著書「生涯野球監督 迫田穆成、83歳最後のマジック」(ベースボールマガジン社)を出版した。
 うーん。なぜ、活字媒体なのか・・・
 今、目の前で起こることを、即時描写て伝えていく。専門的な技能である。ニュース原稿であれ、フリートークであれ、現象を迅速に伝えることはできるが、残らない。(まれに、心に残る話し言葉を操る匠もいるが)
 そうだ。「残したい」と思える人や言葉に出合えるようになったからこそ、その考えを綴りたいという気持ちが起こる。
 その極みが、42歳で現役を続けるバスケットボール 広島ドラゴンフライズ朝山正悟選手である。

取材を受ける朝山氏(左)と筆者

 「困難があったとき、逃げてはいけない。受けて立つ」
 「できるできないではない。やる責任がある」
 「怪我から復活できるかどうかではない。復活すると、決めた」
 キャリア20年の彼の言葉は、バイブルのようであり、経典のような響きを持つ。字面を並べれば、抽象の度合いは残りそうなものだが、朝山の場合は違う。短いセンテンスが、強烈なエピソードを引き連れてくる。
 ヘッドコーチがシーズン途中で解任。朝山は現役主力選手でありながら、指揮官の責務を兼任した。睡眠時間は3時間だった。
 ファンサービスを徹底するあまり、試合時間より、サイン時間の方が長かったことがある。
 どれも、強烈な浪花節である。それでいて、その言葉に余計な湿度はない。実況の描写に織り込むには、あまりにもカロリーが高い。
 そこで、活字の登場だ。この4月に「轍学(てつがく)朝山正悟人生のルールブック」(ベースボールマガジン社)を発売する。濃厚な言葉の数々は、ドラゴンフライズの選手たちも心待ちにしてくれている。
 煮詰めても、煎じ詰めて・・・
 時間を経ても朽ちない言葉と出合う度、残したいという欲求に駆られる。そして、自分自身の「実況道」は逸れていく。

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