あなた


「行ってらっしゃい」「おかえり」

 今でも耳に残っているその言葉の音を、頭の中で何度も繰り返して、深呼吸をして毎朝家を出て、毎晩家に帰ります。



「行ってきます」「ただいま」 

 あなたの前に座り手を合わせれば、あなたが行ってしまったという現実にまた連れて行かれて、合わせた手と閉じた瞼は震えて。

また会うことの出来る寂しさと、もう二度と会うことの出来ない寂しさはこんなにも、こんなにも違うと言う事実が、重たく、のしかかってくる。 

 明日で1ヶ月が経ちます。家はいつも何処か寂しく、祖母はあれから毎日日記をつけ、毎日涙を流しています。あなたの居ない世界で今、わたしたち家族は生きるのに必死で、わたしはどうやって生きていけばいいのか、とか、どうやって眠って居たんだろう、とか。本当に自分は今のままでいいのか、とか、訳もなく焦ったり。そんなことを考えては、夜眠れなくなったりしています。音の無くなる瞬間が、何故だか怖くて仕方なくなってしまいました。

 お構い無しに、目まぐるしく過ぎていってしまう日々に、わたしのこころはいつまでも追いつけずにいます。けれど、追いつける日は来なくていい。いつまでもこの気持ちが無くならないように。 


 ただ、また、声を聞きたかったです。

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