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トイレ掃除に安心して穢れを知る

結構、シモ(表題の感じ)の話ですので注意。

以前、わたしと違う人しかいないということを書いたが、今回は、おんなじで安心したということを書きます。

最近、職場でトイレ掃除をすることがあった。
一週間交代のはずなのに結構汚れていたのは、前の人の怠慢なのか一週間でつく汚れは思っているよりもガッツリあるということなのか、わかりかねる。トイレ掃除は初めてじゃないので、前者かもしれない。
アルコールを染み込ませたトイレットペーパーで、力を入れて陶器の肌を拭く。それは、思いの外楽しかった。そもそも水拭きが好きなんだと思う。キッチンでも食前のテーブルでも、目に見えていた汚れを力で落とし切ることの気持ちよさ。煩わしい汚れが、無かったことになる安心。

同時に、同じ大人でも、同じように汚すし汚れるのだな、と何故かホッとしたのが、トイレ掃除をした二週間前。

自分だけが他人と違うのかもしれないとコンプレックスに思う思春期が、わたしにもあった。垢抜けている同級生のむだ毛が薄かったり、使用後の化粧室からいい匂いがしたりすると、どうしてか別世界の人のように思った(当時は努力という可能性を考えられなかった)。
例えば、魅力的なキャラクターの体毛は薄いかほとんどなく、ナイスバディな描写が多いということや、あるいは当時のオタク文化の中にある「貧乳キャラはそれを恥ずかしがっている」という紋切り型のキャラ造形によって、いっそうコンプレックスは加速した。
ちなみに、こういう思いをしたことが、「わたしでいるために」を作る源にもなった。「他人」なんてたくさんいるのに、自分より美しく創作映えする人が「他人」になり変わって、特に垢抜けない自分を「他人」になれないと責める。1人きりで生きていたら、自分について何にも思わなかっただろうに。

創作について今思えば、作者の理想が込められているのだから、物語へ直接関係ない個性はノイズとして除去されるのは、当然といえば当然だ。耳の形が変でも、体毛の範囲が広くても、体の重心が後ろに偏っていても、物語に関係がなければ描写しないのがベターだということは、物書きの端くれなので、今なら理解できる。少女漫画のヒーローに、わざわざ胸毛はあったとしても描かれないだろうし……というのは、考えてちょっと面白くなった。

こうして書いてみると、思春期の自分は、容姿のコンプレックスというよりは、「自分は汚れた存在である」という自身の穢れへの嫌悪という部分が大きかったように思う。
失恋やいじめ、家庭内の不和など、些細で月並みな程度の挫折を経て、それらのフラッシュバックがあるたび、「死んじゃえばいいのに」と繰り返し唱えて自転車のペダルを強く漕いだ14歳から20歳の自分は、どうしたら幸せにできるだろうか。わたしがかく物語でハッピーエンドを目指すのは、救出のためでもあるかもしれない。

ごめんなさい、さらに直接的な表現をします。穢れの意識が薄まったのは、大学生の時だ。友達が「いいうんこしたら家族に見せたくならない?」という話題で盛り上がっていた。他にも、下品なカルチャー(比喩表現)を言葉や制作物として表出しては、涙が出るほど笑っている人たちだった。
きっかけがどれとは言えないが、奴らはとにかく真面目じゃなく、タブーがなく、排泄をして性欲も存在する堂々とした人間だった。きっと他人は概ねそうだったのに、知らなかった。わたしにとって初めての「人間」との出会いだった。上品とは決して言えないわたしの大学時代は、誰にも切り売りしたくないほど、わたしを救った。

わたしにとって欠点は、仲良くなるきっかけではなく、ずっと、隠さないといけない急所だった。急所を見せていい人は、近くにいる人だけ。だから今も、人と仲良くなるまで時間がかかってしまう。急所じゃなくてを単なる事象として「あーここ修理しようと思ってもできないんですよねー」「この凹み、デフォルトでこういう仕様なんですわ」みたいに、欠点を受け入れられている人が好きで羨ましくて、眩しくて仕方がない。わたしの生真面目さも、思考の癖も、凹みを隠しながら運転しようとするところさえ、事象として受け入れられたら楽なのにね。

話は逸れるが、現職は今年で3年目になります。「ブラックだと聞いていたから、内定をもらった学生時代から頻繁に病んでいた」し、「自分には力がない、至らないことばかりで苦しい」「年相応に実力をつけられているか不安だ」というのが仕事への通年の思いだが、同期にそれらをいうと共感よりも驚かれることがあるので、まあこうも思考の癖というのは個人差があるのかとわたしも驚いている。思考の癖から受ける二次障害が大きすぎる。仕事自体は夢中になれて心から感動できる瞬間が多くて、結局そこそこ楽しんでいるのに、欠点と思っているところを隠そうとしながら生活するのに無理が祟っている。とはいえ、いじられる・いじるが苦手なのも、克服しなくていいはずの標準装備な気もするが。

とりあえず、性質や人間的な匂いは欠点でもなんでもないし、生き物は等しく糞尿をしますということで、元気にいきましょう。

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