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言葉が世界を紡いでいく

国語の先生が昔おっしゃっていた老婦人のお話をふと思い出した。
せっかくの機会だし、素敵な話だったので書き記そうと思う。

彼女は中学校を卒業すると、その後高校には進学することはなく、社会に出て結婚し子供を産み、その子供を育て上げた。

彼女は自分の人生に満足していたものの、唯一心残りがあった。

それはもっと勉強をしたかった、もっと色々なことを学びたかったということである。

時代が時代だったこともあり、結局高校に進学することのなかった彼女だが、胸の奥には、自分も高校で学びたかったという思いが残り続けた。

月日が流れ子供達も立派な社会人になった頃、彼女は「あの時に諦めた、高校で学ぶ夢を叶えたい」という思いから高校進学を決意し入学を果たす。

当然、年齢的には俗に言う高校生とはかけ離れてはいたものの、かつての夢を叶えるために進学した彼女の学びへの熱意は人一倍であった。

そんな彼女が高校生活を送っていたある日の夕方、ふと見上げた赤い空がいつもより綺麗に見えた。

その空は彼女がこれまでの人生で見上げてきた空と何ら変わりはないだろう。  

しかし、彼女は高校に通い様々な本に触れる中で学んだ数多の言葉によって世界をこれまでよりはるかに豊かに捉えられるようになっていたのである。

これまでは言葉で捉えることの出来なかった世界が、学ぶことによって言葉で表せるようになった。

その言葉は彼女の目の前の世界を紡ぎ上げ、はるかに美しく豊かなものにしていったのである。

この話は子供を育てあげてもなお、学びへの情熱を忘れなかった老婦人への敬意だけでなく、言葉そして学びが世界を紡ぎ上げていくのだという、言葉の尊さ・学び続けることの大切さを教えてくれるエピソードとして僕の心に深く刻まれている。

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