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「ビューティフル」再販に寄せて

 ご無沙汰しております。
 拙作「ビューティフル」の上演台本を再販して頂くことになりました。ロシアによるウクライナ侵攻が背景にあります。収益については全額を在日ウクライナ大使館へ寄付いたします。
 詳細な経緯と私からのコメントは画像をご覧ください。

 脚本と私の思うところについて少しばかり補足させて頂きます。

 2018年3月〜2019年9月の間、快晴プロジェクトという劇団に所属していました。本作は脱退間際の2019年夏に、劇団として参加した東京学生演劇祭のために書き下ろしたものです。
主演・宇野工太郎役には座付俳優の磯尚太郎さんを起用しました。劇団主宰で演出家の長谷川と大学の裏にある蕎麦屋で蕎麦をつつきながら、起用したいとの旨を話したことを覚えています。自身の家族について話したのもその時でした。
 曽祖父は第二次世界大戦の際に従軍し、ビスマルク海戦(ダンピールの悲劇とも)において亡くなっています。戦地に赴いた際、曽祖母は私の祖母を身篭っていて、亡くなったのはその祖母の初節句の日でした。幼少の頃、何かの紙に記された「二等兵 阿久津界」の文字と生前の写真を見せられながら経緯を聞いたことを覚えています。祖父の名前が記された紙はいやに古びていました。
 蕎麦屋からの帰り道、自宅の方面が同じだった私と磯さんの2人で話していて磯さんがふと「そっか、戦争ってもう3世代前のことなんだよね」と言いました。元号はまもなく平成から令和に変わる頃でした。その頃、私たちにとって戦争は近くて遠い話でした。
 そういえば。「ビューティフル」の公演最終日の前日夜に台風が首都圏を直撃し、千秋楽は公演中止になりました。私は一向に動かない満員の中央線の中でお客様対応に追われていました。6年演劇をやっていて公演中止なんて初めてのことでした。まだコロナ禍の前です。
 コロナ禍がはじまりました。私自身、舞台制作として(補足すると制作とは公演全般の運営や票券、経理等を担うセクションです)として関わらせて頂いた外部劇団の公演を2回、中止の進言をすることになりました。また昨年8月には脚本を提供させて頂いた公演も中止の判断がなされました。
 「不要不急」という言葉はきっと戦争とちょっと近いところにあって、その中で演劇も淘汰されていきました。演劇やめようかとも思いました。でも演劇のない生き方がわからないひとだったから、続けました。演劇があるから私は、演劇という営みでどうにかこうにかやらなくちゃいけなかった。あえて言うならこれが私の戦いで、それは死ぬための戦いじゃなくて生きるための戦いです。

 ロシアがウクライナへ侵攻を始めた日、「第三次世界大戦」の文字がTwitterのトレンドで踊り、ニュースや新聞で知らされる惨状に多くの人々が不安に包まれたかと思います。私もそのひとりです。だれかが、「コロナが終わればまた演劇が出来ると思っていた」そんなことを言っていました。それだけは避けたい、それだけは避けなければならない。
 コメントで触れた通り、東京学生演劇祭での好評でカクシンハンの木村龍之介氏より「(平和のために)演劇が出来ることはまだたくさんある」との言葉を頂きました。
 私は長谷川に電話をかけました。

「ビューティフルの台本を売ろう」

 作品のあらすじについては添付画像の通りです。近くて遠い戦争に思いを馳せる今の私たちと、図らずも多くの共通点のある作品です。
 お手にとっていただければ幸いです。

 末筆ですが、戦地の人々に1日も早く平和が訪れることを祈念いたします。

オトズレ主宰
詩人・脚本家・演出家
坂本 樹

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